短編⑤
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「今日も楽しかった、またね」
「おう、またな!」
恋人を家まで送って笑顔で別れた。
・・・・・楽しかった、の一言は素直に嬉しい。
それは間違いねェ。
俺も楽しかった。
・・・・でもこれが何回も続くと、何か、こう。
・・・・もやもや、する。
いや楽しかったと言ってもらえるのは間違いなく嬉しいことではある。
感じるのは、
別れ際に寂しいと感じるのは俺だけか?ってことで。
少しは寂しい、とか。
もう少し居たい、とか。
そういう顔するとか。
高校の時に出会って、大学で告白。
付き合って今で半年。
親友の期間が長かったせいで、まだ恋人っぽいこと全然出来てねェ。
飯はだいたいラーメン屋かファミレスだし、
デートの場所もカラオケとかゲーセンとか。
アコにとってはまだ友人の俺と出掛けてる感覚なんだろうと思う。
いまだに手繋ぐので精一杯とか情けない。
・・・・次のデートでこそ。
進展してやる、と密かに決意した。
「珍しいね水族館行きたいなんて」
「ま・・・まァな、たまにはいいだろ」
「私は好きだけどエース興味ないと思ってた」
今日こそは進ませてやる、と気合を入れて選んだデート場所。
「ないことはないぜ、魚美味そうだし」
「絶対言うと思ったソレ。ここのは観賞用だからね!食べないでよ」
「わァってるよ」
水族館なら薄暗くて雰囲気も悪くねェ、よな?
・・・・周りに人がいるのが問題だけど。
「見たことない魚ばっかりで面白いね」
「・・・・だな」
「あ、この魚知ってる!ニモ!」
「面白かったよなあの映画」
「見て見てエース、イワシ!!」
「イワシなんか珍しくねェだろ。そのへんのスーパー行きゃあ」
いくらでも、と言いかけたところで足が止まった。
「ね、すごいでしょ」
・・・・イワシの大群がぐるぐると泳いでいるのは確かに壮観だ。
「・・・すげェな」
「次サメだって!!」
・・・・いつもより楽しそうに見えるアコの姿に満更でもなく、口元が緩む。
こんな姿見られたんなら今日はそれでも、と思いかけて首を横に振る。
まず手を繋がねば。
「あんま急ぐなって」
言いながら手を繋ぐ。
「あ、イワシもっと見たかった?」
「そうじゃねェけど」
繋ぎたかっただけ、なんて言える訳もなく。
「この後イルカショーもあるから見たい。いい?」
「おう、見ようぜ」
「あとはークラゲでしょアザラシでしょペンギンもいるよね!」
「イカタコワニも居るぜ」
「それはいい」
「ははっ、意外と面白いな水族館も」
それから水槽のトンネルにはしゃぐアコとか、
クラゲ相手に話しかけるアコとか、
とにかくアコが可愛かった。
俺の恋人可愛すぎるだろ!!
と悶えてる場合じゃねぇ。
このままじゃ今までのデートと変わらない。
「ねぇエース、カフェ寄っていかない?」
「ああ、ちょうど腹も減った」
ゆっくり見て回ってるところにカフェを発見。
腹が減っては戦も出来ねェって言うしな。
腹ごしらえしてから考えるか。
「見て見てペンギンカレーだって!アイスにもペンギンのクッキーついてる!」
「へー凝ってんな」
「たこ焼きの串がチンアナゴ!!」
結局俺がカレーを、アコはおにぎりとアイスを注文。
「たまにはこういうのもいいね」
「たまには・・・・な」
おにぎりを頬張るアコが可愛くて思わず見惚れる。
「あと30分でイルカショーだよエース!!」
「んじゃそろそろ行くか。他のもまだ見たいだろ?」
そう言って立ち上がった俺の腕をアコが掴んだ。
「・・・・どした?」
「エース、無理してない?」
「え」
「何ていうか、いつもと違う気がして」
・・・・下心がバレた罪悪感で胸が痛んだ。
いやでもここは突き通す!!
「そっか?いつも通りだろ」
「いつもならデート先にこういうとこ選ばないよね」
「たまにはデートっぽいとこ行きたいと思っただけだ」
「デートっぽいとこ?」
「なんつーか、アレだろ?俺たちが行くのっていつもゲーセンとか」
「カラオケとか?」
「ん。だからたまにはアコとこういうとこきてそういう気分になんのも悪くねェかと」
「そういう気分て?」
「だぁぁ言わせんな!」
「聞きたい」
「・・・・恋人っぽい気分だよ、悪ィか」
進展したい、ってのは何とか隠して。
何とか言い切ればアコは楽しそうに笑った。
「あははっ、ごめん。悪くない、嬉しい」
「・・・・そーかよ」
「何か急に不安になって。ごめんね」
「いや・・・・俺も、悪かった」
「恋人だもんね、私たち」
「おう」
だからこそ今日こそは先に進みたいのだと。
口にしてもいいのだろうか。
・・・・引かれたら立ち直れねェからやめとくか。
「じゃ、イルカショー行こっか!」
「だな。走るなよ、転ぶから」
「走らないよ」
言いながらアコが手を出してきた。
「・・・・わァってんなら、いい」
「恋人、だもんね」
その手を握るだけでまだ心臓が暴れるってのに。
俺は今日どうなっちまうんだ。
イルカショーはしっかり見て、
他の魚なんかも見て楽しんだ。
土産屋を見ておそろいのキーホルダーを買ったりもした。
夕飯は駅前のラーメン屋。
・・・・・・で。
「今日も送ってくれて有難うねエース」
「・・・・・・・・気にすんな」
なんっにも進展出来なかった!!
見事なくらいにいつも通りになっちまった!!
「また明日授業で、だね」
「・・・・おう」
でも今は夜。
遅い時間でもねえが人通りはまばら。
というかほぼない。
最後に抱きしめるくらい、なら。
「エースも気を付けて帰ってね」
「俺は大丈夫だから気にすんな」
「次のデートも楽しみにしてる」
「俺も」
「・・・・えっと」
「・・・・どうした?」
いつもはあっさり帰るのに。
「・・・・なんか」
「なんか?」
アコは言いずらそうに俯いて、苦笑した。
「寂しくて」
「・・・・・・・・・俺、も」
そのまま勢いで抱きしめた。
「ね、エース。次はプラネタリウム行かない?」
「・・・それは絶対寝る」
「だよね・・・」
「でもアコが行きたいってんなら、行く。寝ないように頑張る」
「ありがと、エース」
「・・・ん」
アコってこんな柔らかかったんだな、とか。
結構胸あんだな、とか。
あったけェ、とか。
・・・・頭がぐるぐる回る。
だっせェ。
「また水族館行こうね」
「ああ」
不意にアコが顔を上げて、
ちゅ。
俺の頬に口づけた。
「へ」
「じゃ、おやすみエース!!」
「お・・・・・・おや、すみ」
・・・・・・先に進みたいと思ってたのは、
俺だけじゃなかったのかもしれない。