短編⑤
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「もういいです、私この船降ります!!」
お頭と大喧嘩した。
「好きにしろ」
そのうえでお頭から許可をもらったので、
私は翌日に荷物をまとめて船を降りた。
知らない島だけど海の上じゃなくて良かった。
朝早くにレッドフォース号を降りて、
まずは島の食堂で朝食。
荷物を抱えたままふらふらと街を物色。
・・・・しながら違和感。
ここまで順調にいけるもの?
上手くいきすぎてない?
絶対妨害されると思ったけど。
・・・好きにしろ、と言った手前何もしないのかしら。
止めて欲しかった訳じゃない、けど。
この平穏さが逆に怖い気がする。
あと・・・・つけられてたりしないよね?
とりあえず今日はこの辺の宿に一泊して、
明日から職探し、かな。
・・・あの船に未練がないわけじゃない。
でも、もうお頭には本気で怒ってるから。
買い物に疲れて入ったカフェで一休み。
「・・・・ふぅ」
こんなにゆっくり1人で出来たのは久しぶりかもしれない。
嬉しい反面少しだけ寂しいのも事実。
まあ、そのうち慣れるかな。
私はいつだってお頭に振り回されて来た。
騒がしい食事、ゆっくり入れないお風呂。
ルーキーが戦いに挑んでくるのはまあ許せる。
でも四六時中お頭やら誰かがついてきて、
島で1人買い物、なんて夢のまた夢で。
女の子ならではの買い物だってしたいのに。
今回の喧嘩の原因だって、
一人で行動したいと申し出た私にお前は弱いと言ったお頭に反発してのこと。
自分が弱いのは自覚してる。
でも少しの自由行動も許してくれないのなら自由じゃない。
・・・自由じゃないなら、海賊じゃない。
それなら私は海賊をやめてこの島で、
普通の女の子として生きようじゃないか。
「なァんて思ってんだろお前」
「は」
心の中でこれからの未来を妄想していたらなんと目の前に今1番見たくない顔の男が座っていた。
「ったく、俺の尾行にも気づいてないようじゃまだまだだな」
呆れ顔で水を飲むその人は、
間違いなくお頭で。
赤髪のシャンクスその人、で。
「き・・・気づいてましたけど!っていうかそれ私の水ですが!」
「何だ、酒じゃないんだな」
「こんな昼間から飲みませんよ、何処かの誰かさんじゃあるまいし」
「で、そんな大荷物で何処に行くつもりだ?」
お頭はあくまで飄々と、淡々としている。
・・・そしてその目は何処か冷たい。
「不動産ですが何か?」
負けじと言い返すも、
「却下だ」
速攻で反論が返って来た。
「私はもうあなたのクルーではありません」
「俺は許可を出してねェ」
「はあ!?好きにしろっておっしゃいましたよね!?」
「・・・・アコ」
名前を呼ばれたの同時にいささかの覇気。
「ちょっ、こんな場所で・・・・っ」
「俺はお前を連れ戻すためなら犠牲は厭わないつもりだ」
そしてここで、まさかの笑顔。
・・・・恐怖でしか、ない。
でも私だって負けない。
生半可な気持ちで出てきたわけじゃないから。
「・・・好きにしろ、とおっしゃいましたよね」
「やれるもんならやってみろって意味だ」
「弱い者は海賊船には必要ないかと」
たっぷりの嫌味を込めて言ってやれば、
「それなら心配はねェ、俺が守る」
「それが嫌なんです。守ってもらわないといけない、自分が」
「・・・・家出の理由はそれだけか?」
「1人を満喫したかったんです」
「なら満足したな?帰るぞ」
ぴり、と痛む肌。
掴まれた腕も痛い。
「嫌、です」
「・・・・アコ。俺は今すこぶる機嫌が悪い」
「私のせいにしないでください・・・っ」
抵抗するも私の力で敵うはずもない。
「手加減、出来なくなるぞ」
「怒ってるの私なんですけど」
静かに、でも確固とした意志を伝える。
「アコの気持ちはよーくわかった、だから帰るぞ。異存はないな?」
「いいえ帰りません、私はっ」
私はここで、
「お前は海賊に染まってる。普通の生活は出来ねェ」
「・・・っそんなこと、」
「ある」
短く発せられた言葉と同時に立たされ、
突然唇を奪われた。
「・・・・・・っ、な、なななにすっ」
「ほらな?抵抗出来ねェだろう?」
「お頭に敵う人なんてそうはいませんよ!!」
「普通の女ならこのままなし崩しに宿に連れ込まれてるさ」
「んな訳あるか!!」
思わずツッコんでしまったけど、
ふと空気が和らいだ。
・・・覇気が、落ち着いたみたい。
「本当に出てくとは、思わなかった・・・」
そして私の肩に顔を乗せてうなだれるお頭。
これは・・・落ち込んでる?
「え、私出ていくって言いましたよ」
そんであなたは好きにしろって言った。
しつこいけど間違ってないから何回も言う。
「ああ、聞いた。だが口だけで済むと思ってた。俺が甘かった」
弱々しい声音に、光のない瞳。
・・・・一応この人も反省してるのかしら。
「私別にレッドフォース号が嫌とか、お頭の側が嫌とかいうんじゃ、ないですよ」
「じゃあ何故出て行った?」
でもすぐに瞳に光が戻る。
あ、やっぱ怒ってる。
・・・・いや、怒ってる?
とは違うような。
「息を吐く時間が欲しかったから」
「・・・・つまり?」
「お風呂にはゆっくり入りたいし、1人で買い物する時間も欲しいんですよ私は」
もう今まで何回も言ってきたけども。
お風呂に入っててもお頭が見張りと称して声かけてきて気が気じゃないし、
寝る時も寂しいとか危険だとか言って一緒に寝ようとしてくるし、
買い物行くときはこっそり1人で出ようとしても絶対バレてついて来られるし!!
「アコの入浴中を狙って覗きにくる奴がいるかもしれないんだぞ!?」
「そんな奇特な方いませんて!」
「それなら俺と一緒に入れば解決だな?」
「私1人でゆっくり入りたいって言いましたよね!?せめて声かけずに見張ってて下さい・・・」
「わ、わかった・・・」
「あと寝る時もたまには1人で寝たいです」
「それだとアコが危険じゃねェか」
「部屋隣だし何かあればすぐ来てくれますよね!?」
「いや、しかしだな・・・」
「毎日とは言いません、1週間に1回くらいでいいんです」
「・・・・譲歩しよう」
荷物まとめて出て行ったのが効いたらしい。
渋々、といったかんじで頷いてくれた。
でも、
「だが1人で買い物は許可出来ねェ」
「・・・・・じゃあついてきてくれていいです。ただし、今日みたいにこっそりにしてください」
向こうが譲歩してくれたのだから私も譲歩しよう。
「それじゃ俺がつまらねェ」
「じゃあ2時間でいいんで自由な時間ください」
「30分だ」
「・・・1時間」
「・・・・・わかった」
1時間は短い気もするけどないよりマシ。
「ちなみに聞きたいんですけど私が海賊に染まってるってどういうことですか?」
「抑えてるとはいえ俺の覇気を喰らって
俺に言い返せる女が普通の女になれるわけがないからな」
「・・・・・言い返せません・・・・!」
「じゃあ、帰るぞ」
・・・悔しいから、もう1つ質問。
「怒ってたのは私なのになんでお頭が怒ってたんです?」
「・・・・怒っては、いねェ」
「え、でも」
「もう十分だろう?お姫様」
差し出された手を取るには十分のお頭の困り切った顔。
「・・・仕方ないから帰ってあげます」
そうね、四皇にこんなこと言える私は、
もう普通の女の子には戻れないかもしれない。
帰ったらベンさんが、
お頭ものすごくショック受けてたぞ、お前迎えに行くときかなり緊張してたようだ。
と笑ってた。
ああそっか。
あれは怒ってたんじゃなくて緊張してたのか。
と理解した。
一応1週間過ぎた今も、
約束は守られている。