短編⑥
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私の恋人のシャンクスは、遅刻魔だ。
仕事にデートに、度々遅刻する。
今日のデートもきっと遅刻。
そうわかってるのに、私の腕時計は待ち合わせ時刻の5分前をさしている。
どうせ来る訳ないってわかってても私は早めに来てしまう。
「お待たせっ」
目の前に現れた男の軽い声に顔を上げたら、
「・・・・・どちらさま?」
知らない男がへらへらと立っていた。
「あれ?俺を待ってたんじゃないのー?」
「私の待ち人はね、待ち合わせ時間より早く来ることはないのよ」
「うっわ、最悪じゃん」
「そうなの最悪なのよ」
「女?」
「男」
「じゃあそんなやつほっといて俺とデートしよーよ」
「・・・まあそう言いたくなる気持ちもわからないでもないけど」
「でしょ?行こ行こ」
「残念、あなたに彼以上の魅力を感じないのよね」
なんてくだらない会話をしながら時計を確認。
もうすぐ待ち合わせ時間、だけど。
シャンクスはきっとあと3分は来ないだろう。
「俺ならおねーさんを待たせたりしないよ?」
「そうかもね」
「こんなに待たせるなんてその人はおねーさんのこと愛してないんじゃないの?」
少しだけ胸がちくりと痛んだ。
「もしそうならとっくに別れてるわよ」
遅刻は良くしてくるけど、
愛されてないと思ったことはない。
「俺と一緒に居た方が彼氏さん妬かせられると思うけど?」
「妬かせたくはないの、残念だけど」
「確かめてみたくない?彼氏さんが本当におねーさんを愛してるかどうか」
「後々面倒なことになるに決まってるから却下」
「ちぇー」
・・・思ったことはない、けど。
遅刻癖が治らないことに何も思わない訳でもない。
こうして面倒なのに絡まれることも少なくないし。
「ほら、彼が来る前に行った方がいいわ」
「彼の何処がそんなに好きなの?」
・・・・・何処が、好き、なんだっけ。
「私シャンクスの何処が好きなんだっけ」
「おいおい」
ナンパ君の問いに真剣に考えているうちにシャンクスが到着して、
いつの間にかナンパ君は居なくなっていた。
何食わぬ顔で来たシャンクスは、
やっぱり何食わぬ顔で私と手を繋いで歩き出したんだけど。
私はさっきの答えを考えている。
「だってシャンクス今日も安定の遅刻だし」
「それについては悪かったと思ってる」
「遅刻しなかった日ある?私とのデートで」
「何回かはあるだろう」
「片手で数えられる程?」
「・・・・かもしれんが」
「私とのデート回数は?」
「両手じゃ数えきれねェな」
反省が見えない。
「遅刻はする、反省はしない。・・・最悪よね」
「悪いとは思ってる」
「思ってるけど治そうとは思わない、と」
私の棘のある言い方にシャンクスは苦笑しながら、
「アコに甘えてるのは十分自負してる。頼むから別れるとは言わないでくれ」
と懇願してきた。
「別れる気があったらナンパについて行ってるってば」
思わず私も苦笑しながら答えれば、
ちゅ、と頬に突然の口づけ。
「アコの愛おしいところなら100コは言える自信があるな」
「人前でそういうことやめろって何回言ったら・・・今日のお昼はシャンクスの奢りね」
「勿論だ」
「焼肉食べ放題」
「プレゼントもつけよう、好きなものを言ってくれ」
「それは結構よ」
バッサリと断ればシャンクスがくつくつと笑った。
「そういう謙虚なところが愛おしいんだ」
「はいはい、有難う」
シャンクスは私の髪を愛おしそうに撫でながら、
「俺は・・・アコに愛を与えられていないみたいだな?」
と寂しそうに目を細めた。
何処が好きなんだっけ、って言ったことを気にしてるみたい。
「さて、どうかしら。シャンクスの好きなところはあとで挙げるから今は食事に行きましょ」
「仰せのままに、プリンセス?」
仰々しくお辞儀をしたシャンクスに笑って、
私たちは焼肉屋に向かった。
テーブルに座って向かいのシャンクスの顔をまじまじと見つめる。
「肉、焦げるぞアコ」
「・・・・シャンクスどうぞ?」
「物足りなければ他のも注文するといい」
シャンクスは顔は悪くない。
でも別に顔に惚れた訳じゃなかった。
うん、そう。
私に促されてお肉とご飯を頬張るシャンクスを見て思う。
「シャンクスが食事してる姿を可愛いと思ったのよ」
社食でチャーハンを美味しそうに頬張るシャンクスを可愛いと思ったのが始まりだった。
「・・・照れるな」
「それから一緒に食事するようになったのよね」
「ああ、そうだったな・・・」
「シャンクスの優しい声や話し方も好き」
そう、シャンクスはあまり怒ることをしない。
仲間思いで良く後輩の仕事のミスをカバーしてあげてる。
誰かに理不尽なことで怒られても、
困ったな、と笑うだけで。
ものすごく怖いという噂の取引先にも堂々と渡り合える度胸もある。
「うん、シャンクスの好きなところいっぱい思い出した」
「だっはっは、そうか!」
「でも毎回デートに遅刻するのはどうかと思うわ」
「それは・・・まあ、すまん」
「私を怒らせたいんじゃなければ何で毎回わざと遅刻してくるの?」
素直な疑問をぶつけてみる。
「・・・・わざと、だと?」
「それ以外あり得ない」
シャンクスをじっと見つめれば、
困ったように笑った。
「好きなんだ。アコが俺を待っている姿を見るのが」
「・・・つまり本当は待ち合わせ時間より前に来てるのね?」
「ああ、そういうことだ」
「今日もナンパされるのを見てた」
「いざとなったら助けに行くつもりだったさ」
「・・・まあ、確かに」
今日のナンパ君はそこまで悪いコではなかったかもしれない。
「遅刻はもうしない、約束する」
「・・・たまになら、許す」
「いいのか?」
「私もね、シャンクスと同じ」
「同じ?」
好きなのよ、あなたを待ってる時間が。
だから来ないのわかってても早めに来ちゃうのよね。
だから割とお互い様。
