短編⑥
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今日は嫌な日だった。
前から来た人に体当たりされたし、
レジでは横入りされたし、
仕事ではミスするし。
世の中は理不尽だとわかってはいても、
嫌な気分になったことは事実。
勿論嫌な人ばかりでないこともわかってる。
・・・・それでも今日は、
疲れてしまった。
「・・・・ただいま」
灯りのついてない部屋と、ドアに鍵がかかっていたので同居人がまだ帰ってないことはわかってたけど。
それでも真っ暗で誰も居ない家は寂しい。
何だか追い打ち。
日々物価が上がり、私と同居人がフルで働かないと暮らしていけないんだもの。
あー辛い。
スマホを確認すれば、連絡はない。
とりあえず総菜コーナーでカツが割引だったので買っておいたから、
今からご飯炊いてかつ丼にでもしよう。
あ、卵あったっけ。
お味噌汁はインスタントでいいよね、もう作る気しない。
お米を研いで炊き上がるのを待つ間にテレビをつけて休んでたらスマホが鳴った。
『今から帰る。飯買ってくか?』
大丈夫の旨を返信して、
同居人もとい恋人のエースが帰ってくるのを待つ。
エースも疲れてるだろうし、私が笑顔でお迎えしてあげないと。
とりあえず一休みしたところでドアが開いて、
ただいま、とエースの声がした。
「おかえ、り・・・・っ!?」
立ち上がって玄関まで迎えに行こうと足を踏み出して何かに躓いて転びかけた。
咄嗟に壁に手をついたおかげで転ぶのは免れたけど手を痛めた。
・・・・・もうやだ。
「・・・・どした?」
私はその場でへたりこんだ。
「もうダメかも・・・・」
泣きそう。
「転んだのか?怪我してねェ?」
「・・・怪我は、してない。手が痛い」
「捻ったか?ちょっと触るぞ」
エースが私の手頸を触る。
「折れてはなさそうだな」
「わかるの?」
「マルコが色々教えてくれんだよ」
「・・・・すごいんだね」
マルコ、というのはエースの友人のお医者さん。
エースに泣かされたらいつでも連絡してくれと言ってくれた優しい人。
「とりあえずしばらく安静にしてろよ。夕飯まだだろ?俺作るから」
「でもエースだって今帰ってきたばっかりなのに」
「へーきだって。飯何の予定?」
「・・・かつ丼。とインスタントのお味噌汁」
「最高じゃん。買い物さんきゅな」
そして優しく私の頭を撫でてくれたエースは、
スーツを脱いでエプロン着用。
「一休みしていいのに」
「でも腹減っただろ。つーか俺が減った」
「ごめんね・・・」
「もう謝るなって。ちょうど飯が炊けたな」
卵あったか?なんて言いながら冷蔵庫を開けるエースを見てまた涙が出てきた。
「・・・・・っ」
「・・・痛むのか?」
「・・・・手は痛くない」
「そっか。じゃあ何か嫌なことあったんだな」
「うん」
「今俺が美味い飯作ってやるから大丈夫だ」
「・・・・うん」
待ってろよ、と袖をまくって笑顔を見せてくれるエースが居てくれて、
そんなエースが私の恋人で本当に良かった。
それから15分後、ほかほかのかつ丼大盛2人前が運ばれて来た。
「おいっしそう・・・!」
「アコの為に腕によりをかけたかつ丼だ、美味いぜ?」
自信ありげに微笑んでウィンクしてみせるエースがとてつもなくカッコ良く見えた。
大盛り、食べられるかなあなんて不安だったけどせっかくエースが作ってくれたもの、と口にして。
「おいひい・・・・!!」
ほかほかのご飯に厚みのあるカツ、しゃきしゃきが残る玉ねぎにとろける卵!!
割引のカツとは思えない美味しさ!!
「ん、アコが炊いてくれたご飯美味ェな!」
「いやご飯くらい・・・」
「俺が炊くと良くべちゃべちゃになンだよ」
「あーそれは水分が多いのかも」
「それにアコが炊いておいてくれたから今かつ丼が食えてんだ、俺が帰って来てからじゃまだ食えなかった」
「それは・・・・でも」
一緒に住んでいる以上当然のことで。
「俺は嬉しかったし助かってる。だから感謝してる、そんだけだ」
「エース・・・!」
「おかげで飢え死にしねェ済んだ、有難うな」
エースの笑顔が私のとげとげした心を柔らかくしてくれる。
「こちらこそ有難うだよ・・・!!」
かつ丼は本当に美味しかった。
でも、それでもまだ胸に残るモヤモヤ。
美味しいご飯と優しいエースで回復しないなんて、
私最悪だ。
・・・って落ち込みのループ。
「まだ落ち込んでんな?」
「・・・・っ、ごめ」
「謝んな。とりあえず話し聞かせろよ、な?」
勿論話したくないなら無理に話さなくていいぜ、と笑ってくれるエース。
「仕事でミスして・・・レジ横入りされて・・・」
うんうん、と頷いて聞いてくれるエース。
「体当たりされた」
「はァ!?怪我ねェか!?」
「それは、大丈夫」
「・・・そっか。駅で?」
「駅で」
「今度そいつ見つけたら言えよ、絶対ェやり返す」
「顔覚えてないし、大丈夫。有難うねエース」
「・・・・おう」
「そんで家で転んだ」
「さっきのな。手、大丈夫か?」
「うん、もう痛くない」
不思議と全部言葉にしたら少しだけスッキリした気がする。
「よし。じゃあケーキでも食うか」
「ケーキ?」
ケーキなんてうちにあったっけ、と首を傾げれば、
エースがじゃじゃん、と箱を出した。
「たまには食いてェなーって思ってさ」
と照れ臭そうにエースが笑った。
「食べるっ!!」
絶対太るけど!!
「お、元気出たな?」
「少し!」
「そしたらあとはあったかい風呂入ってゆっくり寝ようぜ」
「・・・・うん」
「久しぶりに一緒に入るか、風呂」
「・・・いいけど」
「え、まじで」
「添い寝もして」
「喜んで」
「何もしないでね」
「・・・・それは保証出来ねェ」
「じゃあヤダ」
「・・・・わぁったよ」
渋々頷くエースが可愛くて、笑えた。
ああ今日初めて笑えたかもしれない。
こうしてたまに愛しい人とケーキが食べられる私は幸せだ。
世の中理不尽なことも多いけど、
私はきっと大丈夫。
「ずっと側に居てねエース」
「・・・・プロポーズかそれ」
「そう、って言ったら?」
「却下。そのうち俺からするから」
「あははっ、待ってる」
いっぱい食べていっぱい寝たら、
次の日めちゃくちゃ元気になった。
