短編⑤
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ここまで盛り上がる合コンがいまだかつてあっただろうか。
いや、ない。
顔のレベルはまあまあの男女。
勿論私も含めて。
大盛り上がりになったきっかけは、
とある男性の一言。
「俺、年収3千万なんだよね」
この発言によって女性のほとんどがその男性にまとわりついていて。
・・・・・主にそこだけ大盛り上がり。
「行かねェの?」
「はい?」
「3千万」
隣に居た別の男性に声をかけられた。
そばかすが特徴の人。
何処かで見たことある顔だと思うんだけど思い出せないわ。
「ああ・・・・向こうのお遊びなのわかってるんで」
「・・・わかるか?」
「お金目当ての女と本気になるとは思えないから」
「でも本気になるかもしれないだろ?」
「まあきっかけにはなるかもだけど、そもそもお金をひけらかして女集めるような人そもそも好きになれないの」
価値観も合わないだろうし。
・・・まあ仮に彼が本当に年収3千万だったとしたら、の話しだけど。
「・・・・アコさん、だよな」
「アコでいいわ。エース、くん?」
「エースでいいぜ。ここの飯美味いよな」
仕事・・・は何だったかな。
保育士、と言ってた気がする。
爽やかな笑顔とそばかすが特徴のエース君。
「いいの?女の子に声かけなくて」
「今かけてる」
にぃ、と笑って私を見る彼に思わず笑った。
「あははっ、確かに。エースさっきからご飯しか食べてないみたいだったから」
「今日はただ飯食えるって聞いたから来ただけだったもんで」
「ただ飯?」
「ダチの付き合いなんだよ、人数合わせにどうしてもって言われて」
「ああ・・・・もしかして彼女持ち?」
どうりで余裕がある訳だわ。
と思いきや、
「いや別に彼女とかはいねェけど」
・・・あらら。
「あ、完全にご飯目当ての人」
「今はまだ手のかかる弟が居るからなァ」
「弟さん?」
「俺の弟。すげェ食うしすぐ無茶やらかすからよ」
なんてにこにこしながら私のスマホの写真を見せて来る。
・・・・まあ、年収ひけらかすより弟自慢の方が断然可愛いけど。
「あ、悪ィ」
と、突然彼が話すことをやめた。
「・・・どうかした?」
「俺の弟の話しなんか聞いてもつまんねェよな。俺金もねェし」
なんて少し気まずさそうに苦笑を浮かべて頭をぽりぽり。
優しい人なんだなあと思わず心があたたかくなった。
「もっと聞きたい。弟君の話し。・・・それと、エースのことも」
「そ、そっか?」
「子供が好きなのね」
「俺が子供みてェなもんだからか、楽しいんだ」
「天職なんだ、羨ましい」
「給料は多くねェけどな。アコは仕事・・・」
「事務。ありふれた仕事よ」
「すげェ、事務とか俺絶対無理。頭悪いし」
「単純作業なとこもあるから慣れれば難しくはないと思うけど」
「やっぱ俺には向いてねェや」
「じっとしてるのが苦痛なら向いてないかもね」
「うちの園でも事務的なことはするけど俺任せっぱなしだからなァ。感謝だな」
・・・事務って結構下に見られることが多くて。
感謝、なんて。
・・・嬉しい。
「エースにはたぶん子供と一緒に遊んでるのが似合ってる・・・と思う」
「ははっ違いねェや」
・・・残念だなあ。
この人が彼女欲しくて今この場に居たんだったら良かったのに。
こんなにもまだ話していたいと思う人初めて。
「好き嫌いとかはないの?エース」
「ほぼねェ」
「すごい。じゃあ好きな食べ物は?」
「辛いのは好きだな。あとはラーメンだろ、それからカツ丼とかたこ焼き」
「タコ焼き!私も好き」
「外カリカリの中ふわふわなやつな!」
「そう!美味しいよね」
「あ・・・・あのさ、うちの近所に美味いたこ焼き屋あるんだ、今度一緒に行かねェか?」
「ほんと?行きたい」
思ってもなかった嬉しいお誘いに2つ返事で承諾した瞬間、
「おやおや、たこ焼きだとさ!これだから貧乏人は!」
何て思い切り馬鹿にする声。
声の主は年収三千万男。
「あァ悪いなァ、耳に入っちまったみてぇで」
エースはたいして気にした風でもなくにこやかに対応。
けれどそんなエースには目もくれず三千万男は私の方に目を向け、
「どうだい?今度僕とイタリアンでも、フレンチでも」
「いえ、私は彼とたこ焼きが食べたいので」
「はんっ、君みたいな貧乏舌じゃフレンチの味はわからないか」
「そうですね、あなたみたいな人とは何食べても美味しくないと思いますので」
「はははっ、言うじゃねェかアコ」
「貧乏人には貧乏人がお似合いだな!」
「あら、うふふ」
「・・・・何だよ」
「こちらの方ご存知ない?モビーディックカンパニーのご子息よ」
「なっ・・・・んだと!?」
「知ってたのか、アコ」
「思い出したの、今」
何処かで見た顔だと思ったら。
超大手IT企業社長の息子として新聞か何かで見たんだった。
私の言葉をきっかけに今度はエースに女の子が集まり出す。
「えーどうりで品があると思ったんですぅ、どんな女の子が好きなんですかぁ?」
「私ぃ今彼氏募集中でーっす」
・・・・仕方ない、か。
エースのことはもう諦めて帰ろうかと盛り上がってる場を後にした。
お店を出てすぐに、
「アコ・・・・っ!!」
「え・・・・・エース?」
がしっと肩を掴まれた。
「大丈夫?どうしたの?」
「これ。俺の連絡先。約束しただろ」
「あ・・・・」
たこ焼き。
「オヤジのことは尊敬してるけど俺は俺だ。・・・待ってる、からな」
真っ直ぐな目に引き込まれる。
「・・・私だけって期待してもいい?」
渡されたメモ。
「お、おう」
「エース、私本気だから」
「へ?」
「ご飯には負けないから」
ここまで盛り上がった合コンがいまだかつてあっただろうか。
いや、ない。
まずは好きな人が出来た。
「お、俺も・・・・本気だからな」
「え?」
真っ赤な顔のエースが、
「今日・・・・アコに会えて良かった」
「・・・・うん」
「金ねェから夜景の綺麗な店とかは連れていけねぇけど、美味い店ならたくさん知ってるから」
「・・・うん、楽しみにしてる」
「だから・・・・っそこで告白すっからな!」
待ってろよ!
いきなりの宣戦布告を受けた。
「告白の予告受けたの初めて。期待してる」
きっとこれから楽しくなる。
この日が私の人生の分岐点。