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短編

俺は昔から体が弱い。
少し動けば翌日には高熱にうなされる。

それを何度繰り返しても、何度怒られようとも、晴矢は俺をサッカーに誘うのをやめなかった。
俺の調子の悪い時は俺が寝ているベッドのそばに座ってつまらなそうにしては「早く元気になってサッカーしようぜ」なんて言ってくる。
その際、ずっとサッカーボールは放さない。
それくらい晴矢はサッカーが大好きだ。

確実に外でサッカーをしている友達に混ざって遊んだ方が楽しいだろうに、それでも晴矢は毎日俺をサッカーに誘いに来る。
それがいつも不思議で仕方がなかった。



だから、いつものようにベッドのそばに退屈そうに座っている晴矢に思い切って理由を聞いてみた。

「どうしてサッカーしに行かないんだ?」

その言葉に、晴矢は少し考えると全く違うことを聞いてきた。

「茂人、サッカー好きだろ?」
「え?まあ……」
晴矢に無理矢理連れ出されるようになって初めてやったサッカーは想像以上に難しく、その分リフティングが出来た時やパスが繋がった時、シュートが決まった時、特にチームが勝った時は嬉しさと喜びで満たされた。
結論を言えば、楽しかった。
だから俺は、サッカーが好きだ。

「……うん。好きだよ」
肯定すると、晴矢はさも当然と言ったように続ける。

「でもお前は、俺が誘わなきゃサッカーやらねえだろ」

その通りだと思った。
確かにサッカーをしていると楽しい。
けれど多分それはサッカーじゃなくてもいいんだろうとは思っていた。
野球でもバスケでも、何なら室内で出来る、あまり動かないで済む何かでも良かったはずだ。
それでもそれがサッカーなのは晴矢が誘ってくれるからだ。
晴矢がいるから、晴矢がサッカーだと言うから、サッカーなんだ。

「……確かに、誘われなかったら外にすら出ないかも」
「だろ?」


でもそれは答えにはなっていなかった。
確かに晴矢が誘わなかったら俺はサッカーをしていないだろう。
でもそれは俺がベッドで寝ていなければいけない時に晴矢がここにいる理由ではない。
晴矢が本当は今この瞬間だって飛び出してサッカーをしたがっていることは見ればわかる。

俺は晴矢の大好きなサッカーを奪いたくなんてない。
だから俺に出来ることは、晴矢が気兼ねなくサッカーが出来るように送り出すことだけだ。
……少し寂しくなるけど、仕方ない。
つまらなそうにしている晴矢に何も出来ないもどかしさに比べたらこのくらい、大したことじゃない。


「じゃあ、元気な時には晴矢の所に行くよ。でも今日は無理だから晴矢は――」
「俺がここに居たら、迷惑か?」

サッカーしに行ってもいいよ、と言おうとして、言えなくなった。
俺が言おうとしていたことが分かっていたようだ。

晴矢はいつになく真剣な目で俺を見つめる。
それを見て、余計にわからなくなった。
晴矢がどうして、俺のそばにいてくれるのか。


「……どうして?ここにいたって、晴矢が得することなんて何もないじゃないか。わからないよ!」
「茂人……」
わからない。晴矢はサッカーが好きなのに。
こんな所に一日いたって何も出来ないのに。
いつもつまらなそうにしているくせに!

「出てってよ。さっさと出てって、大好きなサッカーしに行けばいいだろ!?」
同情なんていらない。可哀相だから仕方なくついていてやる、なんて余計なお世話だ。


「茂人」
晴矢が困った顔で俺の名前を呼んだ。
その顔を見て後悔した。
感謝することはあれど、怒るなんてとんでもない。
晴矢は俺の頬に触れると、指の腹で撫でた。

「泣くなよ、茂人」
言われるまで気づかなかった。
いつから泣いていたんだろう。
晴矢が困っていたのは、そのせいだったのか?


晴矢は今度は俺の頭を撫でると、見たこともないような優しい顔で笑った。
「俺、茂人とサッカーするのが好きだ」
「う、うん……」
そう言われるとちょっと嬉しい。
俺も楽しいと、好きだと思っているから。
でもそれならやっぱり晴矢がここにいる意味にはならない。
そう思って晴矢の顔を見ると、晴矢は俺の言いたいことがわかったかのように続けた。

「だからさ、お前がいないとサッカーしててもなにか物足りないんだよ。そんな変な気分でやるよりは、茂人といる方がいい。やることなくてつまんないけど、どうせサッカーやるならやっぱり思いっきり楽しくやりたいだろ?」

そう言われて、なんだかやっとわかった気がする。
晴矢はただサッカーが好きなんじゃなくて、俺と一緒にするサッカーが好きだということだ。
サッカーよりも俺を取ってくれるくらいに、俺がいないサッカーをやりたくないんだ。


またそれに対しても「どうして」とも思うけれど、それよりも俺は晴矢がそう思ってくれたことが嬉しかった。
お前はいらなくなんかない、とでも言われたようだった。
実際、そうなのかもしれない。

嬉しくて、また涙が止まらなくなった俺の頭を晴矢はただ優しく撫でてくれた。



早く、元気になろう。
そしていっぱい、思いっきり晴矢とサッカーをやろう。
たとえその後倒れたって構わない。


……けれど、本当のことを言えば完全に元気になりたかった。
だって、そうしたら毎日晴矢とサッカーが出来るじゃないか。
俺達の大好きなサッカーが。

そんな日が来ればいいのに、と思わずにはいられなかった。




そしてその夢は、思っていたよりも早く訪れることになる。
『宇宙人』として行うサッカーは、思っていたような楽しいサッカーじゃなかった。
でも俺は、『ヒート』は、それでも構わないと思っていた。


晴矢と一緒に、同じチームで思い切り、倒れないサッカーを毎日できるのだから。




何このヤンデレエンド。

12月10日は茂晴の日!
……って、これヒバンじゃね?
3期の背番号の日なのに全くかすりもしなかったぜどういうこと。
とにかく元病弱幼馴染な公式イケメン最強すぎる。大好き。


>>2010.12.10

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