短編⑤
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「ごめんエース、遅れた」
「おう、珍しいな」
「ごめんね」
「いいって。行こうぜ」
デートの待ち合わせに10分遅れてしまったので、
エースは大層怒ってるかと思ったけど意外にもエースは優しかった。
・・・・でも私は今から、そんなエースを突き放す。
「・・・・ごめん、エース」
「だから気にすんなって。いつも俺の方が遅刻してるし」
「ううん。そうじゃないの」
「・・・・何だよ?」
すう、と息を深く吸った。
そして一気に、
「別れて欲しいの」
吐き出した。
「・・・・・・・・・は?」
「・・・・ごめんね」
「は・・・・いや、意味・・・・わかんねェ」
「他に好きな人が出来たの。だから別れて」
なるべく、笑顔を消して。
呆然、といったエースに冷たい視線を向ける。
「・・・・嫌だ」
「嫌だって言われても・・・私もうエースのこと何とも思ってないし」
「それでも嫌だ。絶対別れない」
「っしつこい男は嫌い!」
「今日遅刻したことに理由があるんだな?」
・・・・勘のいいエースも、嫌い。
「・・・ない、ただエースのこと好きじゃなくなっただけ」
「・・・・へェ」
でもエースには言えない。
・・・絶対言わない。
「・・・だから、別れて」
「嫌だ」
「・・・・・っ、エース」
「俺が嫌いだって言えたらいいぜ」
「・・・・嫌い」
「誰が?」
エースは私の言葉なんか信じてないみたいに笑ってる。
普段は鈍感なくせにこんな時は鋭いなエース。
・・・・むかつく。
「・・・エース、が」
「もう1回最初から全部」
「エースなんか好きじゃない」
「嫌い、じゃねェんだな」
「・・・・・それは・・・・っ」
「それは?」
それは、そんなの。
・・・言える訳ない。
だってまだ好きなんだもん。
「・・・・・エース、なんて。好き」
「ははっ、俺も。好きだ、アコ」
エースは嬉しそうに笑って、
ぎゅ、と優しく私を抱きしめた。
「・・・エース人前は私嫌って」
前から言ってたのに。
「俺を不安にさせた罰」
「・・・エースのことは好きだけど、別れたいのは本当」
「その理由が今日の遅刻に繋がるんだな?」
もうこれ以上隠すことも嘘をつくことも出来ないと、
私のここに来るまでの覚悟はあっさりと消えてしまった。
・・・・エースが、あったかいから。
「聞かせろよ、理由」
それからエースはこつん、と額を合わせてきた。
「・・・私引っ越すの」
何処からどう話そうと迷った結果。
まず出て来た言葉はこれだった。
「引っ越し?何処に・・・っつーか遠距離ってだけで別れるなんて絶対嫌だからな」
「すぐにじゃないよ。・・・親はすぐにでも引っ越したいみたいだけど」
「・・・・引っ越しの理由はオヤジさんの会社の都合か何かか?」
ああ、ほんとに今日のエースは鋭いなあ。
「借金」
「借金!?」
「500万」
「・・・・それ、ホントにオヤジさんの借金か?」
エースが疑ってくれて、嬉しい。
「お友達の保証人になった結果」
「ああ・・・・やっぱな」
父とも何度も会ってるエースだから。
「今後弁護士さんに相談して減額出来そうならしてもらって、って思ってるけど」
「・・・それで引っ越し、か」
「そう。絶対に払えない額じゃないけど」
うちも裕福じゃないし。
取り立てに来たのを見られたらここには居られない。
「それで俺と別れるって?」
「だってエースにまで何かあったら・・・」
私と居るところを見られてエースにまで取り立ての人が来たら。
そんな私の真剣な思いを、
「は、冗談じゃねェ」
・・・エースは悪い顔で笑った。
「・・・本気だよエース」
「絶対別れねェ」
「でも、」
「弁護士なら腕のいい知り合いがいるから任せろよ」
「え!?エースに!?」
「ああ、それに俺も少し出せるぜ?」
「エースの大事なお金・・・・っ」
使わせられない、のに。
「関係ないとは言わせねェ」
「・・・・貯金、あるの?」
「バイト代ちまちま貯めてた」
「欲しい物があったんじゃなくて?」
何とかエースに諦めて欲しかったのに、
「あー・・・・まあ、あるはある」
「じゃあその為に使って」
「・・・・結婚費用の為だよ」
非常に言いにくそうにエースがぽつり。
「・・・・けっ・・・・誰、と」
「アコ以外に誰が居るんだよ。なるべく早く結婚したくて貯めてた金があるから、それ使え」
だから別れるのはナシな、と耳まで真っ赤なエース。
「・・・・巻き込んでもいいの?」
「上等だ。何があっても一生守る」
・・・普段はいい加減でだらしなくて、
遅刻も多くて食事中に寝ちゃったりするエースだけど。
今はこんなにも頼もしい。
「・・・・ありがとう・・・っ」
それからひとしきり泣いて落ち着いた後、
「エースいつも鈍感なのに今日は鋭いよね」
とぽつりと素直な感想を述べて見れば、
「そりゃお前、別れるとか言われれば・・・」
「ありがとね、エース。ごめん」
「ああ、すっげェ傷ついた」
「・・・ごめん、ほんとに」
「もう黙って俺から離れようとするなよな」
「うん。もうしない」
「約束な」
そう言って1回だけの優しい口づけ。
・・・もうエースから離れられないなあと実感した事件になった。
ちなみにエースが紹介してくれたマルコさんという弁護士さんはものすごく有能で、
減額どころか逃げた父の友人の居場所を掴み、
様々な方法を使って払わせてくれた。