短編
※高校生で2人は同じクラス。
※4月の後半くらい。
「基山君って格好良いよね!」
別に聞きたかったわけじゃない。
ただ、覚えのある名前が聞こえたから思わず耳を傾けてしまっただけだ。
「優しいし、頭もいいし、運動も出来るし」
「しかも真面目で、クラス委員までやってくれて、でも謙虚だから嫌な感じがしない!」
「確かサッカー部だったよね?」
「そう!シュートを撃つところがまた格好良くて!」
「何て言うかもう、ただ走ってるだけでも格好良いよね!」
盛り上がっていく女子達とは対照的に、俺の気分は急下降して行った。
“ただ走ってるだけで格好良い”?
サッカーやるやつなんか、キーパー以外みんな走るじゃないか。
俺だって、そうだ。
ああ、何でこんな気持ちにならないといけないんだろう。
ただ名前すらあやふやな女子に気に入られているというだけのことなのに、何だか妙にモヤモヤして、ムカついた。
◇◆◇
4時間目は体育の授業だった。
入学したての俺達はお決まりの体力テストをやらされている。
今日はまず100m走のタイムを計るらしい。
走る順番は名前順。
もしかして、いやもしかしなくても俺はヒロトと走ることになるのか。
「1コース風丸、2コース基山」
ほらやっぱり。
適当にストレッチをしながら、適当に走るか、何て考えていたら、隣に並んで立ったヒロトが言った。
「ついにこの日が来たね、風丸君」
「……は?」
この日?今日は何かあったか?
思い出そうとしてみる俺を置いてヒロトは言葉を続ける。
「俺さ、負けず嫌いなんだ」
「はあ」
そんなこと知らないし別段興味もない。だからどうした。
その思考を読み取ったのかどうなのか、ヒロトは結論を言った。
「俺、この100m走で本気出すから」
「……馬鹿だろ」
正直な感想だった。
何でたかが体育の授業で本気を出すんだ。
……いや、そこでさっきの“負けず嫌い”が出てくるのか。
俺に負けたくないと?そしてそのためにこの日を待っていたとでも言うのか?
意味がわからない。大体にしてなんで俺。
「位置について」
体育委員の号令とともにスタートラインに手をついた。
ヒロトの話はまだ続いていた。
「最初から本気を出すわけじゃないよ。出すのは最後の直線だけ」
「よーい」
声に反射的に腰を上げるが、意識は完全に隣のヒロトに持っていかれていた。
「どうしてだ?」
聞いたのは、ただの好奇心。
俺は別に張り合おうとは思っていなかった。
けれどヒロトは、笑った。
「風丸君が、友達だから」
友達だから、負けたくない。
そう言って笑うヒロトの顔は、円堂が強い相手とサッカーをする前に見せる、わくわくしている時の笑顔によく似ていた。
「どん!」
体育委員が勢いよく手旗を振り上げると同時に、地面を蹴った。
俺はヒロトと並んで走った。
“本気を出すのは最後だけ”と言った割には結構速い。
まあ、ヒロトのことだ。普通に走っても速いんだろう。
別に競わなくたって遅いわけじゃない。
それでもあえて、しかも元陸上部のこの俺に挑戦しようなんていい度胸じゃないか。
「ヒロト」
「え?」
隣を走るヒロトに声をかけた。
仮にも負けたくないという相手との勝負の最中に返事どころか視線までよこすなんて、随分と余裕じゃないか。
ヒロトはいつもそうだ。
何をやらせても、余裕そうな顔をして、軽々とこなして、やってのけるんだ。
そこが気に入らないと思うことがないわけでもない。
せっかくの機会だ。
その余裕、崩してやるのも悪くない。
どうせ勝負を挑んできたのは向こうなんだから、別にいいよな?
「……俺も結構、負けず嫌いなんだよな」
一瞬驚いたヒロトは、少し嬉しそうに、またさっきの笑顔を浮かべた。
多分、俺も似たような顔をしてるんだろうな。
最後のカーブを曲がり終えた時、ヒロトが吼えた。
「うぉぉおおおおお!!!!!!」
俺はその声と共に隣に並んだヒロトを見てスピードを上げた。
これでカーブのハンデはなしだ。
ただの直線20メートルで全てが決まる。
サッカーはどっちかと言えば持久戦だ。
だから、瞬間的とは言え全力を出すのは久しぶりだった。
そして、誰かと本気で速さを競うのも。
……ああ、久しぶりに陸上部に顔を出してみようかな。
きっと今は3年生として宮坂が頑張ってるんだろうな。
「負けた~!」
立ち止まると同時に膝から崩れ落ちて地面に手をついたヒロトは、本当に悔しそうにそう言った。
正直、俺にはどっちが勝ったのか判らなかった。
それほどまでに俺達はほとんど並走していたし、ゴールの瞬間もそうだった。
それをしっかりと判定出来るヒロトは、やっぱりすごいんだと思う。
「俺の負けだろ」
「え?」
「お前が俺に何も言わずに本気を出してたら、追いつこうとして本気を出してもお前は抜けなかった。正々堂々勝負をしたお前の勝ち」
「あはは、面白いことを言うね。でも、結果的には風丸君の勝ちだ。負けたよ」
確かに勝ったはずなのに、やっぱり勝ったような気がしないのは間違いなくこいつのせいだ。
結局俺は、ヒロトの余裕な表情を崩せなかったんだ。
「風丸、基山!」
体育教師が俺達の名前を呼んだ。
「2人とも、すごく速いじゃないか!もう一度、今度は最初からちゃんと全力で走ってくれないか!?」
その言葉に俺達は顔を見合せてから、笑顔で言い切った。
「「絶対、嫌です」」
◇◆◇
「何か凄い噂になってるぞ2人とも」
「また陸上部からの勧誘断らないといけなくなるかもな。あ~無駄なことした」
「で、ヒロトは?」
「購買」
昼休み、教室にやって来た円堂と一緒に弁当を食べていると、どうやら噂になってしまったらしく、なんだか無駄に注目を浴びるようになってしまっていた。
ただでさえ2年前のエイリア事件だのFFIだのでちらちらと視線を感じることはあったというのに、これじゃあ自滅じゃないか。
ああ、本当に無駄なことをした。
「風丸君!」
責任なんてこれっぽっちも感じていないだろう当事者が帰ってきた。
そしてその姿がまた注目を集めるには十分すぎるほどだった。
「ヒロト、どうしたんだそのパンの量……」
「あ、円堂君!これはね、勝者へのご褒美だよ!ということで好きなの選んで、風丸君!」
どさどさどさっ、と大量のパンを俺の机に問答無用で落とされた。
「一応全種類買ってきたから、好きなのを好きなだけ持って行っていいよ!」
「いいな~」
「円堂君も好きなだけどうぞ」
「やった!」
「……一つでいい」
「そう?じゃあ後は持って帰って夕飯にするよ。作る手間が省けて多分晴矢も喜ぶと思うし」
何と言えばいいのか、コイツの一番凄いところはこういうところだと思う。
にこにこと笑いながらとんでもないことをやってのける。
「……やっぱり、敵には回したくないタイプだよな」
「?何か言ったかい?」
「いや、何も」
でも、味方にすれば頼もしいことはよく知っている。
ヒロトと友達になれてよかったかもしれない、なんて。
……まあ、本人には言うことなんてないだろうけど。
という夢を見たんだ!(リアルに)
こんな夢をうっかり見ちゃった自分は素晴らしいと思うんだ!(何)
書いててなんだか「赤ちゃんと僕」を思い出しました。
だって藤井君と拓也でこうやって競争する話があったんだもん!
そうだよ、上級生相手に一緒に喧嘩して仲良くなればいいんだよね!
ああ赤僕また読みたいな。どこにあるんだろう(何)
そしてこの話のその後を妄想してみたらなんだか染→吹→風→ヒロ→←円になっていきました。
風丸さんだけ報われないという。どういうこと。
最近風ヒロに目覚めてきた。風介さんじゃないよ!(わかるよ)
とりあえず無駄な設定。
・出席番号順で風丸の真後ろに基山。
・円堂は結構遠いクラス。
・3TOPは3人暮らし。家事は晴矢の担当(強制的に)。
・吹雪と豪炎寺は隣のクラス。染岡は円堂と同じクラス。
それしか決めてない。
高校生、楽しいね!
とりあえずこのトリオが本当に大好きです。
なんとなくヒロトが嫌いな風丸さんが一緒に過ごす内に認めていくっていうのがたまらない、という表れかと。
何度でも言う。
円堂とヒロトと風丸のトリオが大好きです。
>>2011.2.12
※4月の後半くらい。
「基山君って格好良いよね!」
別に聞きたかったわけじゃない。
ただ、覚えのある名前が聞こえたから思わず耳を傾けてしまっただけだ。
「優しいし、頭もいいし、運動も出来るし」
「しかも真面目で、クラス委員までやってくれて、でも謙虚だから嫌な感じがしない!」
「確かサッカー部だったよね?」
「そう!シュートを撃つところがまた格好良くて!」
「何て言うかもう、ただ走ってるだけでも格好良いよね!」
盛り上がっていく女子達とは対照的に、俺の気分は急下降して行った。
“ただ走ってるだけで格好良い”?
サッカーやるやつなんか、キーパー以外みんな走るじゃないか。
俺だって、そうだ。
ああ、何でこんな気持ちにならないといけないんだろう。
ただ名前すらあやふやな女子に気に入られているというだけのことなのに、何だか妙にモヤモヤして、ムカついた。
◇◆◇
4時間目は体育の授業だった。
入学したての俺達はお決まりの体力テストをやらされている。
今日はまず100m走のタイムを計るらしい。
走る順番は名前順。
もしかして、いやもしかしなくても俺はヒロトと走ることになるのか。
「1コース風丸、2コース基山」
ほらやっぱり。
適当にストレッチをしながら、適当に走るか、何て考えていたら、隣に並んで立ったヒロトが言った。
「ついにこの日が来たね、風丸君」
「……は?」
この日?今日は何かあったか?
思い出そうとしてみる俺を置いてヒロトは言葉を続ける。
「俺さ、負けず嫌いなんだ」
「はあ」
そんなこと知らないし別段興味もない。だからどうした。
その思考を読み取ったのかどうなのか、ヒロトは結論を言った。
「俺、この100m走で本気出すから」
「……馬鹿だろ」
正直な感想だった。
何でたかが体育の授業で本気を出すんだ。
……いや、そこでさっきの“負けず嫌い”が出てくるのか。
俺に負けたくないと?そしてそのためにこの日を待っていたとでも言うのか?
意味がわからない。大体にしてなんで俺。
「位置について」
体育委員の号令とともにスタートラインに手をついた。
ヒロトの話はまだ続いていた。
「最初から本気を出すわけじゃないよ。出すのは最後の直線だけ」
「よーい」
声に反射的に腰を上げるが、意識は完全に隣のヒロトに持っていかれていた。
「どうしてだ?」
聞いたのは、ただの好奇心。
俺は別に張り合おうとは思っていなかった。
けれどヒロトは、笑った。
「風丸君が、友達だから」
友達だから、負けたくない。
そう言って笑うヒロトの顔は、円堂が強い相手とサッカーをする前に見せる、わくわくしている時の笑顔によく似ていた。
「どん!」
体育委員が勢いよく手旗を振り上げると同時に、地面を蹴った。
俺はヒロトと並んで走った。
“本気を出すのは最後だけ”と言った割には結構速い。
まあ、ヒロトのことだ。普通に走っても速いんだろう。
別に競わなくたって遅いわけじゃない。
それでもあえて、しかも元陸上部のこの俺に挑戦しようなんていい度胸じゃないか。
「ヒロト」
「え?」
隣を走るヒロトに声をかけた。
仮にも負けたくないという相手との勝負の最中に返事どころか視線までよこすなんて、随分と余裕じゃないか。
ヒロトはいつもそうだ。
何をやらせても、余裕そうな顔をして、軽々とこなして、やってのけるんだ。
そこが気に入らないと思うことがないわけでもない。
せっかくの機会だ。
その余裕、崩してやるのも悪くない。
どうせ勝負を挑んできたのは向こうなんだから、別にいいよな?
「……俺も結構、負けず嫌いなんだよな」
一瞬驚いたヒロトは、少し嬉しそうに、またさっきの笑顔を浮かべた。
多分、俺も似たような顔をしてるんだろうな。
最後のカーブを曲がり終えた時、ヒロトが吼えた。
「うぉぉおおおおお!!!!!!」
俺はその声と共に隣に並んだヒロトを見てスピードを上げた。
これでカーブのハンデはなしだ。
ただの直線20メートルで全てが決まる。
サッカーはどっちかと言えば持久戦だ。
だから、瞬間的とは言え全力を出すのは久しぶりだった。
そして、誰かと本気で速さを競うのも。
……ああ、久しぶりに陸上部に顔を出してみようかな。
きっと今は3年生として宮坂が頑張ってるんだろうな。
「負けた~!」
立ち止まると同時に膝から崩れ落ちて地面に手をついたヒロトは、本当に悔しそうにそう言った。
正直、俺にはどっちが勝ったのか判らなかった。
それほどまでに俺達はほとんど並走していたし、ゴールの瞬間もそうだった。
それをしっかりと判定出来るヒロトは、やっぱりすごいんだと思う。
「俺の負けだろ」
「え?」
「お前が俺に何も言わずに本気を出してたら、追いつこうとして本気を出してもお前は抜けなかった。正々堂々勝負をしたお前の勝ち」
「あはは、面白いことを言うね。でも、結果的には風丸君の勝ちだ。負けたよ」
確かに勝ったはずなのに、やっぱり勝ったような気がしないのは間違いなくこいつのせいだ。
結局俺は、ヒロトの余裕な表情を崩せなかったんだ。
「風丸、基山!」
体育教師が俺達の名前を呼んだ。
「2人とも、すごく速いじゃないか!もう一度、今度は最初からちゃんと全力で走ってくれないか!?」
その言葉に俺達は顔を見合せてから、笑顔で言い切った。
「「絶対、嫌です」」
◇◆◇
「何か凄い噂になってるぞ2人とも」
「また陸上部からの勧誘断らないといけなくなるかもな。あ~無駄なことした」
「で、ヒロトは?」
「購買」
昼休み、教室にやって来た円堂と一緒に弁当を食べていると、どうやら噂になってしまったらしく、なんだか無駄に注目を浴びるようになってしまっていた。
ただでさえ2年前のエイリア事件だのFFIだのでちらちらと視線を感じることはあったというのに、これじゃあ自滅じゃないか。
ああ、本当に無駄なことをした。
「風丸君!」
責任なんてこれっぽっちも感じていないだろう当事者が帰ってきた。
そしてその姿がまた注目を集めるには十分すぎるほどだった。
「ヒロト、どうしたんだそのパンの量……」
「あ、円堂君!これはね、勝者へのご褒美だよ!ということで好きなの選んで、風丸君!」
どさどさどさっ、と大量のパンを俺の机に問答無用で落とされた。
「一応全種類買ってきたから、好きなのを好きなだけ持って行っていいよ!」
「いいな~」
「円堂君も好きなだけどうぞ」
「やった!」
「……一つでいい」
「そう?じゃあ後は持って帰って夕飯にするよ。作る手間が省けて多分晴矢も喜ぶと思うし」
何と言えばいいのか、コイツの一番凄いところはこういうところだと思う。
にこにこと笑いながらとんでもないことをやってのける。
「……やっぱり、敵には回したくないタイプだよな」
「?何か言ったかい?」
「いや、何も」
でも、味方にすれば頼もしいことはよく知っている。
ヒロトと友達になれてよかったかもしれない、なんて。
……まあ、本人には言うことなんてないだろうけど。
という夢を見たんだ!(リアルに)
こんな夢をうっかり見ちゃった自分は素晴らしいと思うんだ!(何)
書いててなんだか「赤ちゃんと僕」を思い出しました。
だって藤井君と拓也でこうやって競争する話があったんだもん!
そうだよ、上級生相手に一緒に喧嘩して仲良くなればいいんだよね!
ああ赤僕また読みたいな。どこにあるんだろう(何)
そしてこの話のその後を妄想してみたらなんだか染→吹→風→ヒロ→←円になっていきました。
風丸さんだけ報われないという。どういうこと。
最近風ヒロに目覚めてきた。風介さんじゃないよ!(わかるよ)
とりあえず無駄な設定。
・出席番号順で風丸の真後ろに基山。
・円堂は結構遠いクラス。
・3TOPは3人暮らし。家事は晴矢の担当(強制的に)。
・吹雪と豪炎寺は隣のクラス。染岡は円堂と同じクラス。
それしか決めてない。
高校生、楽しいね!
とりあえずこのトリオが本当に大好きです。
なんとなくヒロトが嫌いな風丸さんが一緒に過ごす内に認めていくっていうのがたまらない、という表れかと。
何度でも言う。
円堂とヒロトと風丸のトリオが大好きです。
>>2011.2.12
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