短編⑥
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「俺と結婚して欲しいんだよい」
映画を見た帰りだった。
手を繋いで映画の感想なんかを言い合っていたら、
主役の男ほどのことは出来ねェけど、よい。
と呟いたマルコが確かにそう告げた。
「え・・・・私、と!?」
「お前以外に誰が居るんだよい」
的確なツッコミに納得しながらも戸惑いは隠せない。
「マルコが・・・・私と結婚?」
「・・・・嫌かい?」
何て優しい笑みで首を傾げられたら。
「嫌な訳ない。・・・・私で、良ければ」
喜んでお受けします、と頷いた。
それからはあれよあれよという間にいろんなことが進んだ。
お互いの親への挨拶、
入籍、保証人、結婚式はどうするのかなどの話し合いに。
式場の予約と招待状の準備。
同居の話しに、家具や家賃、家事の割合の相談も。
別にそれで嫌なことがあった訳じゃない。
大変だけど楽しいこともあるし、
マルコも仕事の傍らちゃんと協力してくれるし、よくやってくれてると思う。
マルコとの結婚だって嬉しい。
いつかは、と思ってたし。
・・・・・なのに。
「・・・・・・はぁ」
仕事、からの打ち合わせを終えていったん自分の家へ帰宅。
引っ越しの準備もしないとなあ。
最近出てくるのはため息ばかり。
疲れた。
私の家もマルコの家も2人で住むには狭いから新しくマンションを借りて引っ越すにも、
家具をどうするだの色々揉めてる。
マルコはこだわりがあまりないように見えて結構強いこだわりあるから。
こんなに大変だなんて思わなかった。
眠る時もあれどうしよう、これもどうしようってことばかり。
こんなんで大丈夫なのかしら。
・・・・マルコと、結婚。
式挙げて2人で住んで。
そもそも同棲もしてないのにいきなり大丈夫かな。
半年でマルコが私に呆れて離婚、なんてことになったら。
・・・・逆に私がマルコを嫌いになることが、あったら。
私このままマルコと結婚していいのかな。
「ここにはこのソファーを置くんでいいかい?」
「・・・・・うん」
「・・・・アコ?」
「・・・・いいん、だけど」
「けど?」
「来客用にしようと思ったらもう少し大きいのにしてもいいかなあって」
「来客なんてそうねェだろい」
「そうかなあ」
最初だけだろい、とマルコは言うけど。
マルコは知り合いも多い。
ということが結婚式の招待の話しの時にわかった。
私にもマルコには敵わないけど、まあ家に呼びたい友人はそこそこいる。
「こっちのソファーがちょっと値は張るんだけど・・・」
「その分部屋が狭くなるよい」
「嫌なの?・・・じゃあいい」
「嫌とは言ってねェだろい」
「だってそういうことでしょ?」
「・・・アコ、少し落ち着け」
なんてマルコに宥められても私の気持ちは収まらなくて。
「マルコのそういうはっきり言わないとこ嫌い」
ぶつけた言葉にマルコはため息を漏らす。
「自分の性格を考えてみろい、後々後悔するかもしれねェだろい」
「こっちにしない方が後悔するかも」
口に出しながら心の中で落ち着け、と唱える。
わかってる。
マルコの言うこともわかるって。
こんなのただの売り言葉に買い言葉だって。
「アコがこれでいいって言うなら俺は何も言わねェが」
「本当は嫌なくせに」
「・・・・アコ、いい加減に」
「ごめん、今日はもう帰らせて。・・・1人になりたい」
いい加減にしろ、と言い切られる前に遮った。
「・・・落ち着いたら連絡くれるかい」
「わかった」
・・・・こんな風になるはずじゃなかった。
結婚準備ってもっとワクワクで、ドキドキで。
大変なことがあってもマルコと2人なら乗り越えられると。
・・・・思ってた、のに。
ダメだ、これはきっとマリッジブルーってやつ。
前向きなことを考えよう。
今までならこんな風に誰も居ない部屋に帰るのは当たり前で。
それがマルコと結婚したら私が待っている立場になるかもしれないし、
マルコが待っていてくれるかもしれない。
おかえり、と言ってくれるマルコ。
ただいま、と言う私。
反対も・・・・あり得るのよね。
うん、それは悪くない。
嬉しい。
今は結婚準備で疲れてるのよ私。
今まで喧嘩した時はどうしてた?
私が落ち着くのをマルコが待ってくれて。
話し合いをして。
・・・今日も、そうだった。
マルコは今待ってくれてる。
いつだって厳しくも優しいマルコのことが大好きなことを思い出す。
スマホを取り出して、マルコにかける。
コール音が鳴り響く間に深呼吸。
・・・・もう、大丈夫。
『落ち着いたかい?』
3コールで出たマルコ、たぶんわかってたんだろうなあ。
「うん、ごめん」
『いいよい。俺を傷つけないように1人になろうとしたんだろい?』
「まあ、そんなとこ」
『で、どうしたい?』
「お金は私出すからやっぱりちょっと大きいソファにしたい」
『金は折半で構わないよい。了解した』
「いいの?部屋狭くなるよ」
『家族が増えりゃどのみち狭くなるだろい』
「そうだけど・・・でも、嬉しい」
仲間と楽しそうに話すマルコの顔が好きだから。
その時ぴんぽーん、とインターホンが鳴った。
「あ、ごめんマルコ来客だからいったん切るね」
マルコの返事を待たず慌ててドアを開けに行って危うくスマホを落としかけた。
「迎えに来たよい」
「まる、こ」
来客はマルコだった。
「落ち着いたみたいだねい」
「・・・・うん有難う」
玄関で靴も脱がないで抱きしめ合った。
「柄にもなく不安になっちまったよい」
「不安?」
「結婚はなし、なんて言われそうだな、と」
マルコが苦笑しながら私の額に口づける。
「どんなにマリッジブルーになってもそれは言わない、絶対」
「俺でアコを幸せに出来るかはわからねェが、努力は惜しまねェ」
「それは私も同じ。マルコもマリッジブルーになったら相談してね私に」
「・・・・よい」
「・・・・マルコ?」
歯切れの悪いマルコを心配すれば、
「・・・・嫌い、と言われたもんで落ち込んでるんだよい」
とぽつり。
「好きよ、マルコ。愛してる」
「俺もだよい」
言いなおせば最高の笑顔。
結婚式も、この笑顔で。