短編
※夏→円秋前提
夏未さんは守くんのことが好き。
そんなこと一目見れば、いいえ、見なくたってわかったわ。
だって好きでもない人の為に生活すべてを投げだしてまで、今までずっと死んでいたと思われていた、しかも自分自身は一度も会ったこともないおじいさんを探しになんて行けるはずがないじゃない。
わたしだったら絶対無理よ。お父さんと離れたくないもの。
でもわたしが見る限り、守くんはどうも秋さんとの仲の方が良好みたい。
だったらここまでしてくれている夏未さんは一体何?
「……愛人?」
『ちょっと、聞いてるの?』
「あ、ごめんなさい!」
電話越しの声を聞いていたせいで余計なことを考えてしまったわ。
慌てて謝ると、呆れたようなため息と共に再確認される。
『……それで、本当にそこで合っているのよね?』
「子供の頃の曖昧な記憶だけど、多分……」
夏未さんが聞き出したいのはわたしの中にある、守くんのおじいさんが残した最後の秘伝書の記憶。
けれど、つい最近思い出したばかりのわたしの記憶でもはっきりとした場所はわからなかった。
彼女の役にちゃんと立てない。
落ち込むわたしを励ますのは、やっぱり彼女だった。
『それなら大丈夫よ。後はこちら側でなんとかするから』
彼女の心強い言葉を聞くと、安心できる。
もともと統率力があって、リーダーなんかに向いているんだろう。
今までも何度か電話をもらう度に調子はどうか、なんて気遣ってくれたりもした。
それまでわたしと話したことなんて全くないと言ってもよかったくらいなのに。
彼女がわたしを気遣ってくれた理由がわたしの封じ込めた記憶の中にあったとしても、わたしはその気遣いが嬉しかった。
だからわたしは彼女を好きになってしまったのだろう。
だからこそ気になるのは彼女と守くんの関係。
夏未さんのことが好きだ好きだと思う度に気に掛かってしまう。
だから、どうしても聞かずにはいられなかったのも、仕方ないでしょう?
答えはわかっているはずなのに。
「……夏未さんは守くんのことが好きなのよね?」
『なっ……!何を言いだすのよいきなり!』
顔を見なくたってわかるほどうろたえている夏未さん。
ああ、顔を真っ赤に染めて可愛いんだろうな。
目の前にいるときに聞けばよかった。
そんな後悔をしていると、夏未さんの不安そうな声が聞こえた。
『……あなたも、円堂君のことが好きなの?』
「あなた“も”、なんて。夏未さんって隠し事苦手なのね」
『……だって、本当のことだもの』
からかい半分で笑ったら、予想していたのと違う反応が返ってきた。
『あなたの言う通り。私は、円堂君のことが好きよ』
わかっていたけれど、改めて言われると、胸が苦しい。
ああ、わたし、本当に夏未さんのことが好きなんだな。
なんて、自分のことをどこか遠くに考えてみる。
そうでもしないと、泣き出してしまいそうだったから。
「……でも守くんは秋さんと仲がいいみたいよ」
電話越しに夏未さんが息を呑むのが聞こえた。
わたし、意地悪だな。
こんなこと言ったって、傷付けるだけなのに。
でも、予想外なことに夏未さんは笑って言った。
『秋さんはいいのよ。“お互い円堂君とどんな関係になろうと恨みっこなし”って、約束しているんだもの』
ああもう本当に、自分が嫌になる。
どうして夏未さんも秋さんもこんなに優しくなれるのかな?
同じ相手が好きで、競い合ってるんじゃなかったの?
その叶いたくなかったはずの約束が今果たされようとしているのに、どうして夏未さんは笑っていられるの?
どうして、どうしてわたしじゃないんだろう。
わたしだったら、夏未さんを悲しませるようなことなんて絶対にしないのに。
どうして、守くんなんだろう。
どうして。
◇◆◇
「フユッペー!」
電話を切ってからどれくらい経ったかな。
守くんがわたしを呼ぶ声が聞こえる。
ずっとこんなところにいたから、探してくれたんだと思う。
「お!居た!……って、何泣いてるんだ!?」
見た目でわかるくらいに動揺してるのがよくわかる。
どうしていいのかわからずにおろおろしている守くんを見て、なんだか笑えてしまった。
守くんは人一倍サッカーを愛する努力家で、いつだって誰にだって優しくて、そして誰をも笑顔にさせてしまうようなとても魅力的な人だった。
本当は夏未さんが守くんのことを好きになる理由がわからないでもないの。
わたしも昔は守くんのことが好きだったりしたもの。
今だって、他のみんなよりは少し特別。
でも、だからって、守くんを好きになった夏未さんが傷ついていいわけじゃない。
そんなことを思うのは、守くんからしてみたら理不尽に思えるかもしれない。
だけど。
「わたし、守くんには絶対負けたくないの!」
「は?」
やっぱりわたしにとって守くんは、誰よりも強力な宿敵なの。
同じ性別だから不利なんて、そんなことあるわけない。
だってわたしは誰よりも、夏未さんを愛している自信があるもの!
某企画サイト様で冬夏書いていらっしゃる素敵な方々がいらっしゃった。
幸せすぎてカッとなった。
反省どころか開き直るぜ!
冬夏もっともっと増えろ!!!!
冬→夏→円秋の構図がおいしすぎて困ります。
そんなお話。
ちなみにフユッペが泣いたのは夏未さんがいい人すぎるからです。
>>2011.1.14
夏未さんは守くんのことが好き。
そんなこと一目見れば、いいえ、見なくたってわかったわ。
だって好きでもない人の為に生活すべてを投げだしてまで、今までずっと死んでいたと思われていた、しかも自分自身は一度も会ったこともないおじいさんを探しになんて行けるはずがないじゃない。
わたしだったら絶対無理よ。お父さんと離れたくないもの。
でもわたしが見る限り、守くんはどうも秋さんとの仲の方が良好みたい。
だったらここまでしてくれている夏未さんは一体何?
「……愛人?」
『ちょっと、聞いてるの?』
「あ、ごめんなさい!」
電話越しの声を聞いていたせいで余計なことを考えてしまったわ。
慌てて謝ると、呆れたようなため息と共に再確認される。
『……それで、本当にそこで合っているのよね?』
「子供の頃の曖昧な記憶だけど、多分……」
夏未さんが聞き出したいのはわたしの中にある、守くんのおじいさんが残した最後の秘伝書の記憶。
けれど、つい最近思い出したばかりのわたしの記憶でもはっきりとした場所はわからなかった。
彼女の役にちゃんと立てない。
落ち込むわたしを励ますのは、やっぱり彼女だった。
『それなら大丈夫よ。後はこちら側でなんとかするから』
彼女の心強い言葉を聞くと、安心できる。
もともと統率力があって、リーダーなんかに向いているんだろう。
今までも何度か電話をもらう度に調子はどうか、なんて気遣ってくれたりもした。
それまでわたしと話したことなんて全くないと言ってもよかったくらいなのに。
彼女がわたしを気遣ってくれた理由がわたしの封じ込めた記憶の中にあったとしても、わたしはその気遣いが嬉しかった。
だからわたしは彼女を好きになってしまったのだろう。
だからこそ気になるのは彼女と守くんの関係。
夏未さんのことが好きだ好きだと思う度に気に掛かってしまう。
だから、どうしても聞かずにはいられなかったのも、仕方ないでしょう?
答えはわかっているはずなのに。
「……夏未さんは守くんのことが好きなのよね?」
『なっ……!何を言いだすのよいきなり!』
顔を見なくたってわかるほどうろたえている夏未さん。
ああ、顔を真っ赤に染めて可愛いんだろうな。
目の前にいるときに聞けばよかった。
そんな後悔をしていると、夏未さんの不安そうな声が聞こえた。
『……あなたも、円堂君のことが好きなの?』
「あなた“も”、なんて。夏未さんって隠し事苦手なのね」
『……だって、本当のことだもの』
からかい半分で笑ったら、予想していたのと違う反応が返ってきた。
『あなたの言う通り。私は、円堂君のことが好きよ』
わかっていたけれど、改めて言われると、胸が苦しい。
ああ、わたし、本当に夏未さんのことが好きなんだな。
なんて、自分のことをどこか遠くに考えてみる。
そうでもしないと、泣き出してしまいそうだったから。
「……でも守くんは秋さんと仲がいいみたいよ」
電話越しに夏未さんが息を呑むのが聞こえた。
わたし、意地悪だな。
こんなこと言ったって、傷付けるだけなのに。
でも、予想外なことに夏未さんは笑って言った。
『秋さんはいいのよ。“お互い円堂君とどんな関係になろうと恨みっこなし”って、約束しているんだもの』
ああもう本当に、自分が嫌になる。
どうして夏未さんも秋さんもこんなに優しくなれるのかな?
同じ相手が好きで、競い合ってるんじゃなかったの?
その叶いたくなかったはずの約束が今果たされようとしているのに、どうして夏未さんは笑っていられるの?
どうして、どうしてわたしじゃないんだろう。
わたしだったら、夏未さんを悲しませるようなことなんて絶対にしないのに。
どうして、守くんなんだろう。
どうして。
◇◆◇
「フユッペー!」
電話を切ってからどれくらい経ったかな。
守くんがわたしを呼ぶ声が聞こえる。
ずっとこんなところにいたから、探してくれたんだと思う。
「お!居た!……って、何泣いてるんだ!?」
見た目でわかるくらいに動揺してるのがよくわかる。
どうしていいのかわからずにおろおろしている守くんを見て、なんだか笑えてしまった。
守くんは人一倍サッカーを愛する努力家で、いつだって誰にだって優しくて、そして誰をも笑顔にさせてしまうようなとても魅力的な人だった。
本当は夏未さんが守くんのことを好きになる理由がわからないでもないの。
わたしも昔は守くんのことが好きだったりしたもの。
今だって、他のみんなよりは少し特別。
でも、だからって、守くんを好きになった夏未さんが傷ついていいわけじゃない。
そんなことを思うのは、守くんからしてみたら理不尽に思えるかもしれない。
だけど。
「わたし、守くんには絶対負けたくないの!」
「は?」
やっぱりわたしにとって守くんは、誰よりも強力な宿敵なの。
同じ性別だから不利なんて、そんなことあるわけない。
だってわたしは誰よりも、夏未さんを愛している自信があるもの!
某企画サイト様で冬夏書いていらっしゃる素敵な方々がいらっしゃった。
幸せすぎてカッとなった。
反省どころか開き直るぜ!
冬夏もっともっと増えろ!!!!
冬→夏→円秋の構図がおいしすぎて困ります。
そんなお話。
ちなみにフユッペが泣いたのは夏未さんがいい人すぎるからです。
>>2011.1.14
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