短編⑤
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
唐突に思った。
甘えたい、と。
何故なら疲れているからだ。
仕込み、料理、片付けを繰り返す日々。
そこにつまみ食いをする輩がいて、
材料の管理も加わる。
最近島にも寄れてない。
ストレス発散が、出来てない。
そこで私は思った。
マルコさんに甘えたい、と。
恋人であるマルコさんに甘えられたら少しはこの疲れもとれる気がする。
疲れた時に恋人に甘えていけないことがあるだろうか。
否。
・・・・・と考えられたのは一瞬。
マルコさんは優しいけど厳しい人。
疲れたから甘えたいです、なんて言おうもんなら。
これしきのことで疲れただ?まして、甘えたいなんて海賊向いてないんじゃねェのかい?
とか言われそう。
いや優しいのよ!?
マルコさん優しいんだけど、厳しいところもある、から。
むむむむ・・・・・・。
・・・・やめとこうかな、甘えるの。
マルコさんの部屋の前まで来て悩む。
甘えたい。
抱きしめて欲しいし、一緒にお茶したい。
聞いてほしい話、いっぱいある。
ただでさえ最近マルコさん忙しそうで、
なかなか話せてないのに。
・・・忙しそう、で。
そんなマルコさんに甘えたいなんて言えないよね。
むしろ私に甘えたいのはマルコさんのほうだろうし。
やめておこう。
「アコ?」
ガチャリとドアが開いて出てきた部屋の主。
・・・・恋人の、マルコさん。
「あ・・・・・っ」
顔を見たらもっと甘えたい欲が強くなってしまった。
ふぐぅ・・・・・!!
「どうかしたのかい?アコ」
「あ・・・え、っと」
「悩み事なら話しくらいは聞くよい、入んな」
「お・・・・・・・・お気遣いなくぅぅ!!」
それだけ叫んで逃げた。
自分の部屋に慌てて逃げ込んだ。
・・・・マルコさんの優しさに、付け込んではいけない。
そう思ったから。
あーマルコさんは今日もかっこいい。
かっこいいけど疲れはそのままな訳で。
何か甘いものでも食べよ。
それから紅茶、淹れて。
・・・・・はあ。
「・・・・・朝」
ふと目が覚めると明るい窓辺。
キッチン、行かなきゃ。
重い体を起こして、まだ覚醒してない頭で考える。
今日何するんだっけ。
いやその前に着替えないとだ。
「目ェ覚めたかい」
「は」
「おはよう、アコ。いい天気だよい」
「おはよう御座いますマルコさ・・・・?」
マルコさん!?
目の前に見えたパイナップルに完全に覚醒した。
「まずは着替えて顔を洗ってくるんだねい」
「は、はい!?マルコさん!?何で私の部屋に!?」
「鍵、かかってなかったよい。不用心だろい、気をつけろ」
気をつけろ、と厳しい口調で言いながらマルコさんは優しく私の髪を撫でる。
「すすすみませ・・・っあれかけてなかったかな!?」
慌てふためく私を見て笑ったマルコさんは、
「1人じゃ着替えられねェってんなら俺が脱がしてやるよい?」
と妖艶な笑みを浮かべた。
「のーさんきゅうです!マルコさん出て行ってくださいいいい!!」
何とかマルコさんを追い出して、
着替えを済ませた。
「・・・マルコさん?」
ドアの外にいるのかと思いきや、誰も居なかった。
・・・ちょっとだけ、寂しい。
でもおかげで目が覚めた、キッチン行かないと。
気合を入れてドアを開けたら、今度はなぜかマルコさんがいた。
「珈琲、飲むだろい?」
珈琲を2つ持って。
「え、でも私これから朝食の」
準備、が。
「ちょっとくらい遅れても誰も文句は言わねェよい」
「・・・・フランスパンが言うと思います」
「俺の名前出しとけば黙らせられるよい」
「マルコさんすごぉい・・・」
マルコさんの優しい笑顔と、
珈琲の香りに抗える訳ない。
私はベッドに座りなおした。
隣に座ったマルコさんと、
「・・・・・ふわぁ」
珈琲を啜る。
おいっしい!!
「昨日はいい夢が見られたかい?」
「・・・・夢、見なかったです」
気が付いたら朝だった。
「疲れてたんだねい」
「・・・・はい。でももう大丈夫です」
元気に、なりました。
「まだだよい」
「え」
ぽす。
マルコさんの分厚い胸板に顔を押し付けられた。
「・・・・マルコさん?」
「昨日、俺の部屋に来た理由は?」
「あー・・・なんとなく顔が見たかっただけです」
「本当は?」
「本当、ですよ」
「・・・ったく、頑固だねい」
「呆れましたか?」
こんなの絶対呆れてるに決まってる。
嫌われた、かな。
恐る恐る顔を上げればマルコさんの優しい瞳に困惑する私が映った。
「ああ、呆れてるよい」
「・・・・ふぐぅ」
「俺はアコの何だと思われてるんだろうねい」
「大切な・・・・恋人、です」
「俺は頼りないかい?」
「いいえ。でもお忙しそうだったし」
「甘えたい恋人ほっとくほど忙しくはねェよい」
ああ、やっぱりマルコさん全部わかってたんだ。
「・・・・情けないですよね」
「何かあった訳じゃないんだな?」
「はい、少し疲れただけで」
「おおかた何処ぞのフランスパンのせいだろい?」
「・・・です」
ぎゅう、と抱きしめられた。
このぬくもりがずっと恋しかった。
「もう少しこのままで、いいだろい?」
「・・・いいんですかね?」
「いいんだよい。可愛い恋人を甘やかしたいだけだい」
「・・・じゃあ、お願いします」
安心するマルコさんの匂い。
このまま寝れそう。
「2度寝でもするかい?」
「でも、そしたら本当にサッチさんに怒られちゃう」
「怒らせときゃいい」
「うーん、でも私の作ったものマルコさんに食べて欲しいですし」
睡魔の葛藤と闘いながら答えれば、
マルコさんがふはっ、と噴出した。
「アコのそういうところ、好きだよい」
「それ褒めてます・・・?」
「存分にねい」
面白そうに笑いながら言われても!
・・・・まあ、いっか。
「名残惜しいですけど、そろそろ行きますね」
「充電は完了、かい?」
「はい。また疲れたらお願いしてもいいですか?」
「今度は素直に言えたらもっと甘やかしてやるよい」
敵わないなあ、この人には。
でも、幸せだ。
「マルコさんも甘えたいときは言って下さいね!」
「俺は遠慮はしねェよい」
海賊だからねい、と笑うその顔はまさに悪人そのもの。
でもそんな顔にときめいてしまうのだから、
私も大概よね。
「行ってきます!」
しばらくは頑張れそうだ。