短編①
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「えっへっへえー」
頭がくらくらする。
眠い。
でも、気分はすこぶる良い。
何故なら今私は、
「酔い過ぎだよい」
「マルコの方が酔ってるじゃん!何、酔いよいよーいって」
「・・・・・・・・・・んなこと言ってねェよい」
「あははっ、マルコもう面白過ぎー!!」
笑う私にマルコは仏頂面で、
私の腕を引っ張る。
「ほら、もう帰るよい」
「やだ。まだ飲む」
掴まれた腕を振りほどいて、私の手はお酒の入ってないグラスを握った。
「すみませーん!お酒おかわりくださーい!」
近くを通った店員さんに注文して、
マルコを見た。
「・・・・・・・いい加減にしろい、アコ」
「・・・・・・・まだ、飲む」
「アコ」
「もうちょっと付き合ってよマルコ。・・・・お願い」
正直今立ち上がるのもだるいし、
・・・・・・・・1人になりたくなかった。
じっと見つめればマルコは私の隣に座りなおしてくれた。
でも、
「いだっ」
こつん、と頭を小突かれた。
「・・・・・お前は本当に馬鹿だよい」
「・・・・・・・・・いいもん馬鹿で」
無理して笑ってみせたら、
もっと寂しくなった。
寂しそうに笑った顔にため息をぐっと堪えた。
それからすぐにさっきアコが頼んだ酒が来て、俺はそれを取り上げた。
「あ、私のお酒!」
「もう飲むの禁止だい」
「マルコひどい・・・・!」
「ひどくねェ。たこワサでも食ってろい。・・・・側には居てやる」
言いながら自分の分のお冷を差し出せば、
アコは大人しく水に口をつけた。
『マルコー私もう駄目かも』
そうアコから電話がかかってきたのは数時間前。
幼馴染みのこいつから連絡がくるのはしょっちゅう。
でも泣き言を聞いたのは、
初めてに近い。
慌てて飛んで行けば、
笑顔で『飲も!』と無理やり居酒屋に連れて来られた。
酒に酔ったアコがぽつりとこぼした愚痴によれば、
職場の友人には裏切られ、
上司からは無理を押し付けられ、
精神的に参っているらしい。
「まるこぉー」
「それ飲んだら帰るぞ」
「ねえねえ、何でマルコの頭は美味しそうなのー?」
「おい、アコ」
「パイナップルなの?それともバナナなの?」
電話してきた時の泣きそうな声が嘘みてえに明るい声。
「私マルコの頭だいすきー」
酔っぱらいの戯言。
わかっちゃいるのに、
「頭だけかよい」
そう思うのに、
嬉しさが込み上げてくる。
ガキの頃から守ると決めてきた女。
惚れた女から、
大好きと言われりゃ手を出したくもなる。
好きだ、と胸のうちを明かしたくもなる。
もっとも酔ってないこんな状態じゃ言えるはずもねえ。
「マルコも好きだよー」
「だったらもう帰るよい」
「マルコは私のこと好きじゃないの?」
「っ!」
何てことを聞くんだこいつは。
何て答えたらいいんだい、こんな時。
「まる、こー」
「・・・・・・・・酔ってる奴には答えねェよい」
「水飲んだから醒めたよー!」
「嘘つけ。ほら、立てるかい?」
「んんっ・・・・・無理」
「・・・・・・・甘えんなよい」
ぎゅう、っと俺の腕に捕まるアコは珍しく甘えモードらしい。
可愛いのは可愛いんだが、
・・・・・・・胸が当たってやべェ。
「おぶって!」
「てめっ・・・・いい年して恥ずかしくないのかい!?」
「マルコだけだから」
・・・・・何だいその口説き文句は!
軽口なら今まで何度も叩かれてきた。
今まで何度も、軽口で返してきた。
しかし今の台詞は、
『マルコだけだから』
その後に信じられるのが、と続きそうで言葉に詰まった。
「・・・・・・・今日だけ、だよい」
仕方なく背負ってやると、
ずっしりと重かった。
そしてやっぱり当たる胸に、
動揺を隠しながらアコの家に連れて行った。
「着いたよい、アコ」
何とか部屋まで連れて行って降ろしたら、
「まるこーまるこー」
「何だい」
ふにゃ、と笑ったアコに嫌な予感、かと思えば。
「泊まってってよ。一緒に寝よ?」
「・・・・・・・・・いくつだと思ってんだいお前は」
「おっさんとお姉さん」
「・・・・・何で俺だけおっさんなんだよい」
「ねーねーいいじゃん、昔を思い出してさ」
・・・・・・今はもう昔とは違うんだよい。
言えない俺にアコが止めを刺す。
「ね、いいでしょマルコ」
「駄目に決まってんだろい?もうガキじゃねェんだよい」
「・・・・・・・・だって、変わんないのに」
変わった。
俺もアコも、大人になった。
こんな状態で一緒に寝たりなんかしたら、
・・・・・・絶対に手を出す自信がある。
ああ、俺も少し酔ってるのかもしれねえよい。
「マルコは昔から優しくて、ずっと私の好きな人で、マルコは絶対変わんないもん・・・」
「・・・・・・・アコ?」
「・・・・・・・なのに、なのにっマルコのぶぁか!」
酔った赤い顔で、
涙目で、
座りこんだまま叫ぶアコに一瞬頭が真っ白になった。
・・・・・いや、待て落ち着け。
アコは今酔っている。
・・・・・・・明日になれば、忘れるに決まっている。
「・・・・・・わたし、こわくないし」
ぽつりと呟いた小さい声。
自然と耳を澄ます。
「マルコになら、裏切られてもいい・・・から側にいて、よ・・・・」
その弱弱しい言葉に、
考えるのをやめた。
たまらなくなって、抱きしめた。
「・・・・・・・まるこ髭、くすぐったい」
「仕方ねェだろい、おっさんになっちまったんだからよい」
「ついでに酒臭い」
「そりゃお前もだい」
「・・・・・・・・でも、いい。側に居て」
相当弱ってるのか、酔ってるのか。
それとも両方か。
それでも・・・・もうどうでもいい。
「アコはよく頑張った。俺が認めてやるよい」
ゆっくりと頭を撫でてやると、胸元に顔を埋めてきた。
そのまま強く抱きしめて、耳元で囁く。
「俺はアコを絶対に裏切らない。・・・だから、俺のになれアコ」
びく、とアコの肩が大きく動いた。
・・・・・・・・動揺してんな、これは。
「・・・ほんとに?」
「信じられないかい?」
「・・・・・・ううん、信じる」
驚いたように顔を上げた瞬間を狙って、
そっと口付けたらやっぱり酒の味。
・・・・・・こんなのも悪くないかもしれねえな、と思う。
アコが明日、このことを覚えていても、
いなくても。
それから安心したように眠ったアコを布団に寝かせて帰った。
次の日アコから電話があった。
『マルコの裏切り者』
『・・・・・・何のことだい』
『昨日言ったじゃん、側に居てくれるって。・・・俺のになれって』
『おま、覚えて・・・』
『マルコは絶対私を裏切らないんでしょ?』
ああ、絶対に、よい。
『お前、こっちに引っ越してくる準備してろよい』
『え、マジで』
『マジに決まってんだろい』