短編⑥
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夜景の綺麗なホテルで。
煙草の匂いに包まれて彼に抱かれる夜。
「ん・・・・ベック、ぁ・・・」
「もっと、聞かせてくれ」
その可愛い声を。
なんて。
こんな時しか言わない浮いたセリフ。
それでも恋人との甘い時間。
幸せなのよね、これも。
と自分に言い聞かせる。
何も考えないように快楽に身を任せる。
「ベック・・・・っ」
「アコ・・・愛してる」
ベックの渋い顔に似合わず優しいところが好きになった。
煙草の匂いも好き。
仕事も出来る。
顔が怖いからモテねェのさ、と煙草を吸ってたベックに告白したのは私。
休憩中の会社の屋上で。
それからデートして、
身体を重ねて。
・・・・幸せと言えないのは、ベックがうそつきだから?
それとも周りの女性たちがベックの魅力に気づき始めたから?
待ち合わせのバーに行けば見慣れた顔の周りに綺麗な女性達。
「人を待ってるんだ」
と言う彼は特段嬉しそうでもないけれど、
振り払うようでもない。
「お待たせ、ベック」
「ああ、お疲れさん」
会社の人にバレたくないという理由で、
私たちだけが知るお店での待ち合わせ。
こんなのも、もう。
「・・・・ねえベック。今日で別れて欲しいの」
終わりにしたい。
「・・・・・は?」
ぽろりとベックの口から煙草が落ちた。
ああ、なんだか笑える。
なんて思ってしまう私は酷い女ね。
その夜はベックから何度も着信があったし、
話しをさせてくれとメッセージも来てた。
ごめんなさいね、とだけ返して携帯の電源を切った。
次の日も会社で会うけれど、
目を合わさないようになるべく会わないように過ごして1週間。
私は退職した。
これでもう本当に終わり。
ベックとの恋にさよなら。
それから2か月、引っ越したり転職活動にと色々忙しかった。
たかが失恋程度で、とも思ったけど。
気分転換がしたかった。
友人にそう伝えたら失恋したのはあんたじゃなくてベックさんでしょ、と言われてしまった。
それもそうか。
・・・・私はまだベックが好きなんだなあと思い知らされる。
早く切り替えなくては。
転職活動が上手くいかずにへとへとの夜道。
最近見つけた近道。
人通りなくて怖いんだけど。
・・・・ベックにバレたら怒られるわね、なんて思う自分に苦笑しながら通ることにした。
「よォアコ」
「ぎゃあ!?」
いきなり背後から声をかけられて悲鳴があがった。
「だっはっは!色気のねェ悲鳴だな!!」
私の名前を呼んで楽しそうに笑ったのは、
前の会社の同期のシャンクスだった。
ベックとも仲良かったし、私ともまあ普通に仲はいい。
「びっくりさせないでよ。何でシャンクスがこんなとこに」
「ここは俺ん家の近くだからだな」
「・・・・あ、そ」
「聞いたよ。ベックと別れたんだって?」
「ええ、そうよ」
「なら俺と付き合う気は?」
「はああ!?ないわよ、ある訳ない」
突然の質問に驚きながらも首を横に振る。
「即答と来たか。その様子を見るに新しい男が居る訳でもなさそうだ」
「・・・・だったら、何?」
「今のベックを知ってるか?」
「・・・・今のベック?」
シャンクスの言葉を聞いて、私は走った。
「ベック!!」
勝手知ったるベックの家。
もらった合鍵をまだ持ってたなんて私も未練がましいったらありゃしないわ。
「・・・アコ?」
「って何コレ!?」
部屋が煙で充満してるんだけど!?
「ついに幻聴まで聞こえやがる」
「幻聴じゃないわよ。本人居るんだから、ここに」
慌てて換気扇をつけた。
「アコ?本人?」
「居るってば」
すっと手が伸びてきて、弱々しく抱き寄せられた。
「・・・・会いたかったよ」
シャンクスが、
ベックはこのままじゃ死んじまう、なんて言うから。
何事かと思って飛んできたのに。
いやでもこれはある意味合ってる・・・?
「私は換気して欲しかった。ていうか吸い過ぎ」
「会いたくなかった、と言われなくてほっとしてる」
会いたくなかった、なんて言えない。
思ってないのだから。
「・・・シャンクスがベックが大変だって言うから」
「ろくに話しもさせてもらえず一方的に別れを告げられた傷心な男を慰めに来てくれたんだな?」
「割と元気そうじゃない?」
「あれから本数が増えてこのザマだ」
だって話しなんかしたら私絶対別れ話なしにしちゃう自信があったから。
・・・・久しぶりのこの匂いだけでも、もう駄目なのに。
「あれからいい人は出来たかしら?」
「生憎と俺は一途な男なんだ」
もう逃がせねェ、と耳元で囁かれた。
高鳴る心臓を押さえつけて、
「逃げないから窓開けて」
「窓から逃げられる恐れがあるな」
「する訳ないでしょ。・・・でも話すことなんかないわ」
「言っておくが俺は別れたつもりはないんでな。理由も聞いちゃいないし納得もしてない」
言いながら緩んだ腕に肩を撫でおろしながら窓へ向かった。
「・・・面倒になっただけ、色々と」
窓を開けて外を見る。
そこに後ろからベックが押さえつけるように抱きしめてくる。
「逃がしゃしねェぞ」
「逃げないってば。っていうかベックキャラ変わったわね」
前はそんなこと言う人じゃなかった。
「惚れた女の前でカッコつけたいと思うは男の本能なんだよ」
「・・・・そんなもん?」
「今はそうも言ってられない事態なもんでな」
「・・・・おかしいわね?」
「おかしいか?笑ってくれていい」
「おかしいわ。ベックは私のことそこまで好きじゃないと思ってた」
そういうのを考えるのが面倒で別れを告げたのに。
そう伝えれば後ろでぴしりとベックが固まったのがわかった。
それからくるりと身体が回されてベックと向き合う形に。
少し痩せたように見えるベックは何処か困ったように笑って、
「話し合いの重要性を理解してもらえたようだ」
と言った。
「だってベック会社の人たちにはバレたくないみたいだったし、女性なら誰でも良かったのかなって」
「そりゃあ心外だ。・・・だが俺の落ち度ではあるのは認めよう」
「言い訳もしてくれないの?」
「・・・会社の連中にバレたらお互い何かと仕事もやりづらくなるだろうと思ったんだ」
聞いてみれば単純なこと。
「・・・聞かなかった私も悪かったわ」
「その罪悪感につけこんでもいいか?」
「・・・悪い人ね」
久しぶりの優しい口づけ。
拒むことは出来なくて。
入り込んできた舌が私の舌を絡めとる。
「ん・・・ぁ・・・っ」
「言っておくが浮気はしてない」
「浮気、って私たちもう別れ、」
「てねェ」
・・・頑固だなあ相変わらず。
ベックの手が私の身体の線をなぞる。
「ん、くすぐった、い」
「優しくするように善処しよう」
「ぁ、ん・・・・」
やわやわと触れられた胸に声が抑えられない。
「悪いが今日は徹夜で話し合いになりそうだ」
「それホントに話し合い?」
「・・・・恐らく、な」
ベッドに沈められていく身体に、
それでも話し合いはしてみたいと思った。
「話し合い何処行ったのよ」
「・・・・悪かったな」
翌朝結局話し合いなんて出来なくて不機嫌な私。
「あ、今日面接あるんだった。行かなくちゃ」
「面接?まだ決まってなかったのか」
「このご時世なかなかね」
「ならちょうどいい。その面接はキャンセルだ」
「は!?」
「俺のところに永久就職、してみないか」
「・・・・別の言葉で聞きたいわ」
こんな私の我儘も、聞いてくれるなら。
「俺と結婚してくれ、アコ」
「・・・・はい、喜んで」
2人だから、幸せになれる。
↓ マルコver
↓
↓
「ここで大丈夫、有難うマルコ」
「平気かい?」
「すぐそこだから」
有難う、と言うと額に唇が落とされた。
「気をつけろよい」
「ええ、マルコも」
家に着いたら連絡するわと言って車を降りた。
去って行くマルコの車を見送って軽くため息を吐く。
高級車から降りてきた私を周りの人たちはどう思うだろう。
安っぽい女、と思うだろうか。
恋人は社長の右腕。
将来の社長。
なんて言われて。
確かにマルコは仕事が出来る。
社長からの信頼も厚いだけでなく部下からも慕われてる。
そんなマルコから告白されて受けたのはそれだけじゃないけど。
周りからは欲に目が眩んだ女、と噂されてる。
最近は地味な嫌がらせも始まった。
厄介な仕事を任されたり、
物がなくなったりと。
心当たりは多すぎてわからない。
誰が敵で誰が味方なんだかわからない。
これがいつまで続くのか。
「・・・おはよう御座います」
「あらアコさん早速なんだけどコンビニ行ってくれない?」
「コンビニ、ですか?」
あからさまに私を目の敵にしている先輩が出勤早々ニヤニヤ。
「このお菓子買って来て欲しいのよ」
「はあ、わかりました」
なんて会話してたら横から同期のコが、
「駄目ですよお先輩、このコ時期社長の奥さんなんですからパシリみたいなことさせちゃあ」
とこちらもニヤニヤ。
「あら、次期社長の奥様ならお金も出して頂けるのかしらねえ」
この言葉で私も完全に何かがキレた。
「そうですね、お金にがめつい方は次期社長の恋人にもなれませんもの」
それだけ言ってコンビニへ向かった。
マルコに相談することも出来るけど、
それで何かが変わるとは思わない。
別の人に同じように疎まれるだけだ。
それなら、もういっそ。
「アコ?」
「・・・マルコ」
「今出勤したばっかりだろい?具合でも悪いのかい」
私を見つけて心配そうに駆け寄ってくれるマルコに私は覚悟を決めた。
「ごめんね、マルコ」
「・・・・どうした?」
「別れて欲しいの」
私の言葉にマルコはぴくりと眉を上げただけ。
「俺が納得出来る理由があるんだろうねい?」
「飽きちゃったの。ただお金持ってるだけの人ってつまらない」
「・・・アコ。本当のことを聞かせてくれ」
「全部本当のことよ」
「誰かに何か言われたんだねい?」
「知ってて何もしてくれなかったの?最低ね」
相談も何もしなかったくせに。
最低なのは私。
「何かされたんだな?」
「もういいのよ、マルコ。今まで有難う」
さようなら。
そう言って振り切った。
会社に戻ってお菓子を渡しながら、
マルコにフられたので次期社長は今フリーですよ。
狙ってみては?
と先輩に言っておいたので、
きっと私がフられたと噂があっという間に出回るだろう。
驚いたのは翌日。
マルコからの着信を無視して、
会社に着いて目に留まったのは部署異動の張り紙。
私を目の敵にしていた人たちが異動になってる。
昨日の今日で出来る訳ない、いくらマルコでも。
馬鹿だなあマルコは。
女の怖さをわかってない。
・・・・そんなとこも、好きだったんだけど。
そうして私は、会社を辞めた。
最初こそマルコから会いたいとか話がしたいと連絡が来てたけど、
今はもう来なくなった。
これで良かったんだと自分に言い聞かせて。
2か月。
仕事を辞めた後もなんだかんだ忙しくて、
まだ仕事探しが出来てない。
せっかく仕事を辞めたのなら、と
実家に呼ばれたり友人に誘われたりと。
でもそろそろ本気で探さないと。
今日は友人に誘われてお茶に行ったら散々仕事の愚痴を聞かされてきた。
懸命に慰めてたらこの時間。
遅くなってしまった。
明日こそはハローワークに、と考えながら足を進めていたら、
「なぁアコ」
いきなり名前を呼ばれて驚いて足を止めた。
「あ・・・・エース、くん」
前の会社の後輩だった。
ああ、そっか。
この道は会社の近く。
「何でマルコフったんだ?」
噂では私がフられたことになってるはずだけど、
エース君はマルコと仲がいいから聞いてるんだろうな。
「何で、って。飽きたから」
「他に好きなやつが出来たんじゃねェの?」
ど直球だなあ。
思わず苦笑しながら、
「そんなんじゃないよ。ただちょっと疲れちゃったの」
・・・何故だろう、この子には不思議と本音を話してしまう。
「それ、マルコに言った?」
「最後に、少しだけ」
「それずりィ。マルコが可哀想だろ」
・・・胸が痛んだ。
「それは・・・」
「マルコ今飯もろくに食わないで仕事してる。ずっとだ」
「・・・そう」
「このままじゃ倒れるってんで今日はオヤジが早退させたくらいだ」
「それは大変、ね」
「マルコはまだあんたが好きなんだぜ」
今更どの面下げて会えっていうの。
だってエース君の言う通りなのに。
「いきなり相談もなく別れ話を持ち掛けて話しを聞こうともせず消えた女に会いたいとは思わないわ」
「思ってる」
即答で断言された。
真っ直ぐに見つめてくるエース君の瞳に、負けそう。
「思ってないかも」
「思ってる。ずっと俺に言ってくるんだぜ、アコに会いたいって」
アンタが会いたくないって言うなら無理強いはしねェけど、
と彼は前置きをしたうえで。
「話しだけでもしてやってくれよ」
と懇願してきた。
そんなエース君に絆されて、来てしまった。
久しぶりのマルコの家。
インターホンを鳴らす。
帰れと言われたらそれはそれでいい。
もうどうにでも。
数秒後、機械越しに、はい、と返事があった。
「あ、えーっと・・・お見舞いに、来ました」
『・・・アコ?』
「具合悪いならこのまま帰る、けど」
言い切る前にドアが開いて。
「アコ!」
がばりと抱きしめられた。
「・・・声だけでよくわかったわね」
「わかるに決まってんだろい。ずっと聞きたかったんだ」
「・・・・ご飯、食べてないの?」
「一日一食で十分だい」
はああ、とため息が出た。
久しぶりのマルコは少しだけ痩せたように見せた。
「美味しい店いっぱい知ってるのに」
「全部アコの為だったからねい」
「・・・駄目よ、ちゃんと自分の為に生きてくれないと」
「それならもっとこっぴどくフってくれ」
「十分酷いでしょ」
「俺の為に自分がフられたと噂を流した女が酷いはずねェよい」
「ただの同情よ」
「なら同情なしにこっぴどくフってくれて構わねェ」
突き放してくれ、と言いながらマルコの腕が強くなる。
「私そんな強い女じゃない」
「アコの為に俺が居るんだよい」
「・・・本当は知ってた。マルコが私のこと見てくれて、助けようとしてくれてたこと」
だから先輩も派手に動けなかったこと。
「今度は絶対に守る・・・だから戻ってきちゃくれねェかい」
「・・・・っ今更」
「会社に戻れとは言わねェ。俺のところにだ」
「マルコの・・・」
「次期社長にはなれないかもしれねェが、よい」
「私は・・・マルコが次期社長になるかもしれないから好きになった訳じゃない」
「知ってるよい。だからこそ愛してるし、戻ってきて欲しいんだい」
「戻って、いいの?」
「突き放さないなら同意と受け取る」
ぎゅう、とまた力は強くなる。
「離させる気なんかない癖に」
「抵抗するなら今のうちだよい」
「無理に決まってる。・・・好きな人の腕の中が嫌な女は居ないでしょ」
こうして絆されるから話したくなかったのに。
「全部俺のせいにしていい」
言いながらマルコの唇がゆっくりと重なる。
久しぶりの口づけに胸が高鳴る。
「ん・・・っ」
マルコの片手が私の身体をなぞって、
下半身へ。
「いいだろい?」
「せめて、シャワー・・・っ」
「我慢出来ねェ」
焦る私にマルコはにこりと午後笑み、お姫様抱っこ。
連れて行かれたのは勝手知ったる寝室。
「食べてないのに力はあるんだ?」
「俺の力はいつもアコからもらってんだい」
「・・・気障」
「何とでも」
優しくベッドに降ろされて、
額、頬、唇、胸元に落とされていくキス。
「ねえ、ちゃんとご飯食べてよね」
「アコを喰ったらちゃんと食うよい」
言いながら私の足を撫でる。
手はしっかり私の胸をさわさわ。
「・・・ぁ、ん」
それからマルコは私の胸の頂を口に含み下で転がして、
満足そうに微笑む。
「これが1番美味ェ」
「・・・・ばか」
それから私はマルコが満足するまで食べられました。
「ところで何で今日うちに来てくれたんだい?」
「エース君とばったり会って。マルコが大変だって」
「・・・・給料上げとくか」
「こらこら」
マルコには私が必要で、
私にもマルコが必要で。
2人だから生きていけるんだろうな。
