短編⑤
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「可愛い」
「美しい」
「完璧」
そんな言葉はもう聞き飽きた。
・・・なんて贅沢な悩みなのはわかってる。
けど。
大手財閥の社長の娘。
幼い頃から英才教育を受けさせられてきたせいで成績優秀、
美人な母と整っている顔の父のせいで顔も悪くない。
性格は可愛くない、と自分でも思う。
友人は居る。
けれど親友と呼べる程心を許している人は居ない。
・・・だってきっと皆、私の権力と財力が目当てなのだから。
「ポートガスDエース。よろしく」
そう言って深々と頭を下げた転校生。
彼はあっという間にクラスの人気者になった。
屈託のない笑顔でよく笑ってる。
・・・・私はまだ話したことはない。
おおかたクラスの誰かが私のことを話して怯えてるんだろうとは思うけれど。
媚びをうって私に近づく者もいれば、
不興をかってはなるまいと近づかない者も居る。
彼は後者なのだろう。
・・・・そう、思ってた。
「なァアコこれって誰に提出したらいいかわかるか?」
「それならトラファルガー君よ」
突然提出書類を持ってエース君が話しかけてきた。
「お、そっか。ありがとな!」
・・・驚くほど自然だった。
あれもしかして何も聞いてないのかしら。
いや別に自然でいいんだけれど。
「どういたしまして。困ったことがあったらいつでも言ってね」
なんて社交辞令で笑いかけたら、
彼の顔がぱぁぁと輝いた。
「じゃあ早速いいか?」
「え、構わないけど」
「校内案内してくれ!」
「は!?」
「ダメか?」
「ダメ・・・ではないけど、どうして?」
彼が転校してきてからもう2週間は過ぎた。
それに仲の良さそうな友人ももういるハズ。
「ずっとついていくばっかで全然覚えられねェんだよ」
「はあ・・・なるほど・・・」
「今更案内してくれ、とも言えなくなっちまったし」
それもわかる。
「いいわ。じゃあ今日の放課後でご都合いかが?」
「おう、頼む」
・・・・彼のこの素朴さを、とても可愛いと思った。
「ここが美術室。美術は選択授業でしかないけど」
「俺はとってねェ」
「じゃあ関係ないわね。ここが音楽室。何か音楽は?」
「ギターなら少し」
「弾けるの?すごい」
「仲間から教わったことがあるってだけでたいいしたことはねェよ」
なんて照れたように笑う彼は、やっぱり可愛いと思う。
「自分を卑下することはないわ。少しでも弾けるならたいしたものよ」
「・・・そっか?」
「私はピアノは弾けるけどギターは全然わからないし」
「ピアノこそ難しいだろ?」
「1度覚えたら難しくはないと思うけど。それにエース君なら向いてるかも」
「俺が?何で」
「指長いから」
「指長いといいのか」
「そりゃあそうでしょう。有利だわ」
「ふぅん・・・」
満更でもなさそうな顔で廊下を歩くエース君の横顔に見惚れてしまう。
その時だった、1人の生徒が私と彼を見て目を丸くしたのは。
直感的に嫌な予感がした。
その予感は、
「エース君何でその方に案内して頂いてるの!?」
まるで叱責するような言い方にエース君は眉を顰めた。
「何で、って俺がアコに頼んだんだよ。何か問題あるのか?」
「その方を誰だと・・・案内なら私が、」
言いかけた生徒を手で静止して、
「これは私が託されたお役目で、喜んで受け入れたのです。最後まで責任もってやらせてもらえませんか?」
「・・・かしこまりました」
女生徒は渋々、といった感じで引き下がった。
「ごめんなさいね、気にしないで」
「いや、ありがとな。助かる」
・・・彼は私のことを知らないのかもしれない。
今の反応を見るに。
私のことを告げたら彼はどんな反応をするんだろうか。
知りたい反面、怖いとも思う。
こんな風に友達みたいに接してくれる人は貴重だから。
「ここが運動場よ。動くのは得意そうに見えるけど」
「スポーツは得意だぜ。勉強よりよっぽどわかりやすくていい」
「スポーツ万能は素晴らしいけど勉強も頑張らないと。わからないところがあれば教えるわよ?」
「ほんとか?何から何までかたじけねェ」
「どういたしまして。クラスメイトの誼だもの」
そうして金曜日の放課後に図書室で勉強を教えることが決まった。
それから何となくエース君が私に話しかけてくるようになり、
周りがざわつき始めてるのがわかる。
このままじゃ彼の為にも良くない。
はっきりさせないと。
「英語はここでおしまいにしましょ。少し休憩」
「っはー頭パンパンでもう何も入んねェ!!」
「お疲れ様。・・・ところでエース君に聞きたいんだけど」
「俺に難しいことは聞くなよ?」
「エース君、私のことどれだけご存じ?」
「どれだけ?」
私の質問にエース君は首を傾げた。
「私の父が大手財閥の社長ということは?」
さあ、この質問が吉と出るか凶と出るか。
「知ってっけど」
首をぼりぼり搔きながらきょとん顔。
「・・・・そう、なの」
こんなに嬉しい言葉があるだろうか。
「仕事手伝えとかは無理だぜ?」
「いや頼まないわよ!?」
面白い人だ、本当に。
「悩み事あんなら言えよ?」
「・・・相談に乗ってくれるの?」
「え、あんの?」
「ないと思う?」
「だってお前可愛いし頭いいし食うにも困ってなさそうに見える」
「ふっ、ふはっ、あはははっ!!」
「何か面白いこと言ったか俺?」
きょとん、とした顔がまた愛おしい。
そして可愛いと言われたことがこんなにも嬉しいなんて。
「私に媚びを売ろうと思ったりしなかった?」
「俺そういうの苦手なんだよなァ」
「じゃあ不興を買わないようにしないとって思わなかった?」
「ふきょう?」
「私を怒らせたら大変なことになるかもってこと」
「ならないだろ?俺たち仲間なんだし」
この無条件の信頼がとても嬉しい。
心が温かくなる。
「ええ。あなたのことは私が必ず守るわ」
「で、悩み事ってなんだよ」
こうして私を心配してくれる優しさも。
心からの本当だとわかるから。
「あなたを好きになったことね」
だから私も本音を口にする。
その瞬間、エース君の顔が耳まで真っ赤に染まった。
「は・・・・!?」
「今まで欲しいものはお金で手に入ってきたわ」
でもあなたはたぶん無理だろうから。
「お、俺!?」
「覚悟してね」
「・・・・と、とりあえずよろしく頼む」
深々と頭を下げたエース君が愛おしくてまた笑ってしまった。