短編⑤
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*暴力表現はありませんがいじめ描写あり注意作品です
「マルコ先生見て!」
担当クラスの生徒の1人、
アコが嬉々として俺に見せてきたそれは、
「・・・・お前、それ」
「やられちゃった、てへ」
「てへ、じゃねェだろい」
ボロボロに引き裂かれた教科書。
これから授業を始めようって時に、ったく。
教室も案の定ザワついている。
「・・・一応聞くが、犯人居るなら今すぐ手ェ挙げろい」
ここで素直に手を挙げるような犯人ならこんな卑怯なことはしないだろう。
「つまりこのクラスじゃないってことだな?」
案の定誰も手を挙げようとはせず、
周りの様子を伺ってる。
肝心の被害者であるアコは、
「犯人もバカですよね。証拠残すなんて。ただ隠すだけにしとけば良かったのに」
そしたら先生に忘れたんだろ、って私だけが責められたのに。
なんて笑顔で犯人を煽っている。
「・・・まあ、犯人がこのクラスに居るにせよ、居ないにせよ、だ」
徹底的に犯人を探し出して捕まえてやるよい。
そう宣言した瞬間顔色を変えたやつが2、3人いたのを俺は見逃さなかった。
・・・あいつらが犯人、てとこだな。
「とりあえず今日の授業内容は変更だ」
自習になったとき用に持っていた映像を見せることにした。
・・・それにしたって、よい。
「アコ、お前は放課後職員室だ」
「はーい!」
何だってこう、こいつはこう明るいんだ。
「先生、アコ馳せ参上致しました!」
「今日の授業のことだが、心当たりはあるかい?」
アコは、俺の印象ではあくまでいじめの対象になるようなタイプではなかった。
明るくて人懐こくて、
友人もまあ普通に居る。
いわゆる敵を作るようなタイプではないはずだった。
少なくとも今までこういったことはなかったはずだ。
「心当たり、どっちのです?」
「・・・・どっちもだよい」
「ありますよ、両方とも」
あんのかよい!!
思わずツッコみたくなるのを抑えて、
「心当たりを利かせてもらえるかい?」
なるべく優しく問いかける。
勿論、どんな理由があろうといじめはやっていいことじゃねェが。
「犯人の子が好きな男の子が私に優しくしたからです、恐らく」
・・・思った以上にくだらないことだったねい。
と言ってはいけねェんだが。
まあ高校生なんてこんなもん、と思わなくもないが、
原因はともあれ本人たちにとっちゃ大事なことなんだろう。
「で、犯人は?」
「A子ちゃんが黒幕でB美ちゃんが協力者でーす」
「そこまでわかってて何も言わないのか、お前は」
なるべくなら当事者同士で解決させたいところだが。
「証拠がないので仕方ないです」
少しだけ悔しそうに呟くアコに、
内心難しい問題だなと唸る。
教室にカメラを仕掛けておく訳にゃいかねェし、俺も仕事がある。
四六時中見張ってる訳にもいかない。
せいぜい犯人を視界の端に留めておく程度だ。
証拠がなきゃ説教も出来ない。
「でも見ててくださいね先生!必ず証拠をあげてみせます!」
「何も出来なくてすまねェよい」
「マルコ先生が私を信じてくれただけで嬉しいから平気です」
「そりゃお前は一応成績優秀で問題行動も今までねェ模範生徒だからよい」
「それでも自作自演かも、とは思わなかったんですか?」
そりゃあまあ、あの笑顔で言われたもんだから困惑はした。
だがそうは一瞬たりとも思わなかった。
「思わねェ。お前はそんなことするような生徒じゃないことは俺が1番知ってるからねい」
「先生・・・・好き・・・・!!」
「一応目は光らせておく。何かあればすぐに俺に言え、いいな?」
「はぁい!」
目をキラキラ輝かせて元気よく返事する姿を見て、
誰がこいつがいじめの被害者だと思うだろうか。
成績優秀だろうが品行方正だろうが関係ねェ、
覚えておこう。
次の事件は翌日に起きた。
靴が隠されたらしい。
・・・恐らくアコの昨日の煽りが原因だろうが。
「先生!警察に被害届を出そうと思うので放課後付き合って!」
これにもアコは教室の真ん中で笑顔でそう叫ぶ。
「構わないよい」
俺がつられて笑顔で返事をすると教室がざわついた。
警察?嘘でしょ?
本気?やばくない?なんて声があちこちから聞こえてくる。
「当然だろい?窃盗は犯罪だよい」
「せ・・・・せんせい!」
体を震わせながら手を挙げたのはB美だった。
「どうした」
「こんなことで警察は大袈裟だと思います!」
「こんなこと?私物を盗むのは立派な窃盗罪だよい。大袈裟にしないでどうする」
「で、でも」
「お前が犯人じゃないなら心配しなくていいよい」
なぁ、アコ?と目線をやれば、
彼女はやっぱりにっこりと笑った。
今ならわかる。
この笑顔は、彼女なりに戦っている証なのだと。
「ちなみに私が好きな人はマルコ先生なのでもし心配してる人がいたらご安心ください!」
「・・・・おい」
思わずツッコんだら、
「私がやりました」
厳しい顔のA子がしっかりと手を挙げた。
「教科書は、私が」
と次にB美も。
そして2人でアコを見てごめんなさい、と謝罪の言葉を放った。
「・・・だそうだが、どうするアコ?」
許すかい?と優しく問いかければ、
「いいえ、許しません。被害届出させてもらいますね」
とこれまた笑顔で答えた。
これに面食らったのは俺だけじゃなかった。
犯人のA子やB美だけじゃなくクラス全体らしい。
「よろしくお願いしまーす」
語尾にハートマークでつきそうな勢いでアコは言った。
「で、本当に行くのかい?」
「いえ、私の家までお願いします!」
放課後俺のところに来たアコを車に乗せれば拍子抜けな答えが返って来た。
「・・・・いいのかいそれで」
「先生と車で2人きりになれたのでいいんです」
「許さないんじゃなかったのか」
「そうですね、私が警察って言葉を出さなかったら2人とも自白しなかったでしょうから」
だから脅しだけです、とアコは助手席で笑う。
「・・・・よく頑張ったねい」
軽く頭を撫でれやれば本当に嬉しそうに微笑んだ。
「先生が信じてくれたから」
そしてそう言った後、
「でも、ごめんなさい」
と謝罪を口にした。
「車で送るくらいなら気にするな」
何についての謝罪なのか心当たりがなかったが、
「私が被害届出すって言ったからたぶんA子ちゃん達のご両親に連絡しないとですよね」
連絡、恐らくこちらからせずとも来るだろうねい。
「お前はそんなこと気にする必要はねェよい」
「・・・・先生、結婚して」
「おい」
「わかってます、先生が私に優しいのは私が生徒だから」
それでも好きなんです。
いじめられても笑っていられたのは先生が居たからなんです。
・・・・って、こんな時は真剣な顔。
「泣いてんかやるもんかって思ったのもあるけど、先生が信じてくれたから・・・っ」
「・・・・卒業してもまだ好きでいてくれたら、ここに連絡しろよい」
その顔に絆されて、
名刺を渡した。
「帰ったら速攻連絡します!」
「卒業したあとって言ったろい、守れねェなら没収だ」
「っ待てます!」
アコの笑顔の理由が俺だと言ってくれるなら、
俺もアコを待つ価値はあるかもしれねェよい。