短編①
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「社長、レッドフォースの社長がいらしてます」
「・・・・断ったよね私」
「・・・・そうですね」
社長、30代後半の私。
社員、13名。
・・・・そんな小さい会社。
名前を言ってもそんなのあったっけ、くらいにしか思われない無名の化粧品メーカー。
そんなうちに、
何故だか超大手のレッドフォース株式会社の社長がうちに話しがあるという。
そんな電話が来たのが数日前。
でも私はその時丁寧にお断りをしたはずだった。
・・・・・それが何故。
私にどうしろと。
「・・・・居留守使って」
「いいんですか会わなくて」
「面倒なことに関わりたくない」
「でもあのレッドフォースの社長がじきじきに来てるんですよ!?」
「だからこそ嫌な予感しかしないし」
「・・・・と、おっしゃいますと」
「だってうちみたいな超弱小メーカーなんかと取引したって百害あって一利なしだよ?」
「・・・そこまで言わなくても」
「怪しすぎるでしょう!」
「犯罪の片棒担がされるとかですかね?」
「むしろ自分の手を汚さないように私だけ捕まる寸法よ」
ああ恐ろしい。
「ずいぶんな言われようだなァ」
「・・・・・・・・・・・え」
聞きなれない声にはっとして顔をあげれば、
そこに居たのはテレビか雑誌で見たことのある顔。
・・・・レッドフォース株式会社の社長と思われる。
「・・・・まさかいらっしゃるとは思いませんでした」
「なかなか返事がねェんでその辺の社員に聞いたら案内されたんでな」
・・・・誰だ案内したの。
「これは失礼致しました、準備が整っていなかったものですから」
「今忙しいようなら後日出直すが?」
今でも後日でも一緒だっつーの。
「シャンクス社長を奥の部屋へご案内して下さい。その後は仕事に戻るように」
さっきまで話していた社員に伝えると、
半笑いしながらシャンクス社長にどうぞ、と言って奥に案内した。
・・・・・どうしよう。
終わった、うちの会社。
明日から路頭に迷う13人の社員!?
・・・・そんなこと、させられる訳ない。
「ご案内しました、仕事に戻りますね」
「・・・・有難う」
「社長!ファイトです!」
「・・・・頑張ります」
・・・・私だって、これまでやって来た矜持がある。
簡単に潰させやしないんだからね!
「お待たせ致しました」
「ああ、突然すまないな」
まったくだよ。
と言いたいのを堪えて、
「本日は一体どういったご用件でしょうか」
あくまで何もなかったかのように振る舞う。
動揺したら負けだ。
絶対、守る。
「単刀直入に言わせてもらう。うちと共同開発しないか?」
「・・・・・化粧品を、ですか?」
「ここは化粧品の会社だったな?」
「そうですけど・・・・」
「今度男性向けの化粧品を販売したいと思っているんだ」
「それでうちのノウハウを頂きたいと?」
「簡単に言えばそういうことだ」
・・・・認めた。
「・・・・申し訳ありませんがそのお話しはお受け出来ません」
「理由は?」
私の拒絶に、シャンクス社長は嫌な顔1つすることもなく、
淡々と話しを進めていく。
「うちよりもっと大手さんの方が合うと思います」
「その根拠も聞かせてもらおうか」
「うちは御覧の通り小さい会社です。レッドフォースさんのような大手さんに合わせるのは難しいかと」
その逆もまた然り、なんだけどね。
「その辺は問題ない。そちらに合わせるつもりだ」
「・・・ですが」
「責任は俺が取る。何なら誓約書を書いてもいい」
あくまで引かないシャンクス社長に困惑。
もっとアッサリ諦めるかと思ってたのに。
「有難いお話しですが何故うちを」
「アンケート結果だ」
そう言って差し出された1枚の紙。
「・・・アンケート?」
「数少ない女子社員に化粧品のアンケートを実施した結果、貴社の物がダントツの1位だった訳だ」
「・・・・・うちがですか!?」
慌てて紙を確かめる。
・・・・確かにそこに書いてあったのはうちの名前。
落ち着け、これは偽装されたものかもしれないし。
そう簡単に上手い話しにのっちゃいけない。
「大変光栄なお話しでは御座いますが・・・当社は小さいなりに誇りをもって製品をお客様にお届けしております」
「そういうところも気に入って来たんだ」
「いきなり他社の方とお仕事をするのは社員のことも気がかりになりますので」
「だろうな」
「・・・すぐにお返事は致しかねます」
「まあ、1週間後までにくれりゃいい」
1週間。
それがうちの会社のこれからを決めるタイムリミット。
・・・・でも私にだって譲れないものはある。
「その前にお聞きしたいことが」
「何だ?」
「お返事がどうであっても・・・貴社と取引した結果がどうなろうと、当社の13人の社員に危害はないと約束を」
「・・・うちはそんな酷い会社だと思われてるのか」
さすがのシャンクス社長もこれには苦笑した。
「万が一の話しです。何があっても私には社員を守る使命があります。・・・ご理解下さい」
「わかった、約束しよう」
「・・・有難う御座います。では返事は1週間後に」
とにかく今日はこれが最良だ。
あとは皆と会議して、
「まあそれはともかくだ」
「え?」
これで終わるかと思いきや、シャンクス社長はにっこりと笑った。
来たな、と思った。
今までの勘からして、きっとここからが本音。
何を言われるかと覚悟して耳を澄ました。
「今日の夜一緒に飯でもどうだ?」
「・・・・・・・・・は?」
「予定あるか?なら明日でも、」
「夕飯・・・・ですか?」
「ああ、何でもいいぞ」
・・・・・拍子抜けした。
というか情けなくなった。
・・・・私の勘て当てにならないんだ。
「夕飯ご一緒するくらいなら・・・はい」
「仕事終わったらここに電話してくれ。楽しみにしてる」
シャンクス社長の名刺の裏に書かれた携帯番号。
「あ、はい・・・」
「それと、捕まる時は一緒だ」
「・・・・・・・・・げふん」
・・・・・爽やかに去って行ったシャンクス社長に赤面するしかなかった。
「えーアコ社長、シャンクス社長とディナーですかぁ!いいなぁ」
「・・・・良いの?」
よくわからないんだけど。
「だってイケメンだし優しいし評判ですよ!」
「とりあえず会社潰さないように頑張るね・・・」
「頑張ってハート射止めてきて下さいね!」
「・・・・・・絶対無理」
何せ本性見られてるんだから。
何言われるかわかったもんじゃないんだから!
何故だか憧憬の視線に見送られて、
私は会社を出た。
仕方なく名刺の裏の番号に電話をかける。
『終わったか?』
「・・・・はい」
『すぐそちらに向かう』
それだけ言って通話は切れた。
・・・・・何この人。
その言葉の通りすぐにシャンクス社長は現れた。
「待たせたか?」
「・・・・いいえ、全然」
「なら良かった。何が食べたい?」
「私は・・・何でも」
「じゃあそこの居酒屋に行こう、結構美味い」
「あ・・・はい」
で、やって来た居酒屋。
個人の店のようだけど、決して大手の社長が来るとことは思えなかった。
でも確かに料理は美味しい。
お酒も進む。
・・・で、話すことはと言えば。
「で、何言うかと思えば海賊にでもなっちまえ、と言う訳だ」
「わかりますわかります、社員の意見は大事だけど簡単には変えられないですもんねー」
「見張りつけられたときゃ流石に泣いたなァ」
「・・・それはすごいですね」
社長ならではの苦労話。
さすがに私に見張りはつかないけど。
なんだ愚痴が言いたかっただけかぁ、と安心したその時。
「それからそろそろ嫁をもらえ、とも言われてる」
鋭い視線に見つめられて心臓がどくんと動いた。
「・・・あら、シャンクス社長ならよりどりみどりですわねえ」
「そうでもねェんだ。ああ、酒が足りないな」
「え、あ。どうも」
注がれるお酒に口を付けて、
「アコ社長は浮いた話はないそうだが」
「・・・・何処情報ですか?」
「今日案内してくれた社員に」
「・・・・名前覚えてます?」
「残念だが記憶にないんだ、悪いな」
「ったくもう・・・」
思わず呟いたら、シャンクス社長が笑った。
「うちの社員の友人が、そちらの社員だそうだ」
「え?」
「商品を自慢されたんで使ってみたら良かったらしくてな」
「それでうちの商品がアンケートで。なるほど、偽装じゃなかったんですねえ」
ぐびぐび。
「社長がいかに真面目で優しい人間かも聞いた。それで仕事の話を持ち掛けたんだ」
「あーなるほどぉ」
「だが今は別だ」
「今?」
「今はプライベートだろ?だからこれも個人的な話しだ」
「はいはい、何でしょう」
「俺と結婚を前提に付き合う気はないかアコ」
・・・・・・・・・幻聴かと思った。
ちょっと酔い過ぎてる、から。
でも、
「返事を聞かせてくれねェか?」
答えを促されて、驚いた。
「・・・や、ごめんなさい」
「おいおい、少しは考えてくれてもいいんじゃないか」
「えーでもいきなり過ぎじゃないかと」
「時間をかければ可能性はあるか?」
「・・・・・・・・・・・たぶん」
第一印象こそ最悪だったけど、
お酒を飲みながら話した感じは嫌いじゃない。
「そうか・・・やっぱり酒を飲ませて正解だったな」
「・・・・・ん?」
「酒を飲ませた方が本音が聞けるだろう?昼間みてェに」
「・・・・たばかったな貴様」
・・・やられた。
完全に私の負けだ。
「だっはっは、まァそう言うな。昼間の社長の顔も凛としてて好きだから気にするな」
「・・・・返事は1週間後でも?」
「勿論構わねェ」
結局、最初から最後まで
私がこの人に勝てる訳はなく。
2週間後、
手を繋ぎながら会社に行き、
真剣に説明をする私が居たとか居ないとか。