短編⑥
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「体調管理も出来ないくずでごめんなさいいぃぃ」
「・・・・相当だなこりゃ」
「そのうえエースにまで迷惑かけてごめんなさい・・・!」
風邪を引いて寝込んでいる私のところへ、
幼馴染であり高校の同級生のエースが見舞いに来てくれた。
でもまあ私は喉も痛い頭も痛い鼻水も出るで体調最悪なもので、
メンタルも最悪。
「親御さんは?」
「2人とも仕事。夜まで帰らない」
「どっちか残れねェのかよ・・・」
エースが呆れたように呟くから思わず私も苦笑する。
「小さい子じゃないから大丈夫よね、何かあれば電話してって」
「飯は?」
「アプリで出前取ってって」
「・・・お前ん家ってホント」
ほんと、で止めたエースの言いたいことはよくわかる。
でもまあ両親が仕事してくれてるおかげで物質的な豊かさは享受させてもらってるわけだし。
暴力やモラハラとかも受けてないし、
1年に1回くらいは旅行に連れていってもらえることもあるので不満はない。
・・・少し寂しい、とは思うけど。
「・・・ごめん」
「お前が謝ることじゃねェだろ。インスタントだけど色々買ってきた」
こんなことだろうと思ってたよ、とエースがビニール袋を探る。
「まず粥食うか?そんでそのあと薬な。・・・薬あるよな?」
「たぶんある」
「飲んでねェのかよ・・・」
「そういう家じゃないから」
具合が悪かったらとりあえず寝ておけ、だから。
怪我をしたら絆創膏や湿布は使うけど。
「とりあえずデザートはプリン買って来た」
「お・・・・お金・・・」
「いーから気にすんな。寝てろ」
エースにお金を渡そうと起き上がったら片手で倒された。
「あと飲み物も買って来た。熱は?」
「微熱・・・・」
「微熱ん時が1番やっかいなんだよな」
「そうだっけ」
「ガキの頃やたらと元気なアコと遊んだあとお前の親から38℃熱あったって電話かかってきた」
高熱ん時ハイテンションになるんだよお前は。
と呆れ顔のエース。
・・・・そんなこともあったかな。
「ありがとエース。おかゆ、自分で作るから。もう大丈夫、だから」
「病人にさせられっか、バカ」
「でも・・・」
「でもも鹿もねェ。あっためるくらいなら俺にも出来るっての」
「そりゃそう、だろう、けど、ごほっ」
「ほら寝てろ」
「・・・・ごめん、ね」
「はいはい」
エースは飲み物を私に無理やり渡すと台所に向かった。
・・・昔からエースは、口は悪いけど優しい。
だからこうして、複雑な家庭の私の面倒をよく見てくれる。
自分だって複雑な家庭のくせに。
自分のことはいい、と私を気にかけてくれる。
そんな私たちももう高校生。
私たちはいつまで幼馴染でいられるんだろう。
いつまでエースは私を気にかけてくれるんだろう。
いつか、エースに彼女が出来たら。
そしたら私はきっとエースにとって邪魔になる。
そしたら私は生きていけるだろうか。
・・・私は。
「おーいアコ」
「はいっ!?」
「粥、出来た。食えそうか?」
「も、もも申し訳っ」
慌てて起き上がればエースが笑った。
「粥は逃げねェから落ち着け。火傷すんぞ」
「い、頂きます・・・・・あふっ」
「馬鹿、だから言っただろ。ちゃんと冷まして食えよ」
「・・・ん」
お粥が熱かったこと、でも美味しかったこと、
エースが優しく笑って私の側にいてくれてること。
いろんな感情が入り混じって涙が出てきた。
「っておい!?そこまで痛かったのかよ!?それとも飯が不味かったのか!?」
「情緒不安定でごめんんん・・・・!!」
訳のわからないことでまたエースを困らせた。
私は、最低だ。
最悪だ。
せっかく作ってもらったお粥が冷めちゃう。
頑張って泣き止もうと目を擦っていたら、
ふわりと包み込まれた。
「え・・・・エース駄目だよ!?ごほっ」
「何がだよ」
エースが、私を抱きしめてくれていて。
背中をぽんぽん、と優しく叩かれる。
「風邪、うつっちゃう」
「そーだよ。お前風邪ひいてんだよ」
「だから、」
「だから情緒不安定になんのは当然だろ」
耳元で響く優しい声。
「でも、エースに」
「俺は滅多なことじゃ風邪ひかねェ。知ってんだろ」
「それは・・・でも、もしエースにうつったら私もう生きていけない・・・」
「大袈裟だ、バカ」
「・・・・ごめ、ん」
はあ、とため息が耳にかかった。
くすぐったい。
「ごめんはもう聞き飽きた」
「ごめ・・・あ、えっと」
「いいか、よく聞け」
「・・・・あい」
エースの声が心地いい。
「俺がアコの世話焼くのは迷惑じゃねェ」
「そう・・・なの?」
「俺がお前の側に居たくてやってるだけだ。だから気にすんな」
「・・・・有難う」
「おう。むしろこの役目は他の誰にも渡すつもりもないからな、これからもずっとだ」
「っそんなのエースが、」
「可哀想、とか言うなよ」
「いやでも可哀想過ぎる、エースの人生なのに」
「その俺が選んだんだよ。・・・だからお前も、選べよ」
「何を?」
「俺を」
「・・・エースを?」
「アコの人生俺にくれ」
「・・・いいよ」
エースになら。
そう思って答えたのに、
「簡単に返事すんなバカ。とりあえず今は風邪治せ。ほら、食い終わったら薬な」
「・・・有難うねエース」
ごめんじゃなくて有難うが心からすっと出てきた。
エースはひひっ、と笑って、
「傍に居るから、安心して寝てろよ」
「絶対早く治して好きって言うから!!」
待ってる、と笑うエースを瞼に焼き付けて私は目を閉じた。
