短編⑤
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珍しく仕事が早く終わったので、
恋人と同棲中の家に早く帰れた。
ウキウキでドアを開けたら、
恋人が女性を抱きしめているところだった。
「あ」
「・・・・・・・わお」
「ち、違うんだアコ!!これは!!」
「・・・・いいのよシャンクス。わかってる」
「アコ・・・・っ」
同棲中の恋人であるシャンクスは顔を真っ青にして私の方へ向かってきた、ので。
「これは浮気じゃない。ちゃんとわかってる」
「そ、そうなんだ。これは、」
「これは本気の恋。そうよね?」
「へ」
「私のことは気にしないで。じゃ」
家であれやこれやしようと思ってたけど仕方ない。
再び外に出て、
とりあえずウィンドウショッピングがてら外食にでも行こうかなんて思案する。
同時に綺麗な女性だったなあ、流石だわ。
と家に居た女性を思い出す。
テレビで見るより顔小さかった。
なんて、ありきたりな感想が浮かぶ。
まあこんな感想を持ったのも初めてじゃないんだけど。
シャンクスは売れっ子俳優。
いわゆる遅咲き、というやつで。
私はシャンクスが売れる前から付き合ってるしがない恋人。
さっきの女性はたぶん今度のドラマの相手。
テレビの番宣で見たもの。
タイトルは、『これは本気の恋』
だったはず。
ちなみに家に女性を仕事がらみで上げることには賛成している。
相手にとって迷惑になるか、
はたまたラッキーと捉えられるかはわからないけど、
噂にでもなってくれれば私は狙われずに済むもの。
今をときめく俳優に私のような恋人がいたら可哀そうだと思ってしまうから。
シャンクスにとっても、シャンクスのファンにとっても。
あ、ついでに映画見ようかな。
見たいのまだやってるかしら。
なんて映画館に足を向ければ、
『話題沸騰!胸キュン女子急増中!シャンクス氏初主演映画!』
なんて謳い文句が目に入った。
・・・これは見なくてもいいかな。
家で散々シャンクスに練習付き合わされたから。
シャンクスのセリフも相手のセリフも、
ストーリーもすべて思い出せる。
あの練習の時に思った。
・・・こんな風に何度も練習してたら、
好きになってしまうことだってある。
偽物の恋を、本物の恋だと錯覚してしまうことが。
大変だけど、華やかな世界を知ったシャンクスが。
いつ私に飽きてもいいように覚悟はしてる。
・・・・つもりだけど。
隣のミステリ映画でも見るか、なんて思いなおしたけどあれにもシャンクス犯人役で出てるんだった。
シャンクスが出演したものはたいてい見てるか、
見なくても良い程には話を知ってるから。
なんて考えてたら携帯電話が着信を知らせた。
相手は予想通りシャンクスで。
一瞬の逡巡の末出ることにした。
「本気の恋は終わったのかしら?」
『ああ、彼女はマネージャーが迎えに来て帰ったよ』
「何か買って帰るものある?」
『いや、迎えに行くよ。今どこに居る?』
「馬鹿言わないで。シャンクスが来たら大騒ぎになるでしょ」
『バレなければ問題はないな』
「バレるに決まってるからやめて」
何て危機感がないのこの人は。
『ならせめて車で迎えに行く。駐車場まで来てくれ』
「そこを誰かに撮られたら?」
『俺は困らない』
「・・・シャンクス」
咎めるように名前を呼べば、
『今から行く、待っててくれ』
シャンクスの意思も固いようで。
強い口調で言いきられ、電話を切られてしまった。
こうなったら行くしかない。
「アコ、こっちだ」
駐車場で待つこと数分声のしたほうに顔を向ければシャンクスが窓を開けて私を手招きする。
「お迎えどーも」
急いで助手席に乗り込めばシャンクスが窓を閉め、
私の顔を引き寄せた。
軽く唇が触れると、私にベルトをして車を発進させた。
「・・・・撮られてたらどうするの」
シャンクスは甘い、と思う。
「そしたらアコを恋人だと紹介するだけさ」
何てことない顔でしれっとシャンクスは言うけど。
「今をときめく売れっ子俳優に恋人の存在。ファンが減るわよ」
「隠してる方がフェアじゃないと思わないか?」
「・・・・それは」
そうかも、しれないけど。
確かにシャンクスは昔から色恋営業とかしてた訳でもない。
もともと俳優になったのだって、
顔が映えるから出てみないかってシャンクスの友人に誘われてのことだった。
違う人間になるのは面白いかもしれねェなって始めたこと。
「アコが標的にされるのは本意じゃねェが、こうも大っぴらに歩けねェのは疲れる」
「・・・・そりゃあ私だって」
シャンクスとデートしたい。
シャンクスが売れっ子になってから普通のデートどころか買い物にすら行けなくなったし。
家に帰るのだって気を遣う。
別居しようと申し出たけどシャンクスが断固として許してはくれなかった。
「俳優やめるかァ」
ぽつりとシャンクスが呟いてぎょっとする。
「辛い?」
「家に女を上げて抱き合ってるとこを見られても恋人が妬いてもくれねェんだぞ、辛いに決まってら」
「辛いのそれなの!?」
「悲しませたい訳じゃねェが、寂しくもなる」
「えええ・・・・」
予想外の理由に絶句。
「なァ・・・いい加減俺と結婚してくれないか?」
シャンクスが俳優として売れる前から言われてきたセリフ。
売れたらね、と断り続けて。
売れた今、週刊誌にすっぱ抜かれたら怖いからダメ、と断り続けてきた。
「・・・・シャンクス」
「アコのことは俺が守る。不安なら今の仕事もやめる」
「やめてどうするの?」
「そうだな・・・飯屋でも始めるか。アコとならうまくいきそうだ」
あ、この人本気だ。
目がそう言ってる。
「・・・・シャンクスが本気で私と結婚したいって思ってくれてることはわかったわ」
「なら」
「でもシャンクスが俳優を楽しいと思ってるのも本当、でしょ」
シャンクスの眉がぴくりと上がった。
「・・・・それはまあ、そうだが」
「演技で抱きしめる時のシャンクスって包み込み方が違うの。手の形も」
「・・・・そう、か?」
「愛があるかないかぐらいわかるわ。だから妬く必要はないの」
「・・・・参ったな」
「俳優をやめたいならやめてもいいけど。でも結婚はもう少しだけ待って」
「勿論、いい返事をくれるなら待つが」
「前まではね、私なんかがシャンクスの恋人じゃ申し訳ないって思ってたの」
「今は?」
「シャンクスに釣り合う人間になればいいのよねって思いなおしたの。だから私」
にっこり、と微笑んで見せる。
「・・・・嫌な予感しかしないんだが」
「来月女優デビューしまあす!」
シャンクスを可哀想になんかしない。
選んでくれたシャンクスの為にも。
痩せて自分を磨いて、
私は来月端役だけどデビューが決まった。
「なるほど、相手が一般人じゃなけりゃ文句も少なくはなるか」
「それに楽しそうなシャンクスに感化されちゃったの。相手役の練習もしてて楽しかったし」
「しかし俺としては複雑だな。アコが他の男と・・・と考えるとな」
なんてシャンクスが苦笑するので、
「男性を連れ込んだりはしないから大丈夫よ」
と笑えば、
「連れ込まりたりは?」
と真剣な顔で返された。
「大丈夫。あなたの親友さんはいろんな俳優さんの弱み握ってるみたいだし」
「何かあったらすぐ俺に言ってくれよ」
「はいはい、有難う」
人気俳優S氏、新人女優と交際発覚。
結婚間近、なんてニュースが出るまで半年くらい。