短編⑤
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幼馴染のシャンクスが熱を出したらしい。
下手に死なれても困る、見に行ってやってくれないかとシャンクスの友人に頼まれた。
仕方なくシャンクスの家まで行ってドアを開けてまさか、と驚いた。
お洒落なハイヒールが2足分あったからだ。
まさか、まさかね。
今すぐにでも帰りたくなったけど、
とりあえず行きに買って来た食べ物と飲み物を持ち帰るのも何か嫌なので、
仕方なく中に入ることにした。
鍵はかかってなかったし、インターホンにも反応がなかった。
・・・・その状況がとても怖い。
「・・・お邪魔しますよ、っと」
ホントにお邪魔にならなきゃいいけど。
足音を立てないようにそろりと部屋に向かい、
恐る恐るドアを開けた。
「・・・・・・・伊藤博文かあんたは」
「お?来てくれたのかアコ!」
そこに広がる光景は、
まあ思っていたような最悪なものではなかったけど、
思わずツッコミたくなるようなものではあった。
ベッドで寝ているシャンクスの傍らに2人の女性。
しかも美人。
「ベックさんに頼まれてね。食べ物と飲み物ここに置いておくわ。じゃ」
「待て待て待て、そう焦って帰るこたァねェだろう」
シャンクスは帰ろうとする私を止めるように起き上がりベッドから出ようとして、
傍らの美女2人に止められていた。
「いや帰るよ、焦るよ。風邪うつされたくないもん」
「大丈夫だこの2人ならすぐに帰すから!」
「被害者私だけにする気!?」
えー、と声を出す美女2人は不満げな顔を見せながらも、
「そういうことだから、悪いなァ」
というシャンクスに押されて帰って行った。
私はそれを呆然と見送り、はっと我に返る。
「いや私も帰るよ!?お邪魔しましたお大事にね!?」
「今お前が帰ったら俺は死ぬぞ!?」
「アンタは殺しても死なないから大丈夫!じゃあね!」
何年幼馴染やってると思ってんの。
39年よ。
シャンクスが風邪くらいでどうこうなるタマじゃないのはとうに知ってる。
「嘘じゃない」
いつになく真面目な声と、
弱い力で腕を掴まれた。
「・・・いやその嘘バレバレ」
「死にはしねェ。が、側に居て欲しいのは本当だ」
「私になら風邪をうつしてもいいって?」
「俺が看病するさ」
「シャンクスの看病は看病にならないのよ」
「まあそう言うなって。な?」
苦笑するシャンクスの顔は赤い。
一見元気そうだけど具合は悪そうだ。
「とりあえず寝て」
「帰らないって約束してくれんなら寝る」
「・・・・・わかったから。貸し1つね」
「それでいい、助かる」
へにゃりと笑ったシャンクスが安心したように再びベッドに寝転がった。
「・・・・なんであの子達帰しちゃったの」
「元々頼んで来てもらってた訳じゃない」
「それにしても心配して来てくれてた訳でしょ」
「妬いてくれないのか」
「私よりいい生活してることには妬いてるけど」
「・・・手厳しいな。伊藤ってのはアコの男か?」
「・・・・・は?」
思わず間抜けな声が出た。
シャンクスはいたって真面目な表情で、
「さっき言ってただろう。伊藤なんちゃらかと思った、って」
「博文」
「それだ。いつの間にか居たんだな、そう言う奴が」
「・・・本気で言ってる?」
「ああ。・・・だが辞めておいた方がいいんじゃねェか」
「何で」
「女好きなんだろう」
「そうね、とっても」
「そんな奴じゃお前を幸せには出来ねェよ」
「・・・いや、ある意味では幸せにしてもらってるけど」
「・・・そう、か」
シャンクスが静かに目を閉じた。
「・・・・寝る?」
「どんな、奴なんだ」
「何が」
「伊藤某」
「調べればすぐ出て来るよ」
たぶん一発で。
「調べる?どうやって」
「普通にネットで。あと伊藤博文私の男でも何でもないけど」
「漫画のキャラか何かか?」
「シャンクスって歴史苦手だった?」
それとも熱で思い浮かばないだけなのか。
「歴史?」
枕元に置いてあったスマホを取ろうとしたシャンクスの手がぴたりと止まった。
「日本の初代総理大臣の名前、知ってる?」
私が答えた瞬間シャンクスは顔を手で覆い隠して、
「総理大臣にゃあ、なれねェなァ」
「なりたかったの?」
初耳だけど。
「鈍い幼馴染の気持ちを掴むには総理大臣にならねェと駄目らしい」
「いや私伊藤博文そこまで好きじゃないけど」
「・・・・・頭が痛くなってきた」
「高熱が出た時に女2人侍らせてたって逸話思い出しただけよ、シャンクス見て」
それから何処か自嘲的に笑ったシャンクスは私の手を取り、
「もうわかってるだろう?俺の気持ち」
「弱ってるから身近な何かに縋りたいだけよ」
「・・・つれねェなァ」
「悔しかったら早く治しなさい。快気祝いの飲みには付き合ってあげる」
「じゃあ明日」
「無理。寝ろ」
「そういうとこも、好き、なんだ」
・・・結局手を離せない私も大概よね、と思いつつ。
寝入って行くシャンクスの顔を見てこれからのことを考えた。
1週間後居酒屋で、
『好きだアコ』
と告白された私は、
『酔っぱらいの戯言は聞きませーん』
と返してやった。
熱にも浮かされず、
酒の勢いにも任せず。
彼の素面の言葉を私はいつでも待ってるのに、ね。