短編⑤
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「・・・・楽しそうだねエース」
「楽しいっつーか必死だけどな」
「・・・・・ああ、そう」
私はどうしたらいいんだろう。
目の前のこの状況を。
エースが必死で、5ベリーを紐で吊るしたものを揺らしてる姿を。
お昼を食べて部屋で本を読んでいたところ、
エースはノックもせずに(いつものことだけど)やって来て、
5ベリーを吊るした紐を私の目の前で揺らし始めて数分。
・・・・・・・・彼はいったい何がしたいのか。
そして私はいったいどうしたらいいんだろう。
エースとは恋人同士だし、
付き合い始めて数か月になるけど。
こんなことは初めて。
「・・・・難しいモンだな」
それから更に数分、エースは同じことを続けて、ようやく手を止めた。
「何がしたかったの?」
今までエースがあまりに真剣だったから聞けなかったことを聞いてみたら、
「催眠術かけようと思ってよ」
・・・訳のわからない答えが返ってきた。
「・・・催眠術?」
「おう、サッチから教わった」
「催眠術を?」
「あァ」
嬉しそうな笑みで頷くエース。
「・・・で、私に何をかけようとしたの」
「アコが俺とキスしたくなるように」
「・・・・・・・はい?」
それからエースは照れたように笑って、
「俺からは何回かしてるけど、アコからキスしてくれたことねェだろ?」
・・・・何回か、どころじゃないけどね。
「それは・・・だって恥ずかしいし」
「だから催眠術でさせようと思ったって訳だ」
にし、とそれはそれは少年のような笑み。
でも言ってることはとんでもない。
「・・・・普通にエースからするんじゃ駄目なの?」
「してもらいてェ」
「まずそれを先に私に言うべきなんじゃない?」
「言ったって断るだろアコは」
「・・・・・そうだけどさ」
エースはいたって真面目な顔で。
・・・ちょっと胸が痛い。
確かに恋愛初心者の私は、
すべてにおいて受け身だ。
それがエースには寂しかったのかも。
「よし、じゃあもう1回な」
「え、まだやるの!?」
「やる」
にィ、と口の端を上げて。
エースは不敵な笑み。
そしてエースは再び催眠術の道具を手に持ち、
揺らし始めた。
「いいかアコ、この5ベリーをよーく見ろよ」
「・・・・・はあ」
仕方なく言われた通り、規則的に揺れる5ベリーを見つめる。
・・・・どうしよう。
ここは、かかったフリして恥ずかしさを堪えキスするべきなの?
「・・・・なれよ、アコ」
え?
何回か紐が揺れた後、エースがぽつりとつぶやいた。
「俺のこと・・・好きになれよ」
「・・・・・・・・っ」
心臓がどくん、と大きく鳴った。
エースは・・・私がエースのこと好きじゃないと思ってるの?
だからキスしないと、思ってるの?
・・・・それで、こんなこと、してるの?
ちくちくと痛みだした胸。
・・・・・・それでも、私から出来る勇気は、出なかった。
「・・・・エース」
「お?」
「・・・・キス、したくなっちゃった」
「しっ・・・・してくれんのか?」
「・・・・エースから、して」
これだけ口にするのが、精一杯。
エースはちょっとがっかりしたような、
寂しそうな顔をして。
それでも笑って、
優しくて甘いキスを私にくれた。
ごめんね・・・エース。
でも近いうち、必ずするから。
大好き、って意味をこめて。
・・・・・・・・頑張ろう。
思いながら、数日が過ぎた。
あれからエースもあきらめたのか、
催眠術も、
キスのことも言って来ない。
・・・・・・でも、エースの本音聞いちゃったから。
エースとキスするのは嫌いじゃない。
大好きなエースだから。
でも何というか、自分からっていうのは難しいもので。
タイミングとか、
そういうのが全然わからない。
何よりそういう雰囲気になっても恥ずかしさに負けてしまう。
「アコー」
「はーいー?」
ドア越しのエースの声にすら心臓が高鳴る。
・・・・エースのことばっかり考えてるから。
入ってきたエースはお盆持ち。
「これ、サッチが持っていけってよ」
お盆の上には、美味しそうなクッキーと紅茶。
「わーやった!エースも一緒に食べよ?」
「お、いいのか?」
「うん。っていうかアレでしょ、どうせここに来るまでにつまみ食いしたんでしょ?」
「バレたか」
へへっ、と笑いながら2人一緒にベッドに腰を下ろす。
「はいどーぞ。って私が作ったのじゃないけど」
「今度作ってくれよ。アコの作ったやつのほーが美味ェ」
「・・・・ありがと」
ほんわかした空気に和んだ時、
エースの首が、がくっと落ちた。
・・・・・寝たな。
あ。
・・・・もしかしてキスするなら今?
なんて思ったけど、
・・・・エースが起きてなきゃ意味ないよね。
そう思い直した。
早く起きればいいのに。
思いながらクッキーをぱくぱく。
あ、最後の1個。
というところで。
「・・・・寝てた」
・・・・起きちゃうんだなあエースは。
「・・・・あーエース」
「ん?」
「いただきます!」
最後の1個、ぱくり。
「あー!!食いやがったなアコ!」
怒るエースの唇めがけて、
ちゅ。
思い切って自分の唇を押し付けた。
「御裾分け。・・・とお詫び」
「・・・・・へ?」
「怒ってる?」
「・・・・おおお怒ってる訳ねェだろ!?むしろもう1回・・・!」
顔を赤くして慌てるエースが可愛くて、
今なら、と次は頬にしてみた。
・・・・意外と出来るもんだ。
「大好きだよ、エース」
「・・・・っじゃあこっちにしろよ」
「あ、・・・・ん」
まだ口にクッキーの甘い香りが残ったまま、
本日2回目のキス。
「催眠術のおかげか?」
「・・・本気で言ってる?」
「嘘に決まってんだろ。ありがとな、アコ。愛してる」
催眠術にかかってはいないけど、
ある意味催眠術のおかげ(というかサッチさんのおかげ?)でエースの本音が聞けて。
私も、さらけ出すことが出来た。
もう催眠術なんか、いらないけど。