短編⑥
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「飲み過ぎた・・・・シャンクス大丈夫?」
「俺も飲み過ぎた。そろそろ帰るか」
「だね。はい、水」
「助かる」
職場の同僚であるシャンクスと私はいわゆる飲み仲間だ。
お互いにお酒が好きで、
金曜日の夜は絶対と言っていいほど2人で飲みに行く。
「送って行く」
「ん。よろしく」
最初こそそこまで酔ってないし1人で帰れるとお断りしたものだけど、
こんな時間に1人で帰して私の身に何かあったら後味が悪いと説得された。
確かに絶対に大丈夫と言い切れるような平和な世間ではないので私も大人しくお願いすることにしている。
「そろそろ新しいお店も開拓したいところだけど」
「そうだな、この辺の店はだいたい行った」
「仕事帰りにあんまり遠くまで行く気にはなれないし」
酔い覚ましの風を感じながら駅まで歩く。
「アコの家の近くはないのか?」
「ないことはないけど」
「けど?不味いのか」
「不味くはないけどお値段かかる割に美味しくない、ってのが正解かな」
正直な感想を口にすればシャンクスが面白そうに笑った。
「なるほど、そんなもんか?」
「あとはー・・・・ファミレスくらい」
「そこじゃ飲めねェなァ」
「でしょ」
しばらくはこの辺で我慢かなーなんて思ってたら、
「俺の家の方はどうだ?」
なんてシャンクスが笑いかけてきた。
「どうだって言われても」
「こ洒落た店はねェが味も価格もそこそこの店ならまあある」
「へぇ」
「酔いつぶれても終電なくてしても俺ん家に泊まればいい」
「それは嫌。ていうか無理」
シャンクスの申し出は有難いけどはっきりとそう伝えればシャンクスは目に見えて肩を落とした。
「そ、そうか・・・・すまん」
「お酒は好きだけど人様に迷惑かけてまで飲みたくないの」
「アコらしいな。嫌われている訳じゃねェなら何よりだ」
苦笑を浮かべたシャンクスと電車に乗った。
「嫌いな人と飲んだりしないわよ、お酒が不味いの嫌だもの」
「なら軽く飲むくらいなら問題ないだろう?」
「そうね、お店の開拓はしたいし」
シャンクスの家と私の家の距離は駅にして2駅。
「何なら俺の家で飲むっていうのも考えてみてくれ」
「シャンクスの家?」
「勿論無理にとは言わねェが、物は少ない方だし清潔さには割と自信があるぞ」
「おつまみは買ってく?」
「駅のところにスーパーもコンビニもある、買って行ってもいいし何か作ってもいい」
「シャンクス料理出来るの?」
「1人暮らしだからな、多少は」
・・・お互いにいい歳だし。
男が女を自分の家に誘う意味、なんて。
でも私は別にシャンクスとそういう関係になりたい訳じゃない。
楽しくお酒が飲めればそれでいいだけで。
いやでもシャンクスだって深い意味はないのかも・・・・しれないし。
正直に言えばシャンクスの家に興味もある。
それにさっき思いっきり拒否って傷つけちゃったみたいだし。
「料理の腕に自信があるのね」
「いやァ、所詮独身男の適当料理だ。期待はしないでくれ」
「大丈夫、私も人のこと言えないし」
「たまに弁当持ってきてるだろう?」
「気が向いた時に冷凍物入れるだけよ」
「卵焼きは?」
「・・・・さらに気が向いた時だけ。よく見てるのね」
ほとんど外食で済ませちゃうのに。
「たまたまな」
「お店の開拓なら行ってもいいかな」
「よし来た、来週が楽しみだな」
話しがまとまったところで家の近所に到着。
「今日はここで大丈夫、有難う」
「気を付けて帰れよ、無事着いたら連絡くれ」
「はいはい」
毎回思うけどこのやり取り恋人みたいよね。
・・・・口には出さないけど。
来週はシャンクスの家の近くで飲み、か。
まあ終電逃したらタクシーで帰って来ればいいし。
そしてあっという間に1週間が過ぎ、
金曜日。
仕事帰りにそのままシャンクスの最寄り駅まで来た私たちは愕然としていた。
「華の金曜日にこんなことある?」
「・・・・想定外、だな」
駅前のお店はちらほらあった。のに。
『本日臨時休業』
『本日営業ランチのみ』
などの張り紙ばかり。
空いているのはファミレス、コンビニ。
「・・・俺ん家来るか?」
おずおずとシャンクスが尋ねてくるので、
私も少し考える。
確かにお酒は飲みたい。
でも。
「いいけど急に行って大丈夫?」
「そこまでひどくはないと思うが」
「後片付けはちゃんとして帰るわ」
「気にするな」
「・・・・ねえ」
「ん?」
この言葉を口にしたら関係は変わってしまうのだろうか。
「何もしない?」
シャンクスは一瞬だけ目を丸くしたあと、
ふ、と寂しそうに微笑んだ。
「自信はないな」
「・・・じゃあ、やめておくわ」
「そうだな。それがいい」
静かな答えに空を見上げた。
シャンクスはそんな私を見て、
「帰るか?送って行くが」
「んーお酒は飲みたいから付き合って」
「構わねェが・・・どうするんだ?」
「こんな時は」
これしかないでしょう。
有難う御座いましたぁ、とやる気のなさそうな声を背に受けてお店を出た。
手には缶ビールと少しのおつまみ。
路地裏に入って2人で、
「はい乾杯」
「外飲みってのは初めてだな。乾杯」
プシュ、といい音。
ごくりと冷たい液体が喉を通っていく。
「ぷ、っはぁ!!美味しい!!」
「外飲みも悪くないな。・・・・月が綺麗だ」
空を見上げたシャンクスがぽつりと呟く。
月が綺麗、か。
「缶ビール片手に語るもんじゃないわね」
「こじゃれたバーの方が?」
「それはそれで笑っちゃうかも」
「参ったな・・・」
降参だ、とシャンクスが笑った。
「でも・・・そのうち手が届くかもしれない」
「・・・月に?」
「月に」
これだけで酔ってしまったようだ。
「アコ、明日暇か?」
「明日?・・・・予定はないけど?」
「デートの誘いをしたい。受けてくれるか?」
・・・・そんなつもりじゃ、なかったんだけど。
お酒抜きでシャンクスと会うのもいいかもしれない。
「喜んで」
でも結局夜は2人でお酒飲むのよね。