短編⑤
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「恋と言う言葉を出さずに恋を表して下さい」
「・・・サッチさん頭おかしくなっちゃいました?」
こんな夕飯の支度で忙しい時に何を訳のわからないことを。
「何かナースの間で流行ってるらしいんだよ」
「それはそれとして今は手動かしてもらえます?」
「いいじゃん一言」
「・・・・サッチさんへの殺意ならすぐ出て来るんですが」
「殺意じゃなくて恋な」
「サッチさんに恋愛感情はありません」
「じゃあ誰?マルコ?エース?イゾウとか?」
こっちは必死にキャベツの千切りしてるのにサッチさんと来たら。
・・・しつこい、仕方ない。
この恋を、表すなら。
「負けたくない、ですかね」
「・・・アコちゃん、恋の話しよ?」
「そうですよ」
「何、ライバルが多いの?」
「それは知りませんけども」
・・・彼が私のライバル、なのです。
「アコ、明日の朝飯何?」
「まず今日の夕飯食べてから言って!?」
「今日のはわかってるからもういいんだよ」
「内緒ですぅ」
食事中に寝てしまったエースが目を覚まして、
開口一番に明日の朝ごはんのメニューを聞いて来る。
・・・・そんな彼が、
「アレだな、朝飯の前に今日の夜のオヤツだな」
「・・・・負けないよ」
私のライバルで、
私の好きな人。
「ん、んまい」
「ホント?」
「でも塩入れ過ぎな気もするな」
「・・・・ぎゃふん」
エースに提供する夜食で、
私はエースから100点満点をもらえずにいる。
美味しい、とは言ってくれるんだけど。
好きな人から100点満点をもらいたい。
・・・・だから私の恋は、
負けたくない、が正解。
「・・・悔しいなあ」
「そっか?ここまで作れるだけですげェよ」
「サッチさんなら100点もらえてたと思う」
「追いつきたいんだろ?」
「勿論」
「頑張れよ、アコならすげェ料理人になれる」
「・・・有難う、エース」
サッチさんはあんな風にしてても料理に関してはすごいし、
尊敬もしてる。
・・・そう言えばサッチさん私の好きな人知りたかったのかな。
だからあんな質問したんだろうか。
・・・今、エースに同じ質問をしたら。
何て返ってくるんだろう。
めっちゃ戸惑うだろうなあ。
「・・・・ねえ、エース」
「んぁ?」
「恋と言う言葉を使わずに表してみて」
案の定エースは怪訝な顔をした。
「・・・なんだ、それ」
「ちょっとした好奇心」
「恋、だァ?」
エースは思い切り顰め面で唸り始めた。
何て答えるんだろうとドキドキ待っていると、
「俺の力の源」
力強くはっきりとそう言った。
・・・でもその顔は耳まで真っ赤で。
特定の誰かがいることはわかった。
・・・・ああ、そっかあ。
エース好きな人居るんだあ。
力の源。
素敵な言葉だ。
「アコはどうなんだよ」
「私は・・・・負けたくない、だった」
「ははっ何だソレ。でも急にどうしたんだよ」
「今日サッチさんに聞かれたの」
「・・・サッチに?」
サッチさんの名前を出した途端エースの表情が変わった。
怒ってるような、悔しそうな。
「・・・どうかした?」
「それサッチがアコのこと好きだってことじゃねェの」
低い声でぽつりとエースが呟いた。
「絶対違うと思う」
「・・・言い切れるか?」
「私のこと好きならあんな料理のピーク中に話しかけたりはしないと思うの」
マジで包丁向けてやろうかとすら思ったのよ。
と言えばエースはまた笑った。
同じ料理人で、状況を見たうえでおしゃべりとかマジでないわ。
「へェ。・・・んで、アコは誰に負けたくないんだよ?」
「そりゃ勿論好きな人」
「そいつ、誰」
「内緒」
「・・・サッチ?」
「ピーク中におしゃべりしてくるような人好きになると思う!?」
料理の腕は尊敬してるけど。
サッチさんへの恋なら、
追い越したい、になるかなあ。
「マルコか」
「恐れ多過ぎで無理」
「じゃあイゾウ」
「メイク技術は素直に尊敬するわ」
「・・・ハルタだな?」
「いや違うわ。・・・もう1つがあるとしたら」
「したら?」
「・・・絶対間違いなく美味しいって言わせたい」
ここまで言ったら鈍感なエースでもわかってしまうだろうか。
そんな期待と不安の入り混じる私に、
「そんなの全員だろ?」
当の彼は見事なボケをかましてくれた。
「それはそう、なんだけど」
「最近ビスタとかも仲いいよな?」
「あー・・・・・今日は塩が多かったって言われたかな」
・・・さすがにこれは、わかる、よね?
「・・・・・今日俺以外にこれ食わせた?」
目をまん丸にしたエースの質問に、静かに首を横に振った。
「・・・・アコの、好きなやつ、って」
「・・・・です」
俺、と指さしたエースにこくりと今度は盾に頷いた。
「あー・・・・・・・ごめ、ん」
「あ、いいのいいの!勝手に好きなだけだから!!」
フられた!!知ってたけど!!
勢いで告白しちゃっただけだし!!
元々期待は別に、
「塩が多いとか嘘ついた」
「・・・・・は?」
え、何の話し?
「今まで食ったの文句なしに美味かったんだけど、よ」
「はああ!?」
「アコは負けず嫌いだから、文句つけたらまた作ってくれるだろ?」
「・・・・そ、それは否定出来ない」
「だから・・・夜2人きりで会う為の口実、っつーか」
待って、じゃあ。
「力の源、って」
「負けたくないのって」
「私?」
「俺?」
2人共顔が真っ赤で。
恋なんて言葉を使わなくても。
・・・もはや何も口にしなくてもわかってしまう。
この赤い顔が、すべて。