短編⑥
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恋人のシャンクスと喧嘩した。
ので。
むしゃくしゃして、1人で飲みに来た。
飲まなきゃやってられないのよ。
とは言え、これでもう日本酒2杯のビール3杯、チューハイに切り替えてそろそろ飲み過ぎてる。
・・・・ツマミも頼まないとね。
シャンクスにもよく言われるっけ、酒ばかり飲んでると身体に悪い、とか。
・・・・いやいやシャンクスが何だ。
あんな奴。
でもお腹は空いているから何か頼もう。
焼き鳥、お寿司・・・・あ、卵焼きいいなあ。
・・・・シャンクスが作ってくれた卵焼きは、焦げてたけど美味しかったな。
なんて結局シャンクスを思い出してしまって、
少し泣きそうになった。
・・・少し落ち着こう。
周りのガヤガヤした騒音が心地よく耳に響く。
この場所を選んで正解だった。
こんな時に静かなバーでなんて飲んでられないわ、とよくあるチェーン店の居酒屋。
人も多いしこういうとこに1人で来るなんて想像出来ないだろうから、
シャンクスも私の居場所はわかるまい。
ぶぶ、とテーブルの上のスマホが振動した。
もう何回目だろうか。
見なくてもわかる、シャンクスからの着信だって。
絶対見ないし出ないけど。
少しは反省すればいいのよ。
・・・・何ならもう別れてやろうかしら。
合コンで出会ったシャンクスは。
約束があっても仕事仲間から呼び出しがあればそちらを優先させ、
デートしてても仲間から呼び出しが、と言っていなくなる。
最初はまあいいか、なんて思ってたけど。
今ではそうは思えない。
仲間を大事にすることはいいことよ。
女じゃなくて本当に仲間なんだとは思ってる。
でもね、限度ってものがあるでしょう。
何回そう伝えても悪い悪い、と言うだけ。
へらへら笑うだけ。
そんなところがもう限界で、
でも次の恋人を探す気にもなれなくて。
こんなところで1人飲んでる訳で。
「おねーさん1人?」
「・・・・そう、1人」
だと言うのに声をかけられた。
見た目20代前半くらい。
顔は好みじゃないな。
「ぐーぜん、俺も1人!一緒に飲も?」
「あー・・・・悪いけど今そんな気分じゃないの。ごめんなさいね」
「なになにぃ、恋人と喧嘩でもしたの?」
「そんなとこ」
「こんないい女泣かせるなんて酷い男じゃん」
「泣いてません」
「でも泣きそう?」
「殴らなかったことを後悔してるのよ」
辛うじて残っていた最後のおつまみ、枝豆を口に入れて、
レモンハイで流し込んだ。
「俺なら後悔させないけどな」
「今殴らせてくれるの?あなたを?」
「いやいや、おねーさんにそんな顔させないってこと」
「・・・・そうね、そうかもしれないわ」
「え、じゃあ俺と一緒に飲も?」
「飲まない。帰る」
「え、何か頼むんじゃないの」
ホント注文する前で良かった。
「やっぱり殴って来ようと思って」
そうしないといくら飲んでもスッキリしないことに気づいたのよ。
「じゃあ送るよ、家何処?」
いい加減しつこいな、と睨みつけようとしたら何かが視界を遮った。
「その必要はない」
「あ」
「・・・・えーっと、俺お邪魔虫?」
「理解が早くて助かるよ。殴られに来たんだ、あとは俺に任せてくれればいい」
・・・遮ったのは赤い髪。
あーあ。
「他あたるわ、またねおねーさん」
ひらひらと手を振って彼は去って行った。
「・・・・・わざわざ殴られに来たの?殊勝なこと」
私の目の前に居るのは間違いなく、私の恋人のシャンクスで。
・・・・何でここがバレたんだろ。
「ああ、いくらでも殴られよう。だがその前に話しがあるんだアコ」
「・・・なら場所を変えましょ」
「ここは俺が払おう」
「自分が飲み食いした分は自分で払う」
「・・・・これくらい、させてくれないか」
何でもない日の奢りとか、そういうの私が嫌いなの知ってるくせに。
「・・・・・今日だけね」
奢られる側が偉そうなのもおかしいわ、まったく。
私の返事にシャンクスは苦笑しながら伝票を持ってレジに向かった。
・・・見つかってしまったことも、
結局奢られることになってしまったことも悔しくて、
私は1人店の外に出た。
話しがしたい、とシャンクスは言ったけど。
「また逃げられたかと思った」
と、シャンクスがお店から出てきた。
「どうしてここに居るのかわかったのかは知らないけど、話しなら明日でも良い?」
「・・・いや、ダメだ」
はぁ、と小さくため息が漏れた。
シャンクスは頑固だからこうなったら仕方ない。
「見てわかると思うけど私今酔ってるの。それでも話しがしたい?」
ゆっくりと諭すように話しかける私の手をシャンクスの手が絡めとった。
「・・・・シャンクス?」
「さっきの男についていく気だったのか?」
「は?」
「俺が、来なかったら。アコはあのまま」
シャンクスは真剣な顔で私を見つめる。
・・・真剣、というか。
何処か怒ってるような。
いや怒ってるのこっちなんですけど。
「行く訳ないじゃん、バカ?」
「・・・・っいやしかしだな、あの時あの男ならお前にそんな顔させないとか話してただろう?」
「したかもね」
私の反論にシャンクスは少し不意打ちを喰らったような顔。
「つまり、俺じゃ役不足だと、そういうこと・・・だろう?」
「あの男じゃさせられないってことよ」
「させられない?」
「むかつくとか、悔しいとか。・・・・寂しいとか、そんな風に思ったりすることはないわよあんな男じゃ」
お酒の勢いで素直な気持ちを吐露すればシャンクスの口角が少し上がった。
何で私はこんな人がこんなにも好きなんだろう。
・・・何処を、こんなに好きになったんだっけ。
「・・・聞いてくれ、俺は」
「電話」
何かを話しかけたシャンクスのポケットから鳴り響く電子音。
「・・・俺は」
「出なくていいの?大切なお仲間さんだと思うけど」
「・・・・・すまん」
ほら結局そっちを優先するのよね。
この隙に逃げようと思ったのに、
繋がれた手の力は強くて離れられない。
聞きたくもないシャンクスの話声が耳に届く。
「わかった、助かる。いや、そのままでいい」
・・・・仕事の話しなのは声のトーンで何となくわかるから、別に浮気を疑ったりはしてないけど。
ああ不愉快。
「そのまま証拠を掴んで3日後に。いい、俺が責任を取る。逮捕だ」
・・・・・は?
「頼む、ああ。じゃあ」
そう言ってシャンクスは通話を終わらせたようだった。
「・・・・・逮捕されるの?シャンクス?」
「俺が?まさか。する方だ」
「する方!?」
「言ってなかったか?俺の仕事は」
刑事だ。
・・・・・・・・おう。
「・・・・・・それじゃあそうなる訳よね」
聞いてなかったわ。
ああ、でも思い出した。
楽しそうに飲んで話してる時とは裏腹な、
電話中の真剣な横顔が好きなんだった。
困ってる人を助けるところも。
デート中にお酒を飲まなかった理由もわかった。
「勿論だからと言って恋人をないがしろにしていい理由にならねェのは、わかってるつもりだが」
「・・・それは、そう」
「だから殴ってくれ、気のすむまで」
「それ私が逮捕されるじゃない」
「本人が納得してるんだ、問題はねェ。あったとしても俺がもみ消すさ」
・・・・本当にバカだなあこの人。
「・・・目、閉じて」
「わかった」
素直に目を閉じたシャンクスの額に、
指をピン、と弾いた。
「・・・・いた、くはないな」
目を開けたシャンクスは苦笑を浮かべてそう呟いた。
「ちょっとは痛い思いして欲しかったのに」
そういうとこムカつくのよ。
「すまん。・・・・どうしたら許してもらえる?」
「無事に定年退職して退職金もらうまで側にいてくれないと許さない」
「退職金が出たら2人でゆっくり温泉旅行にでも行こう」
「・・・怪我、しないでね」
「ああ。・・・愛してる」
「そういえばどうしてここがわかったの?」
色々納得したところでそういえば疑問がまだ残ってたことを思い出す。
シャンクスはこの問いに対して、
「聞き込みは得意なんだ」
と笑った。
・・・・・彼から逃げることはもう出来ないのかもしれない。