短編⑤
夢小説設定
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島に着いて安全な宿で寝ていた私は目を覚ました。
・・・そこにはもう誰も居なくて。
お頭も、大好きな仲間も皆居なくて。
港にあったはずの船はなくなってた。
ああ、置いて行かれたのかとすぐに理解した。
不思議と寂しい、とかは思わなかった。
ああやっぱり。
涙も出なかった。
せめてさようならくらい言わせてくれれば良かったのに。
・・・もう、遅いか。
ここで職探し、かあ。
仕事あるかな。
「・・・・って夢を見ました」
「・・・何だそりゃ」
酒の肴に、と宴の席で何か面白い話をと所望されたので何日か前に見た夢の話しをしてみた。
「面白くなかったですか?」
「まったく面白くねェ。つまらねェよ」
「あれ」
「俺達がお前を置いていく?あり得ねェ話しだ」
お頭は酷くつまらなさそうに酒を煽った。
・・・まあ私もそこまで面白い話し、という自信はなかったのだけれども。
「はい、だから夢なんです」
現実にあってたまるか、とも思う。
「しかし夢とは言え随分あっさりしたもんだなアコ。寂しいなァ」
「まあ、夢なんで」
「・・・正夢になったらどうする?」
・・・また何か企んでるのかな、この人は。
「・・・職探しが嫌ですねえ」
「・・・夢と同じか」
「降りろ、と言われれば断固抵抗しますが。置いて行かれた後では・・・」
追いかける術は私にはない。
「俺は追いかけるぞ」
「そりゃあお頭は出来るでしょうけど」
「出来るか出来ないかじゃないだろう、やるんだ」
やるんだ、と言い切ったお頭の目がぎらりと光る。
「・・・お頭は、強いし」
「アコもそこそこ強いだろ」
「そこそこで悪かったですね。一応お頭に鍛えられた身ですので」
「確かに無暗やたらに海に出ても藻屑になるだけだが」
「そうですよ。だから冷静であることは大切です」
えっへん、と胸を張ればお頭はだっはっは、と豪快に笑った。
「・・・お頭は、私にどうして欲しいですか?」
「ん?」
「もし・・・万が一私を置いて行ったら」
素直に諦めて欲しいか。
それとも追いかけて欲しいのか。
「何もしなくていいぞ」
「・・・へ?」
予想外の答えに間の抜けた声が出た。
「追いかけなくていいし、諦めなくてもいい」
「・・・と、おっしゃいますと」
お頭はそれはそれは優しい笑みで、
「俺達を信じて待っててくれ」
「・・・・わお」
カッコ良すぎる。
「・・・迎えに、来てくれますか」
「勿論だ。何らかの事情で置いていくことがあっても必ず迎えに行くさ」
・・・ああ、この人の側に居られて良かった。
心からそう思う。
「・・・私、その夢を見た時」
「・・・ん?」
本当は言わないでおこうと思ってたけど。
「・・・泣きながら、目を覚ましたんです」
夢の中では冷静に、あっさりとしていた私だけど。
現実の私は泣いていた。
「夢は夢、だな」
「・・・です」
ぽんぽん、と優しい手が私の頭を軽く叩く。
「大丈夫だ。アコを置いて行ったりしない」
「・・・・はい」
ふぁああ、と欠伸が出た。
「寝れてないみたいだな」
「はあ、まあ」
「・・・その夢を見てから、か?」
「うわ、ご名答」
寝るのが怖い。
もし夢のように目が覚めたら誰も居なかったら。
・・・1人、だったら。
そう考えただけで眠れない日々が続いてた。
「なら今寝ていいぞ」
「・・・でも」
「俺の肩使え。そしたら安眠も出来るだろう」
「・・・有難う御座います」
その温かさに安堵して目を閉じた。
閉じる前移った月はとても綺麗で。
「・・・気にするな」
「・・・お頭」
「ん?」
「月が、綺麗ですね」
「・・・ああ、今なら手が届くだろう」
この言葉の意味を聞く元気はもう残ってなかった。
襲い掛かる眠気に任せて意識を手放した。
お頭の安心出来る肩に身を任せて。
『月が綺麗ですね』は貴方が好き。
『今なら手が届くでしょう』
は同じ思い、という返事。
果たして私の月が綺麗ですね、の言葉の意味は。
・・・お頭の、返事の意味は。
どっちだったのでしょうか。
わからないけど、
次に現実に戻る時私はきっと笑っていられる。
そんな気がしてる。