短編⑥
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「えーと、じゃあ1週間お世話になります」
「狭いところだが自分の家だと思って寛いでくれ」
「はあ、どうも」
乗り気じゃない私を見てシャンクスが苦笑した。
自分の家だと思って?
そんなの無理に決まってる。
だって自分の家じゃないんだもの、ここは。
今私の目の前で苦笑を浮かべている男、
シャンクスは昔仲良かった、うちの家の隣に住んでいたお兄さん。
私が思春期になる前にマンションに引っ越して行った。
あれから数年。
私は連絡を取ってなかったけど、両親とは交流があったようで。
今回親戚が亡くなったので両親がお葬式へと行くことになって、
けれど私は大学とかバイトとかもあるので1人残ることに。
私はそれで短いながらも1人暮らし!と喜んでいたんだけど、
未成年である私を1人残すのは心配だと両親(特に父が)、
今回彼のところで過ごすごように手配してくれやがった。
余計なことを。
別に女友達の家でお世話になるのでも良かったのに、信用出来ないと言われた。
未成年とは言え私も19歳。
年上の男と1つ屋根の下の方がどうかとも思うんだけど、親からしたら安心なんだろうか。
「ご両親は何処まで行ったんだ?」
「鹿児島です」
「焼酎が美味いとこだな」
「飲めないのでわかりません」
「・・・・アコはまだ高校生だったか?」
「大学1年です」
「よし、今夜は飲むか」
「未成年ですので」
思い出のシャンクスが消えていく。
こんな人じゃなかったはずなのに。
未成年に酒を飲ませようなんて。
「だっはっは、冗談だ」
「シャンクスさんは今どんなお仕事をされてるんですか?」
「シャンクスでいい。昔はそう呼んでくれてただろう?」
「・・・・シャンクス」
名前を呼べば嬉しそうに口元を綻ばせる姿は私がよく知ってるもので。
懐かしい、と思った。
「今は営業の仕事をしてる。帰りはそこまで遅くならないとは思うが」
「どうぞお気遣いなく」
我ながら素っ気ないとは思うけど。
久しぶりだし、どう対応していいかわからない。
「何かあったら遠慮なく言ってくれていい」
「有難う御座います」
・・・どんな顔をしていいのか。
「これが俺の番号だ、いつでもかけてきてくれ。おっと、そろそろ行ってくる」
「・・・行ってらっしゃい」
かくいう私も大学に遅刻するので行かないと。
えーと鍵はこれで、部屋の戸締りをして。
・・・・思ってたよりは綺麗な部屋で良かったけど。
これから1週間どうなるんだろう。
不安しかない。
1週間とは言え男の人と過ごすなんて友人には言えない。
今日は授業が終わったらバイトもないし買い物してから戻ろう。
・・・あの人の好きなものって何だったっけ。
昔一緒に焼き芋焼いたことあったっけ。
危ないからって私より前に出てくれて。
あと焼肉食べ放題も一緒に行ったことあったな。
ご飯もお肉もいっぱい食べてて驚いたっけ。
なんてことを思い出しながら無難に
カレーの材料をスーパーで買った。
2人分がどれくらいわからないながらも、
奮闘して何とか完成。
シャンクスはいつ帰ってくるかわからないし先に食べようか、
それとも何時ごろ帰ってくるか聞いた方がいいのか。
悩んでるうちに、
「・・・・アコ?」
帰って来た。
「おかえりなさい。台所勝手に借りて夕飯作ってみました」
「ああ、ただいま。美味そうな匂いだ」
「味の保証はありませんけど」
「いや、久しぶりのまともな飯だ。有難いよ」
「久しぶりのまともなご飯?」
首を傾げた私にシャンクスがごみ箱を指さした。
ごみ箱の中にあったのは食べ終えたカップ麺の器とかコンビニやスーパーのお弁当の空箱。
「うっわぁ・・・・」
「頂きます」
シャンクスはいそいそとご飯とルーを盛り私の隣に座った。
そしてカレーを口にして、
「美味い。・・・今まで食った中で1番だ」
と笑った。
「彼女とか・・・居ないんですか」
「あいにくと今まで居たことはねェな、こんな性格なもんで」
何処か寂しそうに語るシャンクスに胸が締め付けられた。
こんな、って言うけど。
「・・・・シャンクスは優しいじゃん」
「そうか?」
「小さい頃から私の我儘に付き合ってくれたし、今回だって」
「今回のことは別に迷惑なんて思っちゃいねェ。久しぶりにアコに会えて嬉しかったしな」
忘れてない、シャンクスはずっと笑顔で私と遊んでくれてたこと。
「私も・・・嬉しかった」
「大学は何処に行ってるんだ?」
「A大学」
「頭いいんだなァ。バイトは何を?」
「駅前のファミレス」
「変な客来ないか?」
「来るよ、いっぱい」
「ナンパされたりとか?」
「そういうのはだいたいスルー」
シャンクスは私の作ったカレーを美味い美味いと食べてくれて、
「何かあれば今日教えた番号に電話してくれ、いつでもいい」
「・・・過保護だなあ相変わらず」
夕飯は話も弾んだ。
「過保護、とは違うな」
シャンクスの何かを含んだ言い方が気になったけど。
「・・・・そう?」
「明日はバイトは?」
「ある。夕方から20時まで」
「じゃあ明日の夕飯は俺が作ろう」
「シャンクス自炊出来るの?」
「やろうと思えば出来るさ。ただ1人分だとどうも面倒でな」
「それはわかる・・・かも」
確かに私も1人だったらカップ麺やお弁当、外食で済ませそう。
買い物に調理に後片付け、大変だもんね。
「何か食べたいものはあるか?」
「私の嫌いなものが入ってない料理」
「ははっ、難しいな。・・・引き受けた」
ほら、シャンクスは優しい。
「明日の夕飯楽しみにしてるね」
夜はシャンクスがベッドを貸してくれた。
シャンクスは居間でお布団。
私がお布団でいいと言ったんだけど言い張って聞かなかったので甘えることにした。
良かった、1週間大丈夫そう。
次の日バイトを終えて帰ると、
「おかえり。今日の夕飯はこれだ」
と自信満々の笑みでシャンクスが出してくれたのは、
「オムライス?美味しそう」
美味しそうなオムライス。
頂きます、と口にしてみると意外と美味しい。
・・・・でも。
「どうだ?」
「美味しい・・・けどグリーンピース入ってないのね」
シャンクスは私の答えにきょとんとする。
「アコはグリーンピース嫌いじゃなかったか?」
「昔はね。今は克服して大好き」
「・・・・そうか、克服したのかァ。偉いなぁ」
「でもオムライスが好きなことに変わりないし、有難う」
感慨深く呟くシャンクスにお礼を言えば、嬉しそうに笑った。
「アコは大学を卒業したらどうするんだ?」
「適当に就職して1人暮らししたい」
「1人暮らし、か」
「・・・やろうと思えば出来ると思うけど」
お前には出来ないと言われたようでむっとして返せば、シャンクスは違う、と笑った。
「2人暮らし、なんてのは興味ねェか」
「2人暮らし?誰と」
「勿論俺と、だ」
「はい!?」
「アコの行ってらっしゃいとおかえりが忘れられない、と言ったら笑うか?」
「笑いは、しないけど・・・」
驚いた。
「返事は急がない、考えてくれないか」
正直に言えば初恋はシャンクスだった。
それが今回の再会で、今はもう打ち解けることが出来て嬉しくないはずがない。
私が好きなシャンクスは変わってなかったのだから。
「でも、それってシャンクスに彼女が出来たら出て行かなきゃいけないってことでしょ?」
「・・・彼女になって欲しい、と言ったつもりだったんだが」
「えっ」
「あと5日ある。チャンスを逃がすつもりはねェ」
よろしく頼む、と私を撫でたシャンクスは男の人の顔をしていた。
そして私はばっちり落とされましたとさ。