短編①
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「おばちゃんまた腕上げた!?餃子すっごく美味しい」
「そんな褒めても無料には出来ないよアコちゃん」
「・・・・けちー」
「ま、しっかり食べてちゃんと守っとくれよこの街を」
「任せといて!」
私の生まれた街。
ここで海軍として生きられることを誇りに思ってる。
美味しいご飯作ってくれるおばちゃんがいて、
大切な仲間が居て。
だからそれを壊そうとする奴らは許さない。
食後のお茶をすすりながら、ほっと一息。
食事が終わったら見回り行かないと。
「らっしゃい」
おばちゃんの声に視線を来たばかりの客に目をやる。
「餃子定食」
「あいよ!」
あー・・・・・私この人知ってる。
この特徴ある金髪の髪形。
そうか、よりによって私の隣に座るのか。
「・・・・・あんた」
不意に隣のそいつが話しかけてきた。
「・・・何か?」
「海軍だろい?」
「そうですけど。何かお困りごとでも?」
にっこり笑って聞いてみたら、
「俺ァ海賊だよい」
「知ってます」
「捕まえねェのかい?」
不敵な笑みが返って来た。
・・・・にゃろう。
「白ひげ海賊団1番隊の隊長不死鳥マルコを私が捕まえられたらそりゃ素敵でしょうね」
「で?」
「大人しく捕まってはくれないでしょ?」
「背中の正義が泣いてるよい」
くつくつと笑い声を漏らして笑う、
不死鳥マルコ。
「いいの、私は海軍の言う正義なんか背負ってないもん」
「じゃあその正義は何だい」
「私の正義」
「あんたの正義で海賊を見逃していいのかねい」
「何、貴方この店で暴れるつもり?」
例え1人とはいえ、
この男に暴れられたらひとたまりもない。
「んなことしねェよい」
「じゃあ食い逃げ?」
「金は払う」
「・・・・・じゃあいいんじゃないの?」
普通の客じゃん。
「警戒するとか」
「食事の時くらいのんびりしたいわよねー」
「・・・それよく海軍なれたねい」
「メリハリ大事じゃない?」
さてそろそろ店を出ようかと思ったら、
「この店、酒はあるのかい?」
不死鳥マルコは酒を注文。
まー昼間っからお酒とはいいご身分ですこと。
「うちは何でも御座れさ。ほら」
おばちゃんが得意げに酒を出す。
するとその酒を私の方に寄越し、
「もう1つ」
と、
後に出て来た方を自分の方に置いた不死鳥。
「え、何」
「飲みたくなった。付き合えよい」
「・・・・私今勤務中」
「あんたの正義に反するのかい?」
「・・・・・・不死鳥の奢り?」
「海軍が海賊にたかるのかよい」
呆れ顔の不死鳥に苦笑して、
「私のお給料教えてあげようか?」
「・・・興味ねェよい」
さすがに海賊と(しかも白ひげ海賊団の1番隊長と)こんな風に酒を酌み交わすのに疑問がない訳じゃないけど。
「奢りなら私の正義に反さないから」
「都合のいい正義だねい」
「細かいこと気にしてたら海軍なんかやってらんないわよ」
そこにおばちゃん力作の不死鳥が頼んだ餃子定食が到着。
「はい餃子定食ね」
「美味そうだよい」
「餃子定食超おススメ」
「みたいだねい。頂くよい」
そう言って不死鳥が餃子をぱくり。
「どう?」
「美味ェ、酒も進む」
満足そうに笑う不死鳥に私も満足。
「この店初めてで餃子定食を注文するなんて目が高いわよ不死鳥」
「さっきあんたが食ってただろい」
「え、」
「美味そうに食ってたから気になったんだよい」
・・・・見られてたのか。
全然気づかなかった。
「・・・・私、アコ」
「気付かなかった、って顔に書いてあるよいアコ。そんなんじゃ俺を捕まえられはしねェな」
「もともとそんな自信ないけどね・・・」
でもちょっとショックかも。
「ところで仲間は居ないの?」
これで仲間なんか居たら私どうなるんだろうと少し考えた。
とりあえず応援呼んでも戦闘になったらきっと助からないなぁ。
「俺1人だよい。今は下見に来てるだけだい」
「あー・・・・なるほど」
不死鳥飛べるしね。
先に着く島の下見に来てるってことか。
・・・・・って、
「それ海軍の私に話していいの?」
「別に構わねェよい。報告すんならしろよい」
「・・・・・はあ」
まあもう上の方は情報掴んでるかもしれないけど。
「船が着くのは明後日の昼頃だよい」
「詳細までどうも」
「つまりアコを口説くなら明日の夜までってことだねい」
「・・・・・・は?」
ぐ、っと胸倉を掴まれた。
あ、やばい殴られる?と思って瞬時に目を閉じた。
・・・・・想像した衝撃は来なかった。
代わりに、唇に触れた柔らかい感触。
「隙だらけだよいアコ・・・本当に海軍かい?」
目を開けたらそう言ってぺろりと自分の唇を舐める不死鳥が居た。
「しっ・・・失礼な・・・これでも本当に海軍・・・っていうか何してくれてんの不死鳥!」
「言ったろい?お前ェを口説くってよい」
「口説く前に襲ってるよね!?」
「キスくらいで喚くなよい。襲ってるうちに入らねェだろうよい」
「しかもよりによって餃子定食食べてる時にするとか・・・・!」
「好きなんだろい?餃子定食」
「好きだけど餃子味のキスって・・・」
悔しいやら恥ずかしいやらで、
顔は熱いし何も言えなくなる。
「んな顔すんなよい・・・もっとしたくなる」
黒い笑顔、という言葉がぴったりの笑みを浮かべて再び不死鳥が迫って来たので、
グラスのお酒を一気に飲み干して、
「ご馳走様!」
急いで席を立った。
そして、
「逃げるのかい?」
「逃げます!!」
これ以上こんなとこに居られない!と私は逃げるように店を出た。
・・・・・・まさかこの街に、
白ひげ海賊団が来るなんて。
まさか・・・・私を口説く海賊が、居るなんて。
「・・・・疲れた」
1日の任務を終えて無事海軍基地の寮にある自分の部屋のベッドでほっと息をついた。
厳しいけど、辛いけど守りたいものを守る為だから。
にしても今日は特別に疲れた。
どっかの不死鳥のせいで。
せめてゆっくり寝よう。
あ、窓・・・鍵閉めなきゃ。
立ち上がって窓の方に行ったら、
「あれくらいで疲れてるようじゃ先が思いやられるよい」
・・・・・・綺麗な羽根を携えて飛んできた、
不死鳥。
思わず一瞬、見惚れた。
「・・・・・・ここ何処かわかってる?」
「海軍の寮だろい」
「うんそう。それで貴方は海賊」
「細けェこと気にしてたらやってられねェんだよい」
・・・・それどっかで聞いた気がするよ。
「・・・・・えーと、じゃあまぁどうぞ」
仕方ないので部屋に招き入れたら、
不死鳥がものすっごく驚いた顔を見せた。
「・・・何よ」
「いや・・・まさか受け入れられるとは持ってなかったよい」
「だって私に会いに来たんでしょ?殺しに来たんなら上司呼ぶけど」
「一応言っておくがよい・・・今まで襲おうと思えばいつでも襲えたんだよい」
「え」
「アコが1人になるのを見計らってただけだい。・・・もっとも、誰も気づいてなかったみてェだが」
・・・・つまりそれは、
ここに居る誰も不死鳥には敵わないということ。
「・・・何か飲む?」
はあ、とため息を吐きながら聞けば、
「海賊に茶出すのかよい。面白ェ」
やっぱり面白そうにくつくつと笑う。
「戦っても勝てないならおもてなしするしかないから。・・・お茶でいい?」
冷蔵庫に行けば色々あるけど、
恐らくこの不死鳥はそれを許さないだろう。
「茶なんかいらねェよい。俺が欲しいのは、アコだからねい」
不死鳥はじりじりと私に近寄って来る。
鍛えられた身体に、強い視線に身体が動かない。
「逃げもしねェ抵抗もしねェんならこのまま掻っ攫うよい」
「・・・・それは、断固抵抗する」
「・・・へェ、そうかい」
「私は・・・こんなんでも誇りを持って海軍やってるしこの街が好きだから」
「俺が嫌いな訳じゃねェんだな」
「・・・・うん、貴方のことは好き」
海賊だけど、それでも悪い印象はなく、むしろ好印象。
「ならその正義を消しゃいい」
「消したら私はこの島を守れないでしょ?」
1歩、1歩。
不死鳥は近づいてきて。
あと1歩不死鳥が進んだら、きっともう駄目。
そんな距離。
お互い目を逸らさないのは、
・・・・お互いに自分の気持ちがわかってるから。
求めてはいるけど、交われないことを知っているから。
そう、思ってたのに。
手をとられて視線を手元にやった瞬間に唇を奪われた。
「ん、・・・・っ」
昼とは違う深いキス。
より深く求められて、舌がねじ込まれる。
「ふ・・・しちょうっ」
「・・・間違っちゃいねェが・・・マルコだよい」
「・・・マルコが海軍になればいいのに」
「冗談じゃねェよい。海軍なんかじゃ何も守れねェだろい」
「・・・・・そう、かな」
不死鳥マルコの力強さに頷いてしまいそうになる。
「ここはオヤジの縄張りにする」
「・・・・え?」
「オヤジの島で下手なことする奴ァ居ねェよい」
「・・・・・・・・・・・白ひげの、縄張りに?」
「そしたら俺が守ってやるからよい。この島も・・・アコも」
あまりに突然の提案に頭が上手く回らない。
「だからよいアコ。お前ェが背負ってんのが海軍の正義じゃねェんなら」
己の正義に問うてみろ。
どっちが大切なモン守れるか。
・・・・そう言い放ったマルコがとてつもなくカッコ良くて。
「・・・私が白ひげ海賊団になったら、マルコも守れる?」
「は、言ってくれるよい」
「でも・・・海軍の私がいきなり海賊になりましたーって言ったところでお仲間大丈夫?」
「文句のある奴ァ叩きつぶしてやるよい。俺が惚れた女だ、問題ねェ」
「あははっ、頼もしいのね」
「だろい?・・・だから、俺について来いよいアコ」
そして初めて見る優しい笑み。
「じゃあ・・・明日のお昼、迎えに来て。あの店に」
最後の餃子定食食べたいから。
「安心しろよい、あの店より美味い餃子食わせてやるよい」
「ほんとに?」
「楽しみにしてろい」
「待ってる」
餃子味の、キス。
次にこの街に戻って来る時、
私はきっと海賊になってるんだろう。
私の正義を背負って。