短編⑤
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「あ、飲み物が少なくなってきた。じゃあ1番と3番の人が飲み物買ってきて!」
幹事確信犯でしょこれ。
じろりと睨みつけるけど、
「1番の人はー!?」
「俺だな」
「じゃあ3番」
「私」
「じゃあエース君とアコよろしくね!」
私の抗議なんて何のその。
大学のサークルの飲み会で、
何故か王様ゲームが始まって。
何故か私がエース君と買い物に出ることに。
いや、何故か・・・・ではない。
王様であり今日の飲み会の幹事であるAちゃんは私の友人。
・・・・つまり私の片思いの相手を知っている。
故にすべてが仕組まれていたということ。
「あ、ついでに食べ物もよろしく。ゆっくりでいいからね!」
「へぇへぇ。行くか、アコ」
「・・・・行きますか」
・・・・エース君のことは好きだけど、
彼とどうにかなりたい訳じゃないと言ってたのに。
外に出ると頬に当たった風が気持ちいい。
・・・・ちょっと、飲みすぎたかなあ。
「大丈夫か?」
「え、そんなに顔赤い?」
コンビニに向かって歩いてるとエース君が私の顔を覗き込んできた。
そんなに顔赤かったらコンビニの店員さんに顔合わせられないなあ。
「それもあるけど、今日結構飲んでたろ」
「んー何か喉乾いてて」
「・・・・珍しいよな、アコがこういうとこ来るの」
「うん、ちょっと」
「何かあれか、心境の変化ってやつか」
「そんなとこ」
サークルの中でも私はあまりこういう飲み会には顔を出さない。
お酒が得意じゃないのもあるけど、
雰囲気が苦手だったから。
だからまあ、相手が誰であれあの場から抜け出せたことには少しだけほっとしてたりもする。
「あれ、エース君」
「ん?」
「お店、入らないの?」
飲んでるC君の家から1番近いコンビニの前。
エース君はそこに入らず通り過ぎる。
「酔い覚まし、しねェ?」
「あ、もしかして私の為!?ごめんね気をつかわせちゃって」
「いや、俺が歩きたいだけ」
なんてエース君は笑うけど絶対私の為だ。
・・・優しい。
彼のこういうところに、好きだなあと思う。
「ありがとね、エース君」
「言っただろ?俺が歩きたかっただけだって。俺も少し酔っちまったみたいでよ」
「そう?そんなに飲んでるようには見えなかったけど」
「あー・・・・隣のやつに結構強いの飲まされたんだ」
「え、大丈夫?」
確かに顔を見れば少し赤いような気もする。
「ああ、だからもうちっと先のコンビニ、行こうぜ?」
「先に自販機で何か買って飲む?あ、ベンチあるけど休まなくて平気?」
この時初めて、買い出しに選ばれたのがエース君で良かったと思った。
エース君はノリのいい人だから、
あのままあそこに居たら無理してただろうし。
「俺は平気だ、ありがとな」
ぽんぽん、と頭を撫でてくれるエース君にほっと安堵して足を進める。
アルコールの酔いと相まって頭がぽわんとする。
「でもあれだな、これ持ってったら俺は帰らねェと」
「そうなの?何か予定?」
もしかして彼女と会う、とか。
「弟が待ってんだ。あいつ寝てろって言っても寝ないから」
「え、何それ可愛い。買い出しなら私1人でも大丈夫だし、皆には言っておくからこのまま帰っても大丈夫だよ?」
途端こつん、と頭に軽い衝撃。
「ばーか、こんな時間にアコ1人で買い出しさせられっか」
エース君の拳が当てられたらしい。
痛くはなかったけど。
「で、でも」
「弟ってもガキじゃねェから大丈夫だ」
「・・・・そう?」
「それよりアコはまだ居るのか?」
「実を言えば私もそろそろ帰りたい」
「じゃあこの後一緒に帰ろうぜ?送ってく」
「え、悪いよ」
「悪くねェよ、アコの家と割と近いから」
「じゃあ・・・お願いしようかな」
「おう、任せとけ」
「って訳で俺たち先に帰る」
無事に買い出しを終えて戻ったらエース君が説明してくれたんだけども。
「とか言って、2人で抜け出すつもりなんじゃないの?」
・・・まあ、こうなるよね。
揶揄われるのはわかってた、けど。
「エース君には可愛い弟が待ってるし、私はもう疲れちゃったから」
「そう?気を付けてね」
「アコはちゃんと俺が送るから心配いらねェよ」
「アコをよろしくねエース君!」
「おう」
慌てて弁明したら信じてくれたのか、
それともどうでも良いのか。
皆すんなり納得してくれた。
「ごめんねエース君、皆に揶揄われるようなことになって」
「俺がやりたくてやってるだけだから、気にすんなって」
「有難う。弟君いくつなの?」
「中学生」
「反抗期じゃないんだ?」
「反抗期・・・・ねェな」
「じゃあ可愛いねえ」
「ははっうるさくて仕方ねェよ」
なんて笑いながら弟君のことを思い出してるんだろうエース君は幸せそうだ。
「私は1人っこだからなぁ」
「・・・・なあ、アコ」
「ん?」
エース君が空を見上げながらぽつりと私の名を呟く。
「今日、飲み会来たのってやっぱ、好きなやつがいるから・・・か?」
うわあいきなり核心突いてくるなあ。
「・・・それもある、けど」
「けど?」
「仲のいい叔母さんに言われたの」
「なんて?」
「あなたたちが今過ごしている時間はとても尊いもの。いろんな経験をして楽しみなさいって」
「・・・・いい叔母さんだな」
「うん。だから参加してみようかなって」
若いころの時間というのはとても大切で、儚いもの。
決して戻ることは出来ないのだから。
一緒に居る人を大切に。
ただしやっていいことと悪いことの区別はちゃんとつけなさい、と。
「・・・ちなみに好きなやつ、って誰」
突然エース君の鋭い視線が刺さった。
「え」
思わず足も止まる。
「・・・誰だよ、なァ」
エース君の手が私の腕を掴む。
・・・その手は、少し震えていて。
申し訳ないと思いながらもそれが私には勇気になった。
「エース君」
「え」
「エース君がいるからこのサークルにも入ったし、飲み会にも参加したんだ」
「お・・・・お、俺!?」
「あ、うち着いた。有難うねエース君。じゃあまた」
「っておい!させるか!!」
今度は力強く掴まれた。
「あれ」
「まだ俺にチャンスがある」
「はい?」
「好きだアコ」
「は、ええええ!?」
「俺から告白するって決めてたんだ」
真っ赤な顔のエース君が私を見つめる。
さっきので脈はあるかもって思ってたけど急すぎて驚きを隠せない。
いやいやというか私別にエース君とそんな関係になりたかった訳、じゃ。
・・・・ない、なんてことない。
本当は。
「私で、いいの?」
怖かっただけ。
「あー・・・今酔ってっからな。いいぜ。明日から何度でも言ってやるよ」
「それなら私も何度でも答える」
あなたが好き、って。
翌日からエース君は毎日私に好きだと言ってくれるようになりました。
幹事有難う、なんてね。