短編⑤
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いわゆる事故ちゅー、というやつだったんだろう。
酔っぱらったお頭が足をもつれさせて。
そこにたまたま私が居たのは。
まあ大の男であるお頭の体重を私が支えられるはずもなく、
無残にも床に倒された。
そこでたまたま、
本当にたまたま。
・・・偶然、ほんの一瞬。
お頭と唇が重なった。
別に私とお頭はそんな色っぽい関係じゃないし、
そのままどうこうということもなかった。
すまん、怪我はないかと心配してくれたお頭に大丈夫です、と伝えて自分の部屋へ戻った。
それだけだ。
だって別に外傷もなければ痛みもなかったんだもの。
しかもお頭の手が私の頭の後ろにあったので、
咄嗟に庇ってくれたんだと思う。
だから本当に怪我もなかった。
お頭の撒いた種とは言えそこは感謝してる。
・・・キスだって別にこの歳にもなればお互いにそこまで気にすることでもないだろうし。
なのに。
なのに!!
「あ、お頭おはようご・・・・・」
私と目が合ったお頭は見事にくるりと方向転換。
・・・・あれから見事に避けられている私。
何?私怒ってないけど?
お頭の方が怒ってるの?
そんなに嫌だったの?
仕方ないじゃない元はといえば原因あなたよ!?
それとも何そんなにキスのこと気にしてる訳!?
乙女か!!
いい歳したおっさんが!!
・・・・まあ仕事には支障はない。
何故なら通訳(ベンさん)が居るから。
とは言えずっとこのままなのも。
「・・・て訳なんですがベンさん」
何故私は避けられているのでしょうか。
朝食後の珈琲を啜りつつ、
素直な疑問をぶつけてみれば、
「お頭が意外と純情だったってことじゃないのか」
と軽くあしらわれた。
「そんなの誰が信じるんですか」
「アコ、知らないのか?あの人は一途だぜ?」
「つまりアレですか。惚れた女が居るのに私なんかとしちゃったからショック受けてるんですか」
「・・・・普通そうはならんだろ」
「じゃあどうなるんですか」
ニヤニヤとした笑みを浮かべるベンさんに私の考えを述べるも呆れた顔をされてしまった。
「・・・もし仮に頭に惚れた女が居たとしたらお前はどうする?」
「とんでもない酒好きで無茶苦茶で厄介な人ですけど幸せにしてあげてくださいねって頭下げます」
どうよ、私いい仲間じゃない?
ドヤ顔で返せばまたまたベンさんは呆れ顔で、
更に今度は大きいため息も返ってきた。
「しいて言うならお前のそういうとこが原因だろうな」
「・・・・解せないですね」
「そんなにお頭と話したいんなら連れて来てやるよ」
ちょっと待ってろ、と煙草をふかしながらベンさんは煙のように消えて行った。
そして何分過ぎただろう。
5分、10分くらい?
「おーアコ、俺に話しがあるって?」
強張った笑顔を張り付けたお頭が来た。
「え。怖いんですけど」
「怖い?何がだ?」
「・・・・お頭が」
「俺が?怖い?」
あくまで笑みを張り付けたままお頭は続ける。
「はあ、そのうさんくさい笑みが怖いです」
正直に伝えればお頭から笑みは消え、
すぐに苦笑に変わった。
「・・・アコのそういうとこが俺ァたまらなく愛おしいんだよなァ」
「それ褒めてます!?」
ああ、でも久しぶりに普通の会話が出来た気がする。
少しほっとした。
お頭は気まずさそうに頭をがしがし掻いて、
「悪かったな、今まで避けてて」
「ホントですよ。私悪くないのに」
「いや、アコが悪い」
「解せません・・・!!何故!?」
私の真剣な訴えにお頭は少しだけ考えるように宙を見上げた。
「そう・・・・だなァ、俺が悪かった」
「え」
「何だ」
「そう簡単に謝られるのも困惑っていうか」
「・・・俺だって反省くらいするさ」
「・・・まあ、いいですよ」
元々相手はお頭だ。
許さないなんてことはあり得ない。
「アコはあの時どう思った?」
「あの時?お頭が転んだ時ですか?」
「そうだ」
「私にもっと力があればって思いました」
ちゃんと支えられたら、って。
「・・・・キスのことは気にしてねェ、と?」
「あーまあそれはその、お頭の想い人には申し訳ないなあとは思いますけど」
「俺の想い人?」
「居るってベンさんが」
言ってましたが。
「・・・・誰だと思う?」
なんて意味ありげな笑みを浮かべたお頭の顔が私に近づいた。
「うち女私だけだし白ひげさんとこのナースさんですかね」
「違うな」
「じゃあ島に残して来た人」
「それも違う」
・・・面倒くさくなってきた。
「えーと、まあ叶うといいですね!」
「アコ」
「は・・・・はい」
もうまとめに入ってしまおうとした私を射抜く鋭いお頭の視線。
さっきとは違う意味で怖い!!
「あの時俺は酔っていなかった、と言ったら?」
「・・・・パワハラだったんですか?」
酔ったフリして私をいじめてやろうみたいな?
「・・・わかった」
「・・・私が弱いのが?」
お頭は顎に手をやりそう呟くと、
「ん」
「ん?・・・・んむぅ」
私の唇に自身の唇を押し付けた。
「これでわかったか?俺の好きな女」
「わ・・・・・私の罪悪感返して下さい・・・!!」
「・・・駄目だこりゃ」
すったもんだで、
なんだかんだで、
ハッピーエンド。
「でも今度はちゃんと支えたいです!」
「そりゃ頼もしいこった」