短編①
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【しようたいじょう】
幼い字でそう書かれた手紙。
・・・・あいつらしいと苦笑しながら、
待つこと数分。
「シャンクスー!!」
「来たな、ルフィ」
別に礼を期待してた訳じゃなかった。
ただ、車とぶつかりそうになった子供を助けただけだった。
それがまさかこんなに懐かれるとは思ってもみなかったし、
飯に招待されるとも思っていなかった。
手紙には、
『おんがえしする!』とのこと。
「こっちだ、こっち!」
「わかったから走るな、転ぶぞ」
「あのな、アコが美味い飯用意して待ってんだ!」
「アコ?」
「美味そうな肉いっぱいあってよ。さっき食おうとしたら怒られちまって」
はしゃぐルフィの口からは涎がたれそうだ。
・・・・ルフィの母親は料理が上手いのか。
酒がありゃ有難いんだがな、と思いながらルフィに引っ張られるまま着いた家。
「アコー!!連れてきたぞ!」
「はーい!」
涼やかな声と共に玄関に顔を出したのは、
「あ、こんにちは。いつもルフィがお世話になってます」
「・・・・・あ、いや」
優しそうな、女。
・・・・っつーか、若くないか。
ルフィの母親?
「こんなとこですけど、あがってください」
「シャンクス、こっち来いよ!」
「こらルフィ、来て下さい、でしょ?」
想像以上に若かったことにも驚いたが、
部屋にあがってテーブルに並べられた料理を見て更に驚いた。
「・・・・美味そうだ」
「お口に合えばいいんですけど・・・・あ、お酒お持ちしますね」
気も利くし、よく動く。
「シャンクスシャンクス、これ美味ェぞ!」
ルフィはいつの間にか座ってもう食い始めてる。
「・・・ルフィ、アコ・・・って母親か?」
「アコは俺の姉ちゃんだ!」
「・・・・姉か」
母親じゃ、なかったのか。
そう思いながら並べられた料理に手を付けた。
「・・・・・・美味いな」
美味い。顔が綻ぶ程に。
「はい、どうぞ。足りなかったらおっしゃって下さいね」
「いや、十分だ。・・・アコさんは料理が上手いな」
「家庭料理しか出来ませんから・・・。あ、名前呼び捨てで結構ですよ」
「・・・アコ」
「はい」
「一目惚れだ、俺と交際してくれないか?」
「・・・・・・・・・・・・は、い!?」
こんな出会いをくれたルフィは、
なるほど確かに『おんがえし』をした訳だ。
「一目惚れだ、俺と交際してくれないか?」
・・・・ルフィを助けてくれたお礼を言わなきゃと思ってたのに、
「・・・・・・・・・・・・は、い!?」
驚いてこんな声しか出なかった。
「駄目か?」
「あ、え・・・っと、ええ!?」
パニック状態の私にシャンクスさんは落ち着いた様子で微笑む。
「今付き合ってる奴は?」
「い・・・・いません」
「じゃあ好きな奴はいるか?」
「いません・・・」
「なら俺と付き合ってみないか?」
とても優しい目で、
なのにすごく強い意志を宿していて。
・・・・この人はきっとすごい人なんだろうな、と思った。
「・・・・・・ごめん、なさい」
だからこそ、ダメ。
「・・・駄目か?まあ、急過ぎたな」
「あの、でも」
「また・・・作ってくれないか?美味い飯」
「・・・・・それは、はい。勿論」
「頼む」
嬉しそうに笑うシャンクスさんの姿に胸が痛んだ。
たくさん作った料理はあっという間になくなって、
シャンクスさんは帰り際私にまた来る、と言って帰った。
ルフィはシャンクスさんを送ってくる、って出て行ってしまった。
・・・・1人片付けながら、
胸が苦しくなる。
・・・・本当は嬉しかった。すごく。
前からよくシャンクスさんの話を聞いていたから、素敵な人だなあと思ってた。
それが今日会って、・・・・たぶん私も。
・・・・好きに、なった。
でも・・・あんな素敵な人に私じゃ釣り合わないのも同時に理解した。
だから、私はあの人とは付き合えない。
付き合っちゃ、いけない。
『ぴんぽーん』
ルフィを学校に送り出して、
洗濯物も終えてほっと一息ついたところで、
インターホンが鳴った。
「はーい」
何も考えずにドアを開けて固まった。
「今確認しねェで開けたな?危ないんじゃないか?」
「あ・・・・・シャンクス、さん」
シャンクスさんは上等そうな箱を私に差し出して、
「駅前のケーキ屋のシュークリームが美味いと噂だったんで、買ってきたんだが、どうだ?」
「駅前の・・・ってあそこ朝一で並ばないと買えないんじゃ」
「ああ、明け方に並んでみたら買えた」
何てことない風に話すシャンクスさんに唖然。
「・・・・あ、有難う御座います」
「じゃあ、また来る。戸締りには気を付けてな」
「え、シャンクスさん!?」
帰っちゃうの!?
・・・ケーキを届ける為だけに、
明け方から並んで買ってくれた、の?
「ん?・・・嫌いだったか?ルフィから甘い物が好きだと聞いてたんだが」
「大好きです!・・・あ、あの、シュークリームが・・・」
「・・・そうか。なら良かった」
ふ、と笑うシャンクスさんに心臓がドキドキしてきた。
「あの・・・・・朝ごはん、まだですよね?食べて行かれませんか?」
「・・・いいのか?遠慮しねェぞ?」
「ど、どうぞ・・・!」
申し訳ないと思いつつ残ってたサラダと、
目玉焼きにソーセージ等を出した。
「・・・美味い。ルフィは幸せだな、毎日こんな美味い飯が食えて」
「・・・そんな、こと」
・・・今気付いた。
私今、シャンクスさんと2人きり、だ。
・・・・どうしよう。
心臓の音がうるさくて、シャンクスさんに聞こえそうだ。
「・・・・アコ」
切ない声で名前を呼ばれて、
思わず目をそらしてしまった。
「・・・ごちそーさん」
「あ・・・・・・はい」
は、と気づいたらシャンクスさんはもう立ち上がっていて、
それから少し寂しそうに笑って、帰って行った。
・・・・また来る、って。
言ってくれなかった。
それがとても寂しくて、苦しくて、
涙が出そうになった。
でもこれで諦めがつくかな、と落ち着いたのはそれから3日後。
「ただいまー!!」
「おかえり、ルフィ・・・・どうしたのそれ」
学校から帰ってきたルフィの手に、大きな花束。
「シャンクスがアコにやれって!」
「・・・・シャンクスさんが?」
「あとこれも!」
これも、と言って渡されたのはメモ。
そこに書かれてたのは、
『連絡待ってる シャンクス』
の文字、そしてアドレスと電話番号。
その文字だけで、心臓が大きく動き出す。
・・・・駄目だって、わかってるのに。
メールくらいならいいかな、なんて考えてしまった。
・・・・お花のお礼もしなきゃいけないし。
うん。
ゆっくり、丁寧にアドレスをプッシュして。
『綺麗なお花を有難うございました。 アコ』
と書いて送った。
返事が来るんじゃないかとドキドキして待ってたけど、
一向に返事は来ないまま、
一夜が明けた。
・・・・昨日は寝れなかった。
結局返事、来なかった。
アドレス間違えてたのかなあ。
もやもやを抱えながらルフィを学校に送り出して、
後片付けや洗濯、掃除をすませた。
お昼ご飯は作る気にはなれなくて、
残り物で簡単に済ませた。
・・・・シャンクスさんは、
残り物でも美味しいって、言ってくれた。
自然とため息ばかりついてて、
こんなことじゃダメだ、と買い物にも出た。
お肉が特売日でいっぱい買えた、と喜んでたのに。
メールの着信音に飛びついて見てみればルフィからで、
『今日飯いらねェ!夜遅くなる!』
・・・・買い物前に言ってよねそういうことは。
洗濯物をとりこんで、
何となく携帯を見たら。
迷惑メールのフォルダに何通か来てる。
削除しないとーと、開いた瞬間。
「・・・・嘘」
あれ、このアドレス見たことが、と思ってすぐに気付いた。
さーっと血の気が引いていく。
これ、シャンクスさんのアドレスだ。
私アドレス帳に登録してなかったから迷惑メールの方に入ってたんだ!!!
シャンクスさんからのメールは、全部で3通。
最初は昨日の夜、私がメールしてすぐ。
『花、気に入ってもらえたようで安心した。また贈る』
2通目は、その数分後。
『明日昼飯一緒に食べないか?』
え・・・。
今日のこと、だ。
そして最後は今朝。
『今日1時に駅前で待ってる』
・・・・今、何時・・・だっけ。
恐る恐る時計を見れば、
・・・・・・・・・・・・5時。
もう・・・待ってないよね、だってもう4時間も・・・。
・・・・でも、待ってる気も、する。
「・・・・っ」
会ってどうしよう、とか。
何話そうとか、
考えたけど一瞬でやめた。
とにかく・・・会いたい。
靴を履いて、走り出した。
行かないと。今はただ、それだけ。
「・・・・っは、しゃんくすさん、」
息切れしながら駅前に着いた。
居ない可能性の方が大きいと、わかっていながら。
・・・・でもそこに、
「・・・アコ?」
彼は居た。
「シャンクスさんごめんなさい、私っ、アドレス登録してなくて、メール、今気付いてっ」
「来てくれたんだな・・・アコ」
彼は笑ってた。
・・・怒って、いいのに。
「・・・怒って、ください。わたしっ」
「怒るようなことはねェだろう?こうして顔が見れただけで嬉しいさ」
「・・・・なん、で」
「好きだからだ」
まっすぐな言葉に、
「・・・・私も、好き」
本音が漏れた。
「・・・本当か?」
「好きです。・・・・でも、自信、ない」
「自信?」
「私なんかじゃシャンクスさんと釣り合わないし・・・」
今付き合えても、いつか嫌われる。
そう思ってしまう。
シャンクスさんは俯く私の腕を取り、
「あ、」
優しい力で引き寄せた。
「俺だってねェさ、自信なんて」
「・・・・・・ええ?」
シャンクスさんの口から、意外な言葉。
「まあ恋愛なんて好きだって気持ちがあれば何とかなるもんだ」
そうだろ?
・・・・そう、シャンクスさんは言う。
「・・・私、考え過ぎてました?」
「・・・かも、しれないな。でもそういうとこも可愛い」
きゅうう、と締め付けられた胸。
「・・・わたし、好きって言っても、いいですか?」
それでもまだ迷う私に、
「聞きたい」
力強い声。
「シャンクスさんのこと・・・好きです。だからこれから、ご飯食べに来てくれませんか?」
「ははっ、アコらしいな。さすがに腹減った、何か食わせてくれるか」
「・・・っはい」
こくこくと頷いたら、
大丈夫だ、と言うように頬に唇が降ってきた。
「ふぁっ!?」
「自信がなくなったら、いつでもこうしてやる」
「・・・・・きっともう、大丈夫です」
好きだから、迷わない。