短編⑤
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お疲れ様でーす」
やるべきことを終えて会社を出ようとしたら、
「お、終わりか?」
「あーお疲れサマ」
同じく帰ろうとしていたらしいシャンクスに会った。
で、外に出ようと思ったら。
「・・・・・・・・・・今日雨って言ってたっけ?」
「ところにより雨が降るって話しだったな」
お空から雨がザァザァと降ってるという不運。
「・・・・・・そうだっけ」
「天気予報見てたか?」
「・・・・・・・・・・ミテタヨ」
シャンクスは苦笑いしながら鞄から傘を取り出した。
・・・・・・・・さすがだよね。
シャンクスは同期だけど、
さくさくっと出世して行ったすごい奴だ。
「ほら、入れよ」
降り続く雨を見ながら近くのコンビニで傘を調達するか、それとも雑誌の立ち読みでもさせてもらって、
時間潰すか・・・と考えていた私の耳に入った優しい声。
と、傘。
「・・・・・・・いいの?」
「大事な同僚に風邪ひかせる訳にはいかねェだろう?」
「・・・お邪魔します」
有り難く入れてもらうことにする。
駅まででも有り難い。
「そういえばシャンクスがこの時間に帰るのって珍しいね」
「まあ、たまにはな」
私が傘に入ったのを確認してシャンクスは歩き出した。
「いつも忙しそうだもんね。・・・・あ、傘もっとそっちでいいよ」
「たいして濡れてないから、平気だ」
シャンクスが傘を私の方に向けてくれるんで、シャンクスの肩が濡れてるのが見えたんだけど。
シャンクスは頑として動かそうとしない。
・・・・私は、そんなシャンクスに言わなければいけないことがある。
「ね、シャンクスこの後時間ある?ご飯一緒に食べない?」
「久しぶりだし、いいな」
「雨宿りも兼ねて。話したいこともあるし、駅前のとこでいい?」
「話したいこと?」
「うん。あとでゆっくり話すね」
なんて話してたら、
「アコ、もっとこっち来ねェと・・・・ほらみろ」
「わ、」
急にシャンクスに腰を引かれて驚いたら、
すぐ近くを自転車がものすごいスピードで通り過ぎてもっと驚いた。
「ご・・・ごめん、ありがと」
滅多にないシャンクスとの近い距離に少しドキドキしながら、
私達は店に入った。
「じゃ、乾杯!」
カチン、とグラスを合わせて2人ともビールで乾杯。
「・・・・・ぷはーっ!あー美味しい」
「やっぱ仕事終わりのビールは最高だな!」
「ホント。あ、ここ私出すよ傘の御礼に」
「傘1本にしちゃ高くつくぞ?」
「・・・それだけでも、ないからさ」
そう言ったら、シャンクスは静かにグラスをテーブルに置いた。
「話しってのを聞こう」
「私来月で辞めるから」
「・・・・・・・・・・・・・そりゃまた急だな。退職届は?」
「今日出してきた」
シャンクスは目を丸くして驚いてる。
6年、働いた。
その間辞めた同僚も何人も居る。
シャンクスと私は長く続いてる方だった。
「理由を聞いてもいいか?」
「体力的にも精神的にも限界、ってとこ」
「まあ実際大変ではあるな」
「仕事は増える一方、人員と給料は減っていく。努力が足りないって言われ続ければねえ」
辞めたくもなるさ。
「・・・・確かに、な」
「これからますます大変になるって時に、ごめんね」
「こっちのことは気にするな。それより、辞めてどうするつもりだ?」
「今転職活動中。なかなかうまくいかないけどねー」
若いっていう年齢でもないし、
中途半端。
しかも妙齢ということもあって、
入ってもすぐ結婚して辞めるんじゃないかって思われてるっぽい。
「・・・・・そうか」
何だか神妙な空気になっちゃったんで、
目の前にあったお刺身に手を伸ばした。
「これめっちゃ新鮮だよ!ほらシャンクスも食べなよ!私は大丈夫だからさ!」
何とか空気を変えようとした私に、
シャンクスはお刺身をつまみながら、
考えるように言った。
「アコが良ければあてがあるんだが」
「・・・・・・・・え、ほんと?」
まさかシャンクスも転職考えてた!?
「ああ、聞く気あるか?」
「あるある。どんなの?」
シャンクスの言うとこなら是非行って見たい。
「仕事内容は俺と一緒に住むことだ」
「・・・・・・・・・・は?」
「一緒に飯を食って寝る」
「・・・・・・・・・・・・・・へ?」
「家事はまァそこそこでいい。どうだ?」
どうだ?って・・・・・何が?
「つ・・・次の私の就職先の話しだよね?」
「永久就職、ってのもありじゃねェか?」
にぃっとシャンクスが不敵な笑みを浮かべる。
「・・・・・・・・・面接は?」
「必要ない。アコにその気があるなら即採用だ」
「試用期間とか」
「希望があれば1ヶ月間なら考えよう」
「初任給は?」
「俺の給料3か月分の指輪、ってとこだな」
試用期間が1ヶ月って短い気もする、けど。
「雇い主は?」
「俺、だな」
「最初の仕事は」
「結婚式・・・と言いたいとこだが別に嫌ならいいさ」
「嫌になったら辞めるよ?」
「嫌にはさせねェよ」
力強いシャンクスの声音に、
思わず笑みがこぼれた。
「・・・・よろしくお願いします」
「よし。じゃあアコの永久就職に、乾杯」
満足そうなシャンクスと再びグラスを合わせた。
私の再就職。
辞めることは、
たぶんない。
雨も、やんでた。