短編⑥
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「今夜一緒に居て欲しいんですぅ」
と可愛い声が聞こえた。
買い出しの為に寄っただけの島。
小さい島の小さなバー。
お頭を迎えに行ってくれ、とベックさんに頼まれて。
バーのドアを開ける寸前のことだった。
こんな可愛い声の女の子、
きっと顔も可愛いに決まってる。
スタイルも絶対良い。
さて、お相手のお返事を聞いてからドアを開けようと手を止めた。
耳を澄ますと、
「いや、悪いが今日はそろそろ帰らせてもらおう」
あ、断った。
えーっやだぁ寂しぃ、とこれまた可愛い悲鳴が聞こえた。
・・・・入りづらいなあ。
「もうすぐ惚れた女が迎えに来てくれる頃合いなんだ」
と、お頭の声。
ますます入りづらくなってしまった。
このまま帰ろうか。
ベックさんに怒られるかなあ。
「えー可愛いコぉ?」
「とびきり可愛い」
前言撤回、今すぐ入ってお頭を殴りたい。
・・・仕方ない、こうなったら。
髪の毛を整えて、腰に紐を巻いて、っと。
ゆっくりと扉を開けた。
「迎えに来ましたよお頭」
「お」
店内の視線が一気に私に集まるのがわかる。
あんまりジロジロ見ないでぇぇぇ!!
と内心びくびくしながら笑みを作る。
「副船長のご命令でお迎えに参りました、行きますよお頭」
「なぁんだ、赤髪さんの惚れたお姉さん見たかったのに。でもお兄さんもイケメンですね」
「いや、こいつは」
「皆さんうちのお頭がお世話になりました、失礼します!!」
出来るだけ低い声音で、大きい声でそう告げてお頭を引っ張った。
また来て下さいねぇ、今度はお兄さんも一緒にぃ、と可愛い声を背に受けて何とか無事にお店の外に出た時、
ククッ、と楽しそうな笑い声をお頭が漏らした。
「・・・・疲れました」
「ありのままのお前の姿で良かっただろうに」
「あんなの聞いて行けませんよ。ていうか居るのわかってて言ってましたよね!?」
「バレてたか」
「あのまま帰ろうかとも思いました」
正直な気持ちを吐露すれば、
「そう言ってくれるな。楽しみにしてたんだぞ」
と苦笑された。
「うちにとびきり可愛いコなんていませんよ」
「居るじゃねェか、ここに」
「あら何処でしょう」
きょろきょろと首を動かしてみるも美女は見当たらないわ。
すると不意に腰を引き寄せられた。
「このまま帰るのは惜しいと思わないか?」
そして耳元で囁かれる悪魔の言葉。
「思いませんね。このまま帰らないと怒られます」
主に私が。
「アコを迎えに来させた以上あいつもわかってるさ」
「さっきの女の子の誘いには乗らなかったくせに」
「惚れた女以外と夜を過ごす気にはなれねェからな」
「惚れた女以外とは飲むのに?」
「ヤキモチか?」
呆れ果てて開いた口が塞がらない。
「そもそもこのまま飲みに行ったところで男2人だと思われますよ」
「確かにそれだとアコといちゃいちゃ出来ねェなァ」
「いやそういう問題じゃなくてですね」
駄目だこの人。
「なァ」
「・・・・はい」
足は大人しく港のレッドフォース号へ向かってる。
まあなんだかんだ言いながらこのまま帰ってくれそう。
「やっぱりこのまま飲みに行こう」
あ、ダメだった。
「・・・・お頭」
軽くため息を吐く。
「お前がどんな姿でも関係ない。何、少し寄り道するだけだ、夜が明ける前には戻れる」
「要は飲み足りないんですね」
「アコとの時間が欲しいだけさ」
「・・・さっきの店にお戻りになったらどうです?」
「一緒に呑んでくれるのか?」
駄目だ話が嚙み合わない。
誰のせい?私のせい?
それともお頭が酔ってるせい!?
「お頭にはもっと可愛いコが似合います」
「アコのことだな」
「私は・・・声だって可愛くないし」
低い声。
自分では好きじゃない。
顔も勿論重要だけど声が可愛いってめちゃくちゃいいと思う。
「カン高い声出しゃ可愛い訳じゃないだろう」
「それは・・・・まあ」
「聞いてて心地いい声が1番だ」
「まあそれも一理ありますが」
「気にしなくても夜はいい声を出させてやるさ」
「今のは聞かなかったことにしておきます」
お頭の言葉の意味がわかって思わず耳を塞ぎたくなった。
「こっちだ」
「え」
くるりと方向転換された足。
あーあ。
「・・・どちらに?」
「洒落てはないが安くていい店がある」
「はいはい」
もう諦めよう。
腹は括った、けど。
「えーっお兄さんたちカッコいいですね、一緒に呑んでもいいですかぁ?」
まあこうなりますよね!!
「あー・・・」
何て断ろうか考えてると、
「悪いが今彼女を必死に口説いてる最中なんだ」
「か・・・かのっ、失礼しましたぁぁ!!」
青ざめた美女の背中を見送って、
「口説かれてるとは知りませんでした」
「勿論これくらいで落とせる女とは思ってねェよ」
「・・・私、なんか」
お頭に口説いてもらえるような女じゃない。
自然と俯いた顔。
そんな私の頬に突然冷たいものが当たった。
「ぴぇっ!?・・・何するんですか、もう」
「ほらな?」
「はい?」
何がほらな?
「可愛い声が出ただろう?」
「可愛いですか今のが!?」
お頭がお酒のグラスを私の頬に当てたらしい。
驚いた。
・・・・でも、お頭の可愛い、にもっと驚いた。
「俺は可愛いと思うのはお前だけだ、アコ。これからもな」
「・・・・ふぐぅ」
「顔が赤いぞ、飲ませ過ぎたか?」
なんてお頭が優しく髪を撫でるもんだから、
私の顔はもう熱くて苦しい。
「好きな人に可愛いと言われて嬉しくない女は居ません・・・」
「・・・・そうか!」
好きな人に可愛いと言ってもらえるなら。
このままでもいいかもしれない。
なんてね。
