短編⑥
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「で、何があったんだ?」
とある島に上陸して3日目。
船内で落ち込んでいる私を見かねてお頭が昼食に誘ってくれた。
「昨日私1人で町に出たじゃないですか」
「ああ、それで俺にしこたま説教された」
「ですね」
「・・・・まさかそれで落ち込んでるのか?」
そんなタマじゃねェだろう、とお頭は笑うけど。
・・・確かにお頭の説教が原因で落ち込んでる訳じゃない。
割とあることだし。
「町に出た時にナンパされたんですよ」
「・・・・そいつに何かされたのか」
低くなった声音に思わず苦笑するけど、
首を横に振ることは出来なかった。
「されたんだな?何をされた」
沈黙を肯定ととったらしいお頭の目が真剣で、
「されたというか・・・私がしたからされたというか・・・」
慌てて言い訳を試みる。
「したからされた?」
「ナンパされたらまずご飯とか行くじゃないですか」
「酒を無理やり飲まされたのか?」
「お酒どころか普通に観光案内してくれました」
景色のいいところとか。
「それが不服だったのか?」
訳がわからん、とお頭は首を傾げる。
「私お昼ご飯食べてなかったんですよその時」
「なるほど、アコは腹が減ってた、と」
「です。だから何か食べたいと申し出たんですが、この島に来たらまずこの景色を見なきゃとか色々連れていかれて」
「・・・・予測は出来るが一応続きを聞こう」
お頭は笑いを堪えている様子で続きを促した。
「・・・・あまりの空腹に暴れてドン引きされました」
「だぁっはっは!!やっぱりそうか!」
「笑ってる場合じゃないですよ!美味しいお店連れて行ってくれるかと思ったのに!」
弾けるように笑ったお頭になんともいえない複雑な感情が沸き上がる。
・・・・恥ずかしい。
「ドン引かれてフられたのか?」
「何か俺邪魔みたいだから帰るわ、って。せめて美味しいお店紹介してから帰って欲しかった・・・!!」
「下心があっても、か?」
「下心のある人なんて近寄ってきませんよ私に」
「・・・・昨日の説教じゃ物足りなかったみたいだな?」
「あ、えーっと下心のある人はのーさんきゅうです」
「その前にナンパされてほいほいついていくなと何度言ったらお前は・・・・」
まったく、と言いながらお頭がため息を吐く。
「その点につきましては重々反省しておりますので・・・」
「心配するな、もう怒っちゃいねェ」
「あ・・・さすがお頭!」
やっさしい、なんて媚びを売ろうと思っていたら、
「もう2度と目を離したりしねぇからな」
とぴしゃり。
・・・・・本気と書いてマジと読む瞳。
こっわ!!
「まあ結局ここのご飯が1番美味しいんですけどねー」
「俺もナンパしようと思っていたところだったんだが」
「ここには連れてこないでくださいよ」
「気になってるんだろう?この島の飯屋が」
行かないのか?とお頭はニヤニヤ。
何を言い出すかと思えば、お頭はどうやら私をナンパしたいらしい。
「お頭の奢りです・・・?」
「勿論だ」
「ちなみに美味しいお店をご存じで?」
「初日にルゥが美味い店を引き当ててな」
「行きます!行きたいです!!」
ルゥさんの嗅覚なら間違いないし!!
「決まりだな。準備しておけよ」
「はーい」
お頭は心配性だから私が1人で行動するのを止めたがる。
でもいくら世界広しとはいえ私に下心あってナンパするような人なんてそうそう居ないと思ってる。
何はともあれ、今日はゆっくり楽しい夕飯が食べられそう。
「・・・・・・お頭」
「すまんすまん、もう少しで着く」
人生にはトラブルがつきものだ。
わかってる。
夜の街に出で、ワクワクで歩いていたらお頭が女性に囲まれたり、
お店の場所を間違えたり。
そんなこんなでまだお店に着かない。
「うぅ・・・お腹空いた」
「こっち・・・・だったか?」
「どっちですか!?もう!!」
こうなったらお店着いたらいっぱい食べてやる。
お酒もいっぱい飲んでやる!!
「お、あの辺だった気がするな」
希望が見えてきた矢先、
「あのぉ、赤髪のお頭さんですよねえ?」
「ああ、そうだが」
「きゃー実はさっきからかっこいいなあって思っててぇ」
・・・・また女性に声をかけられた。
このままじゃ進まない。
このままじゃ私のお腹はいつまでも満たされない!!
「すみませんお姉さんがた、口幅ったいことを言うようですが見てわかりませんかね、邪魔です」
早口で今の気持ちをぶちまけた。
「な・・・・・っ何この、」
綺麗なお姉さんに睨まれた瞬間肩を強く抱き寄せられた。
「まあそういう訳だ、すまん」
「し・・・・失礼しまし、た・・・」
さすがのお姉さんもお頭から言われては引き下がらない訳にはいかなかったらしい。
お頭はにこにこと嬉しそうに私を見て、
「妬いたのかアコ?可愛いなァ」
などとのたまう。
「やく・・・・焼き鳥もいいですね・・・!!」
じゅるり!!
「おっと、早く店に行かないと暴れそうだな」
「焼き鳥ありますか!?」
「あるある。美味いぞ、特にレバーとつくね」
「はあああ!!お頭!!早く!何処!?」
「あそこだ」
「頂きます!!」
我先にと店に入ろうとする私の腕を掴んで、
「俺が一緒なら暴れても構わねェが。男を誘惑するのだけはやめろよ」
「むしろお肉が私を誘惑してきます」
「だっはっは!それならいいさ!」
いいのか。
お頭の言っていたお店は何でもあって、
焼き鳥にチャーハンにラーメンにサラダを注文。
「おいひぃ・・・・!!」
食べてる時が1番幸せ。
「食ってる時が1番可愛いなァ」
「お頭も飲んでる時が1番幸せでしょう?」
「いや、俺はアコと居る時が1番幸せだよ」
なんて本当に幸せそうに微笑みながらお酒を飲むお頭は何処か艶っぽく見えて。
「え、あれ」
「どうした?」
「もしかして私今口説かれてます?」
「もしかしなくとも口説いてるつもりだが?」
「・・・下心のある人はのーさんきゅう」
「俺に限り問題はない」
「え、そうなんですか」
「腹が満たされてる時に口説くのが1番効く。そうだろう?」
核心的な笑みと視線に射抜かれて。
確かにお腹が満たされてるこの状況。
しかもお頭の奢り。
更に言えばお酒も少し入っている。
「・・・そうですね?」
「よし、それ食い終わったら俺の部屋に戻るぞ」
「はぁい」
そして私は見事に食べられましたとさ。
・・・・・お腹いっぱいで、
愛されて。
幸せなのは間違いない。