短編⑤
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「何でここに居るんだお前」
呆れ顔でベンさんが私を見つめる。
「何でって・・・仕事があるからですが」
今日は島に着いた、と皆年甲斐もなく大喜びで出て行った。
それは勿論、うちのお頭も例外なく。
「・・・・どっかで待ち合わせでもしてるのか?」
「お頭なら女の人がいっぱいいるとこに行くって言ってましたよ」
「嘘だろ?」
「驚くことでもないじゃないですか、あの人はそう言う人ですよ」
「・・・何やってんだかあの人は」
頭を抱えたベンさんを見て、可哀想にと他人事のように思った。
「大丈夫ですか?」
「お頭と思い合ったばっかりだと思ってたのは俺の思い違いだったか?」
ベンさんは煙草をふかしながら苦笑を浮かべた。
「いいえ、ついこの間お頭と両想いを確認し合ったばかりです」
「それで着いた島でデートの1つや2つ、なしか?」
「まあ私に仕事がありますんで」
「あの人なら無理にでも連れて行くと思ったが」
「楽しみを邪魔されたくないんじゃないですか?」
「楽しみ?お前とのデート以外で?」
「女と酒」
断言すれば乾いた笑いが返って来た。
「それでいいのか?」
「まあさすがに今日は帰ってくると思うので」
「仕事放って後を追わなくていいのか?って意味だったんだが」
ベンさんの言いたいこともわかる。
本当ならここで追いかけるべきなんだと思う。
言ってしまえば止めるべきだったんだろうけど。
長年の片思いを拗らせてきたせいか、
以前からの習性のようなもの。
たぶんお互いにそうなんだと思う。
お頭は私と恋人になる前から島に着けば酒と女、だったし。
とは言え本当に女性に囲まれて飲んでただけだったと思うけど。
私も私で割と平気でそれを見ていた。
「ベンさんお頭から何て聞きました?」
「アコが俺の女になったから手ェ出すなよ、ってところだが」
「酔ったお頭に俺の女にならないかって聞かれたんです」
「・・・で?」
「え、はい。って」
「そのあとは?」
「じゃあ両想いにかんぱーいって祝杯あげてそのまま酔いつぶれて朝になって」
そのまま朝食取ったあとお頭はベンさんに連れて行かれて。
あとはご存じのとおりです。
「・・・・悪かったな」
「いえ、別に」
「まあなんだ、昨日の話でもねェ、恋人同士になったんだからそれなりの進展はあったんだろう?」
「進展・・・島に着いたら何処そこに行ってくるって報告があったくらいですね」
「お前はいいのか、それで」
「お互いに若くもないですし、こんなもんだと」
「お頭が聞いたら悲しむぜ、そりゃあ」
なんて話しをしていたら、
噂をすれば何とやら。
「誰が悲しむって?」
「あれ、おかえりなさい」
赤い髪、赤い顔。
結構酔ってるなあ。
「随分とベックと仲が良かったんだなアコ」
「あら、ご存じなかったです?」
「・・・止めろ俺を巻き込むな」
苦虫を嚙み潰したようなベンさんを睨んだお頭は、
「土産を買って来たんだ、俺の部屋で食わないか?」
と私を誘った。
「ええ、喜んで」
「で、ベックとなんの話しをしてたんだ?」
「お頭が他の女と酒飲んでるって話ですけど」
しれっと言ってやれば、
「う・・・・それは間違っちゃねェが」
と今度はお頭が気まずさそうに顔を顰めた。
「気にしてませんよ、私は」
「気にしてないのか?」
お頭のお土産は、おつまみ系かと思いきや意外にも甘いものだった。
「あ、ドーナツですね。美味しそう、いただきます」
「・・・俺は、気になる」
「何がです?んん、美味しい」
チョコがかかったものを口に頬張れば程よい甘さが口に広がる。
ああ、幸せ。
「ベックや・・・ほかの男と仲良くしてるとこを見せられるのは御免だ」
「・・・・そうなんですか?」
それは初耳。
「わかってるさ、自分のことは棚にあげて酷いことを言っている自覚はある」
「別にそうは思いませんよ。私が気にしてないだけなので」
「・・・妬いて、くれねェのか」
ドーナツを咀嚼している私の頬をお頭が片手で包む。
その視線に籠っている熱は、
何処か寂しそうな、怒っているような。
どちらともとれない。
「傍にいられるだけで幸せ、とは言いませんが。もちろん他の女と寝たら命はないと思ってください」
「はははっ、そうか!妬いてくれるか」
「他の女といても私のこと思い出させるくらいには傍にいるつもりですから」
何て言ったって、長年片思いを拗らせてきたんだから。
「そうだな・・・今日もずっとアコのことを考えていた」
「それでお土産を?」
「ああ。本当は無理にでもデートに連れ出したかったんだが」
「私が怒るから」
「・・・参った、その通りだ」
「でも女の人と飲んできた」
「男と飲んでも楽しくねェからなぁ」
「一緒にいて1番楽しいのは?」
「もちろん」
アコだよ、と唇が重なった。
「・・・甘いな」
「チョコですね」
「一緒に酒を飲むのもいいが、ただ喜ぶ顔が見たいと思ったのさ」
「はい、嬉しかったです」
ドーナツも、その気持ちも。
「明日は、一緒に飲もう」
「・・・ほんと、お頭は女と酒があればいい人ですよね」
知ってはいたけど。
「それは酷いな、訂正してくれ」
「違いました?」
「女と酒じゃねェ。アコと酒、だ」
こつん、と額が合わさった。
「それは・・・失礼しました」
「それともう1つ」
「なんでしょう」
「確かに俺は歳かもしれねェが、まだまだそんなもん、で終わらせる気はない」
この言葉には驚いた。
「聞いてたんですか?」
「聞こえてたのさ」
「・・・・でもお頭、全然その気なさそうだったから」
「まずそれから止めないか?」
優しい瞳が私を捉える。
「・・・・それ?」
「呼び方、わかるだろう?」
「シャンクス」
今まで決して呼ぶことのなかったその名を呼べば、
本当に嬉しそうに笑った。
それからゆっくりと私を押し倒していく。
「お頭、と呼ばれるとどうもな」
これからはそれで呼んでくれ、と再び優しい口づけ。
長年の片思いを拗らせてたのは私だけじゃなかったみたいですね。