短編①
夢小説設定
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まさか自分が。
まず最初に思ったのはそれだった。
次に嘘だよね、と心の中で必死に否定して後ろから聞こえてくる足音に耳を澄ませた。
暗い夜道。
人通りなんかほとんどなくて、
でも友達と話すことに夢中になっていた私が夜帰宅する為には通らなきゃいけない道。
でも考えてみればよくあることだし。
たいして気にせず歩いてた。
さっきまでは。
駅からずーっと後ろに人の気配を感じていて、でも偶然だとしか思ってなくて。
歩き始めて30分。
・・・・・・・・コレはいくらなんでもおかしいでしょ。
試しに立ち止まって携帯をいじってみた。
その間に先に行かせよう作戦だ。
普通の人ならまず先に行く。
でも後ろに居た人の足音は止まり、
こっそり見ると相手も同じように立ち止まって携帯をいじっていた。
・・・・・・・・・マジか。
私にストーカー?
嘘だよねえ?
自棄になった私はそんな奇特な方の顔を見てやろうと思い切り振り返った。
そしてまじまじと見つめる。
黒い髭の、男。
完璧に知らない人だ。
そしてそいつは私と目が合うとにたりと笑った。
・・・・・・・・・・やめときゃ良かった。
本気で後悔した。
私は急いで走って、辛うじて1つだけあるコンビニに入った。
ヤバイ。これはマジでヤバイ。
外を見ると髭男は立ってこちらを見ている。
私1人暮らしだよ!
だだだ誰か助けれくれそうな友達は、と携帯を取り出してアドレス検索。
すぐに出たその名前。
呼び出しをかけてみるも、
「・・・・・・・・・・・・・何で出ないのようエース」
別にエースは彼氏とかじゃない。
好きな人でもない。
ただの大学の物凄く仲がいい友達だ。
弟馬鹿で、いつも自由で、笑ってて。
でも強い。
家も近いし。
そんなエースは私からの呼び出しに気づかないらしく、むなしい留守番伝言サービスの音声が耳に流れた。
どうしよう。
とりあえずコンビニで武器調達するしかない。
刃物・・・・は逆に取り上げられたら私が危険だ。
となると唐辛子、胡椒あたり?
今時のコンビニは結構何でも揃ってるもので、油とライターってのもいいかも。
あ、熱々の珈琲買って、ふっかけて逃げるってのもありか。
なんて一生懸命考えていたところ、お店にお客さんが入ってきた。
思わずドキッとしてその客を見て、私は目を見開いた。
「エース?」
「ん?・・・お、アコ?」
入ってきた客、エースは私を見て呑気に笑った。
「何でこんなとこに居るの?ていうか私さっき電話したんだけど」
「電話?・・・・・悪ィ気づかなかった」
エースは携帯を見て確認すると、そう言って手を合わせた。
「で、俺に何か用だったか?」
「・・・・・・・・・・実はさ」
かくかくしかじかで。
理由を説明するとエースは途端真面目な顔になった。
「おまっそれ早く言えよ。・・・・俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ?」
「熱々の珈琲頭からかけて仕上げに唐辛子目にかけて逃げるつもりだった」
「・・・・それ俺居なくても大丈夫だったんじゃねェ?」
「大丈夫じゃないってば!怖いんだから」
気持ち悪いし怖いし。
「ま、俺を頼ったことは褒めてやるよ」
「電話出てもらえなかったけどね」
「・・・・・・・・・とにかくそいつは俺が何とかしてやる」
エースはそう言うと、
私の手を取って、
「え、」
自分の手と繋がせた。
「行くぞ」
そのまま店を出た私とエース。
勿論後ろについた、髭男。
間違いなくついてくるのを確認すると、
「俺の女に何か用か?おっさん」
エースが髭男に問い詰めた。
「こ・・・・っこの子は僕が目をつけたんだっ」
「はい?」
エースに睨まれた髭男はおどおどしながら小さくそう答えた。
エースに睨まれると本当に怖いから気持ちはよくわかる。
「前に一目惚れ、して、ずっと、待ってた」
「・・・・・・・・一目惚れ、ねェ」
「うわ、うさんくさい!気持ち悪い!」
「ぼ、僕のっ」
「お前のじゃねーよ」
言いながらエースが髭男の胸倉を掴むと、髭男はひぃっと軽い悲鳴をあげた。
「こいつのことよく知りもしないでそんなこと言っていいのか?あのな、オッサン。あんた何されそうになったか教えてやるよ」
ん?
ちょっと待ってエース何言う気!?
「熱々の珈琲と唐辛子かける気だったんだぜ」
「ちょ、エース君!?」
「ちなみにそれはやめとけって言って俺が警察呼んだ。そろそろ来るんじゃねェ?」
「ひっ・・・・ひぃ」
え、警察呼んだ!?いつ?
「それとも今から熱々の珈琲かけられたいか?」
「あ、あ・・・・あ」
「まあ俺はこいつと違って殴る蹴るも出来るけど、どーする?」
その言葉がトドメになって、
髭男は悲鳴をあげながら退散した。
「よし。これで大丈夫だろ?」
「うわー有難うエース!助かったぁ。ていうかエースいつの間に警察呼んだの?」
「呼んでねェよ。そう言った方が平穏に済むだろ?」
平穏・・・・・・・いやでも殴る蹴るとか脅してたような。
あ、でも実際にはしてないからいいのか。
「さすがエース!・・・・・・・で」
「で?」
髭男が居なくなったにも関わらず、繋がれたままの手。
「・・・・・・・・手は」
「あ?あー・・・・・・こんくらいあってもよくねェか」
言いながら顔を背けたエースの顔は少し赤くて。
初めてエースを好きかも、と思ってしまった。
「こんくらい?」
「つーか、一目惚れとか冗談じゃねェよ。こっちは何年目だと思ってんだ」
「・・・・・エース君?」
様子がおかしすぎるエースに声をかければ、
「お前、ぱっと見大人しそうだから一目惚れとかされんだよ。もっと派手にしろ」
今度は顔を見ながら偉そうにそんなことを言う。
「そんなこと言われてもなー」
「でなきゃ俺と付き合え。そしたらいつでも俺が守ってやるし」
・・・・・・・・ああ、やっぱ私、
エースのこと好きになった。
「うん。じゃあ、よろしく」
助けに来てくれた、王子様。
・・・って言うのは恥ずかしいけど。
「・・・・・・・・いいのか?」
「とりあえず」
「とりあえず?」
「この手はこのままで、ってことで」
まずはそこから、始めましょう?
私らしい、シンデレラストーリー。