短編⑥
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「そんで、タクシーの運転手が振り返ったらそこには誰も居なかったんだってよ」
「うわっ怖っ無賃乗車じゃん運転手さん可哀想・・・・」
幼馴染のエースが怖い話を聞かせてやる、と言うので聞いてみたら。
本当に怖かった。
「いやお前怖がってねェだろ全然」
「怖いじゃん!!無賃乗車なうえに誰も責められないんだよ!?」
走り損だよ営業妨害だよ!!
エースの話し曰く、
真夜中にタクシーを走らせていたところ、
女性が乗ってきて墓地まで、と言う。
目的地まで着いたところで確認をとろうとしたら乗客の女は消えていた、というものだった。
可哀想過ぎる。
「そこかよ」
「だって夜中なんて言ったら結構いいお値段とれたはずなのに!!」
深夜料金だったはずなのに。
「いや人が一人消えてんだぞ」
「何?運転手さんが殺したってこと!?」
それはそれで怖い!!
「乗客が人じゃなかったってとこだろ」
「やっぱり幽霊でも移動は疲れるってこと・・・?」
だからタクシーに乗ったのかな。
「アコってホントこの手の話し怖がらねェよな」
「むしろ私は貴重な夏休みに押しかけてきてこんな話をするエースが怖いわ」
そう、今は高校生の私たち・・・3年生の私とエースにとっては高校最後の夏休み。
そんな貴重な1日に何故か突然エースがうちに来て、
部屋に上がり込み、
何か用かと問いただした私に怖い話を聞かせてきたのだ。
「まあ、つまりだな」
「うん」
「今日肝試ししようぜ」
「絶対に嫌」
ようやく本題を切り出したかと思えばこれだよ!!
「怖くないんだろ?」
「貴重な夏休みの夜が奪われるのは怖い」
「高校最後の夏休みだぜ?普通に終わるのもつまんねェだろ」
「それはそうだけど・・・・」
「・・・俺と一緒がそんなに嫌かよ」
「エースと一緒はいいけど肝試しが嫌。面倒だし失礼」
エースが言いたいこともわからなくもないけど。
「墓地とかは行かねェ」
「じゃあ何処行くの?」
「史跡」
「史跡!?」
そんなところあったっけ!?
「この間サボと出掛けた時見つけたんだ、公園の奥の方に祠があった」
「そこは普通に昼連れて行ってよ・・・」
「夕方見つけた時何か出そうだなってサボと話しててよ」
「じゃあサボ君と夜行きなよ」
「サボはもう行ったんだよ彼女と」
なるほど理解した。
つまりエースはサボ君に張り合ってる訳ね。
「エースも彼女と行けばいいのに」
「・・・・いねェよ」
不機嫌そうにぶすっとした顔で呟くエース。
不思議だなあエースモテるのに。
「史跡かあ」
史跡ならまあ興味ないことはない。
「夜なら今より涼しいだろ」
「確かに」
「無賃乗車される心配もないぜ?」
「それはそう」
「行くよな?」
「行く」
「っしゃ!!」
何処か必死なエースに頷けば満面の笑みでガッツポーズ。
そんなに肝試し行きたかったの・・・?
幼馴染のよしみだ、仕方ない。
「肝試しってことは夜でしょ?夕飯うちで食べてく?」
「今日おふくろさんいんの?」
「居ないから私作るけど」
「メニューは?」
「オムライス」
「アコの作るオムライスなら間違いねェな、食う」
オムライスは私の唯一の得意料理だから。
「じゃあ夕飯まで一緒にゲームしよっか」
「絶対負けねェ」
「はいはい」
エースとはいつもこんな感じで、
でも今は高校最後の夏休みで。
・・・・いつまでこんな関係が続くのかなとふと思った。
「ご馳走さまでした!」
「お粗末様でした」
エースは私の作った超大盛オムライスをぺろりと平らげた。
「そろそろ頃合いじゃねェ?」
「行きますか」
外を見ればもう暗い。
戸締りをしっかりして。
「A公園?」
「いや、B公園の奥」
「おっけ」
B公園かあ。
小さい頃行ったけど最近はあんまり行ってないな。
「何か出るといいな!」
「出て欲しいの?」
「出てきたら面白ェだろ、ルフィにも自慢出来るし」
「願いごと叶えてくれたらいいのに」
暗い夜道を2人でゆっくり歩きながら話す。
こんなことも久しぶりかもしれない。
そもそもエースとも最近あまり話せてなかった。
お互いに同性の友達が居るのだから当然で。
「幽霊に願いごとかよ。代償に連れてかれるぞ」
「エースが守ってくれるもーん」
「・・・・ちなみに何て言うんだ?」
「美味しいものがいっぱい食べたい」
「おかしいだろそれ」
「あと恋人が欲しい」
「・・・あーまあそれなら叶う、かもな」
「まじで」
なんてくだらない話しをしているうちにB公園に到着。
昼間は賑やかだったはずだけど今は誰も居ない。
ブランコが静かに揺れてる。
「・・・・雰囲気はあるね」
「だろ」
「で、史跡は?」
「そこの奥」
エースの指さす先に見えたのは細い道。
「祠が?」
「あったんだよ。行くぞ」
「ん」
確かにこれは雰囲気ある。
真っ暗で、静かで。
夏だというのに涼しくさえある。
2人無言で進んでいくと見えた小さい祠。
「・・・・祠、だね」
「願い事、するんだろ」
「そうね、祠になら呪われないよね」
「たぶんな」
えーとえと、
「美味しいものがいっぱい食べられますように、恋人が出来ますように。それから」
「まだあんのかよ」
「エースが幸せでありますように」
高校最後の夏休みに私の家でごろごろするくらいには家に居場所がないんだと思う。
エースの家は複雑な家庭だから。
だからそんなエースが幸せであって欲しいと願った。
「・・・それ全部叶えられっけど」
「え、まじで」
瞬間強く腕を引かれてエースに抱きしめられた。
「俺がアコの恋人になる」
「・・・・エース、が?」
「お前に美味いもんいっぱい食わせてやれるし、お前には恋人が出来るし俺は幸せ」
嫌かよ、と耳元で不貞腐れた声が聞こえた。
「・・・・嬉しい、でも」
願いが全部叶うなんて。
「でも何だよ」
「エース優しいから私の為に無理してっ」
「ねェ。もともと今日告白しようと思って来てんだっての」
「そ・・・・そうなの?怖い話ししておいて告白?」
「アコ全然怖がってなかっただろ」
「いや怖かったよ」
「無賃乗車が?」
「深夜料金踏み倒しが」
2人見つめ合って、
「ははっ、ったくそういうとこすげェ好きだ」
「私もここで笑ってくれるエースが好き」
高校最後の夏休み、らしい1日になりました。
しばらくの間その祠は縁結びの祠と呼ばれたらしい。