短編⑥
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「海賊?あなたたち海賊なの?」
「い、一応・・・・」
露骨に嫌な顔をされて思わず苦笑を浮かべるも、
隣のお頭の顔を見ればにこにことしている。
たいしたものだ。
・・・いやまあ単純に慣れてるんだろうけど、
私はいまだに慣れない。
海賊だ、と恐れられることに。
特に目の前の彼女は、今の今まで親し気に話してくれていたからなおのこと。
新しくたどり着いた島。
いくつかある酒場の1つに入った私たちは、
そこで10歳ほどの少女と出会った。
彼女はこの酒場の店主の娘さんで、
看板娘らしく、愛想も良くて可愛いらしかった。
私たちを旅人だと思ったらしく、
お頭や皆の話しを聞いては楽しそうに笑っていたんだけれども。
店主さんは私たちのことを知っていて、良い顔をしなかった。
しまいに、
「あんまり憧れるもんじゃないよ、海賊なんて」
と娘に忠告。
この言葉で少女の顔色が変わり冒頭に至る訳だけども。
「だぁっはっは、その通りだお嬢さん。俺たちは海賊だからな、憧れてもいいことなんか1つもねェ」
「ええ、本当に。私の大切な人を奪わないでくださいね」
少女に睨みつけられるもお頭は余裕の笑みで、
「さあ、どうするか」
なんて呟く。
そこは普通に心配ないくらい言っておけばいいのに!!
「こら、仮にもお客様だぞ。すみませんね、お客さん」
うちの娘が失礼なことを、と店主さんが頭を下げた。
「何、全部事実だ。謝られるようなことはねェさ」
俺は酒が飲めればいいんだ、と笑うお頭。
他の皆もたいして気分を害した風でもなく普通に飲んでる。
・・・さすが、といったところ。
「・・・ごめんね」
と私が控えめに謝れば、ふん!と顔を背けられてしまった。
「私は絶対に許さない」
そしてそう呟いてお店の奥に引っ込んで行った。
「ありゃあ・・・・」
「嫌われちまったみたいだなァ、アコ」
「ま、海賊なのは事実ですしねえ」
「随分あっさりしてるな。もっと落ち込むかと思ったが」
「大切な人を奪われたらああも言いたくなりますよ」
あの子の気持ち、少しわかるから。
恐らく犯人である海賊には太刀打ち出来なかったのだろうから。
『海賊』でひとくくりにして恨みたい気持ちも、わかる。
しんみり呟いたらお頭の手が私の髪の毛をかき乱し始めた。
「・・・・お頭」
わしゃわしゃと思い切りかき乱したあと満足そうに笑ったお頭は、
「心配しなくていい。俺たちはお前を残してどうにかなったりはしねェから」
ぐびりとグラスに残っていたお酒を飲み干した。
「そりゃあ・・・・そうでしょうけど」
お頭も、皆も強い。
そう簡単に誰かにやられるような人たちじゃない。
それでも、もし。
・・・・皆が、お頭が。
私の前から消える日が来たら。
誰かの手によって。
私たちは海賊だし、皆もそれは覚悟の上。
そんなこともわかってはいるけど。
それでも私はきっと許せないだろう。
「よし、そろそろ出るか」
「・・・ですね」
皆は、と聞くとまだ飲んでると答えが返って来たので、
お頭と2人でお店を出た。
まあ残ってるメンバーにベックさんもいるし大丈夫でしょう。
外に出たら冷たい夜風が頬に当たって気持ちよかった。
「わ、気持ちいい・・・」
「少し散歩して戻るか」
「そうしましょう!」
お頭の申し出に喜んで頷いて、見知らぬ街を歩く。
「・・・ここは、いい島だなァ」
「そうですか?」
まあ確かに平和ですけど。
「空気がいい。人の顔もだ。何より酒が美味い」
「・・・お頭のお酒が美味しいのはいつものことでは」
ちょっと揶揄って言ってみたら、
「不味い時もあるさ」
と苦笑を浮かべた。
・・・・あるんだ。
「・・・例えば?」
「アコが隣に居ない時」
「他には?」
「アコが悲しそうな時、落ち込んでる時とかだな」
「隣に居ない時はともかく落ち込んでる時なんてあんまりないと思うんですけど」
「今は違うのか?」
すべてを見透かすような視線。
たぶんさっきのことを言ってるんだろうけど。
「寂しくなかった、と言えばウソになります」
寂しかった。
それまで向けられていた笑顔が消えてしまったこと。
本格的な敵意こそ向けられなかったものの、
明らかな嫌悪感を向けられたこと。
「それでも私は海賊であること・・・皆の仲間であることに誇りを持ってますから」
「・・・そうか。無駄な心配だったな」
「ええ、私をこの島に置いていこうとしても無駄ですよ」
小さく肩を撫でおろしたお頭を見てちくり。
「・・・わかったか?」
「バレバレですよ」
でなきゃいい島だな、なんて言わない。
・・・・少なくともあんな寂しそうに言うことはない。
「俺とて易々と手放す気はねェが、惚れた女には笑ってて欲しい・・・と思ってる」
「なら私から皆を奪わないで下さい。もし奪おうとするならお頭でも許しませんよ」
「アコの守りてェもんは俺たちが必ず守るさ」
「・・・有難う御座います」
嬉しくて御礼を伝えたら腰に手が回されて。
でもお頭の視線は前。
「で、惚れた女ってのに対する反応はねェのか」
なんて何処か拗ねたように呟くものだから思わず笑ってしまった。
「好きな人に必ず守る、と言ってもらえて私は幸せものです」
これ以上不貞腐れられても面倒なので、あえてそう返せば、
ぐっと腰を引き寄せられた。
「戻ったら飲みなおすか」
「いいですね、2人だけで」
「今日もいい夜になりそうだ」
夜遅くに船に戻ってきたベックさんが、
あの女の子が私に謝りたいと言っていた、と教えてくれた。
「明日も2人であの店に行きましょうか」
「ぼったくられそうだなァ」
「それはそれで」
明日もいい日になりそうです。