短編⑤
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「まだやるの?」
「まだやります」
「・・・・頑張るねェ」
今回はサッチさんの力は借りたくない。
呆れ顔のサッチさんに、
「サッチさんだって料理に関しては妥協も諦めもしたくないでしょう?」
と問い詰めれば、
「まあ・・・わかるけどさ」
「特に今回は」
「愛されてんなあエース」
「そうですね」
・・・・前回着いた島で、私とエースはこじんまりとした食堂でお昼ご飯を頂いた。
そこで食べたメンチカツがとても美味しくて。
エースはそれはもう感動していた。
割と何でも美味しいと食べるエースだけど、
あんなに美味しそうに食べてるのを見るのはなかなかない。
・・・・・料理人として。
恋人として悔しかった。
だから同じものを作りたいと、材料を買い込んで作っている訳で。
もう何回目だろう。
でも違う。
何回作ってもあの味にならない。
何が違う?足りない?それとも多い?
ソースが特別な訳じゃなかったはず。
食感?肉汁・・・。
買い込んだ材料はもう残り少なくなってきた。
思い出せ、あの時の味を。
同じものを作ってエースに食べさせたい。
「エースに食わせてみたら?」
「私が納得してないのに食べさせられませんよ」
「・・・・ま、そりゃそっか」
俺は食ってないから手伝えないけど頑張って、とサッチさんは去っていった。
いっそレシピ聞いておけば良かったかな、なんてことが一瞬脳裏に過るけど、
もう遅い。
エースのあの顔をもう1度見るために頑張らねば。
「おーいアコ」
「え」
気が付くと隣にエースが立っていて、
「これ、差し入れ」
「え、あ、ありがと」
珈琲をくれた。
いい香り、これは上手な淹れ方。
「休憩にしねェ?」
「・・・・する」
「この珈琲サッチさんが?」
「おう。アコが根詰めてっから休ませてやれって言われた」
「・・・・そっかぁ」
敵わないなあサッチさんには。
サッチさんに言われても素直に休憩出来なかっただろうし。
休憩しないで頑張ってても美味しい料理は作れない。
「何か作りたいモンあんのか?」
「・・・・まあ、ね」
あの時のメンチカツを作っていることはエースには内緒にしてる。
「試食させてくれねェの?」
「まだ駄目。私が納得するまでは」
「なァ何作ってるかだけでも聞かせろよ」
「内緒」
サプライズにしたかった。
エースの喜ぶ顔が見たかった。
でも、
「・・・ンだよ」
・・・今隣にいるエースは不機嫌なのが明らかで。
「・・・・怒ってる?」
「そりゃ恋人に隠し事されたらいい気はしねェだろ」
「・・・そっかぁ、そうだよね」
エースの正直な気持ちを聞けて良かった。
私もエースが私に内緒で何かを頑張ってたら気になって仕方ないもの。
私は待てるかもしれないけど。
珈琲を飲み干して、
覚悟を決めた。
「ガキっぽいと思ったかよ」
完全に不貞腐れた顔のエースは可愛くて。
でも可愛いなんて言ったら怒られるのは学習済み。
「嬉しいと思った」
「嬉しい?」
「エースの本音が聞けて。私のことを気にしてくれて」
「当たり前だろ、惚れた女のことが気にならない男なんかいねェ」
少し頬を赤くしたエースがぽつりと呟く。
「うん、素直に嬉しい」
「・・・それに、俺にはわからないのにサッチには理解できるってのが嫌だ」
こういう言葉からエースの愛情が伝わってくる。
サッチさんは私に、
エースは愛されてるって言ってたけど。
私から言わせてもらえば、私のほうが愛されてる。
こんなにも心があったかくなるんだもの。
「実はメンチカツ作りたくて」
「メンチカツ?」
「この間の島でエースが美味しいって感動してたでしょ」
「ああ・・・ありゃあ美味かった」
今にも涎が垂れそうなエースに苦笑を浮かべながら説明する。
「あの味を出したいなって。エースに食べてほしいって思って試行錯誤してるんだけど」
なかなかうまくいかなくて。
「お・・・俺の為?」
「エースの為っていうか、エースに喜んで欲しい私の為」
「・・・・・俺かっこ悪ィな」
エースは片手で顔を覆い隠す。
かっこ悪いことないのに。
「そう?」
「自分に妬いてたとか・・・最悪だ」
「せっかく白状したんだからね、エース」
「何だよ・・・?」
「手伝って」
だってエースもあの味を知っているのだから。
「そういうことなら任せとけ!食うなら役にたつぜ!」
「出来れば感想も欲しいけどね!」
ということで休憩終わり。
再び調理開始。
「はい揚げたて」
「ん。・・・・美味いんだけど、あの店の味とは違う気が・・・する」
「具体的にどのへんが?」
「食った時の感じっつーか」
・・・・まあエースに具体的な違い聞いてもわからないよね。
私だってうまく言えないんだもの。
「これ玉ねぎ入ってるよな?」
「え、勿論」
「味が違う気がするんだよなァ」
玉ねぎの味が?
下ごしらえで違いが出るのかな?
「・・・玉ねぎ、が。待って、そういえば」
やってないことあるわ。
思いついたことがあって早速調理にとりかかる。
残された材料は僅か。
勝負、かけるしかない。
「召し上がれ!!」
「頂きます!!」
がぶり。
大き目の1口でかぶりついたエースの口から、
「んめェ!!これだぜ、これ!!」
と感動の一言が漏れた。
「ほ・・・ほんとに!?」
「食ってみろよ、ほら」
ほら、と差し出された揚げたてのメンチカツ。
さくり、といい音。
「う・・・んっ!!これ!これだわ!」
あの時の味、自信を持って言える。
「やったなアコ!」
「エースのおかげ!有難う!!」
がばりと抱きしめあった。
「俺じゃねェだろ、お前の努力だ!」
「嬉しい!!」
「で、何が違ったんだ?」
「玉ねぎを炒めないで作ったの」
「だからあの食感になるんだな!すげェ!」
「でももうしばらくメンチカツは作るのも食べるのも嫌かな・・・」
「俺の為に苦労したんだな・・・!」
「愛してるからね!」
「俺も愛してる!」
私は恋も料理も、妥協はしない。