短編①
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「アコ、悪いがお頭を起こしてきてくれないか?」
海の上、今日も進むレッドフォース号。
「おおかた朝方まで飲んでたんだろう。部屋に居るはずだ」
「はーい」
ベンさんに頼まれて、私はお頭の部屋に向かった。
コンコン、と軽くノックをしてから入室。
「お頭ー入りますよー?朝だから起きろってベンさんがー・・・・・・」
コツコツ、と足音たてて部屋入り、お頭の寝ているベッドに近づく。
大口開けて気持ち良さそうに寝ているお頭。
そしてその隣に、あどけない寝顔の小さな女の子。
・・・・・・女の子?
「んー・・・アコ?」
お頭は薄く目を開け、私を見た。
けれど私の目は小さな女の子に釘付けで。
「起こしにきてくれたのかァ?アコがキスしてくれんなら起きてもいいが」
「・・・・・・・・キスなら隣で寝てる女の子にしてもらえばいいんじゃないですか?」
見た目3歳くらいだろうか。
ほっぺがふっくらとして愛らしい。
いやでもそれにしたって、
「女の子ォ?そんなの何処に・・・・うお!?」
・・・・・・・・何でお頭まで驚いてるの?
シャンクスの大きな声にびっくりしたのか、女の子も目を覚ましたようだった。
「うー」
眠たそうな目をこすり、半目でお頭と私を交互に見た。
そして、たどたどしい口調でこう言った。
「おとしゃ、おかーしゃ」
「・・・・・お頭、これはいったいどういう?」
「いや、俺も知らん!俺は無実だ!」
女の子は私達を見て、それはもう可愛らしい笑顔でにこーっと笑った。
「という訳なんですがベンさん」
「・・・・・・何でこんなことになってるんだお頭。説明してくれ」
頭を押さえながらベンさんは呆れ顔。
「いやーいつの間に俺の子を産んだんだ?アコ」
「産んでません!」
女の子はただじーっと私達のやりとりを見ている。
うん、起きてても可愛い。
ここ1週間程どこにも停泊していないのに、突然船の上に現れた女の子。
「ね、お名前言える?」
少ししゃがんであげて、背に合わせながら今度は問題の女の子に話しかけてみる。
「シノ!」
「そっかあ、じゃあね、シノちゃんは何処から来たの?」
最初の質問には元気良く答えてくれたけれど、この質問には彼女は首をゆっくり傾げただけだった。
「シノちゃんのお父さんとお母さんは何処?」
するとシノちゃんは、
にへーっと笑いながらお頭と私を小さい手で指さし、
「おとしゃ、おかーしゃ!」
「だっはっはっは!そうか!俺達の娘か!可愛いなーシノは!な、アコ」
「だからお頭、違いますって」
「おかーしゃ、おかしらじゃないよ」
「え?」
お頭、と呼んだ私を不思議そうに見つめるシノちゃん。
「しゃんくしゅ、っておかーしゃいつも言ってるのに!」
これに真っ先に反応したのは、
勿論、
「そうだぞアコ。俺達は夫婦なんだからな、名前で呼べ」
「いや、だから夫婦じゃないですっておか」
嬉々として話すお頭にいつものようにお頭、と言おうとして。
下から突き刺さる痛い視線に気がついた。
「・・・・・シャンクス」
にこーっと笑うシノちゃんとお頭・・・シャンクスの顔がどこか少し似ている気がした。
「でもここは海の上で、最近すれ違った船もないですし」
「しかもお頭のベッドの上で一緒に寝てる、とはな」
「おかしいですよね?」
小さい子が居るからか、ベンさんは今煙草を吸っていない。
「だからって放っておく訳にもいかんだろう。俺とアコの子なんだし」
「いやだから私産んでな」
「次の島に着くまで1ヶ月ある。面倒見てやってくれアコ」
・・・・私の言葉を遮ってベンさんの言葉。
まあ確かにこのまま海に放り出す訳にもいかない。
「・・・わかりました」
それから私は掃除する暇もなく育児に追われることになった。
「おかーしゃ、抱っこ!」
「はいはい、おいでー」
「アコー俺も」
「シャンクスは却下」
またある日は、
「おかーしゃ、まんま!」
「はいはい、まんまあーん」
「アコー俺にも!」
「自分で食べて下さいっ」
「おとしゃはシノあーんしたげるっ」
「お、シノがしてくれるのかー優しいなー。さすが俺とアコの娘だな」
もう否定する気力がない。
それに本当に嬉しそうだし、まあいいかと思ってしまった。
「やっぱいいなー、アコと幸せな家庭ってのも」
「・・・・シノちゃんは可愛いですけどね」
「作るか、子供」
「は?」
「俺達の子供、もう1人」
「シノちゃんは私達の子じゃないですってば」
「・・・さて、どうだろうな。俺達の子供だと思うんだよなー」
ふざけてる訳ではなさそうなシャンクスの言い方に私は言葉に詰まってしまった。
夜寝かしつける時間。
シャンクスと2人で寝かせるのが習慣だ。
シノちゃんは眠る前に言った。
「おとしゃ、おかーしゃ、だいすき」
その言葉にシャンクスと2人で顔を見合わせて、笑った。
そして次の日。
シノちゃんが来てから2週間。
彼女の姿は忽然と消えてしまっていた。
船の至るところを探したけれど居なくて。
海に落ちた訳じゃないと思う。
きっと帰ったんだ、本当の両親のところに。
「んーこれで掃除に専念出来る!」
育児に追われていた間に溜まった汚れを払拭すべく甲板に出た。
「寂しいんじゃないか、アコ」
「お頭」
「・・・・呼び方はそのままでいいんだぞ?」
「そういう訳にはいきませんー」
何処か不服そうなお頭。
もうシノちゃんの突き刺さるような視線はないから。
やわらかいほっぺも、たどたどしい言葉も。
「アコ」
珍しく真剣なお頭の顔にドキっとした。
「・・・はい」
「次は男の子がいいな!」
「・・・・っ知りません!」
数年後、私はお頭のことを再びシャンクス、と呼ぶようになって。
この船にシノという名の女の子が誕生することになる。
その両親が誰かは、
知る人ぞ知る。