短編⑤
夢小説設定
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「俺のものにならないか?」
「なりません。以上。さようなら」
ああ、電車行っちゃう。
慌てて駅に向かうけど、
「言葉が悪かったな。俺の恋人になって欲しい」
後ろからさりげなく追いかけて来る男はしつこい。
まあ仮にもライバル会社の社長なんだけど。
・・・そんな社長が平社員の私にアプローチ。
「まあ、ご冗談を。申し訳御座いませんが私少々先を急いでおりますの、失礼致しますわ」
笑顔でさらりと躱したつもりが、
「冗談じゃねェんだ」
と腕を掴まれた。
「・・・・それは失礼を。ですが先を急いでいるのは事実で御座います。お離しを」
赤い髪の、ハイスぺ男。
「何か用が?」
「終電がなくなります」
「それなら問題ない、俺の車で送って行く」
それが嫌だから急いでるんだっての。
「それは少し・・・スキャンダラスですわね」
「何、会社を辞めてくれとは言わねェさ」
「では・・・」
「そのまま俺の女になって欲しいだけだ」
「大問題ですね」
何をさらりと問題なさそうな顔で言うのか。
今の会社に勤めたままこの男と付き合おうものなら両方に合わせる顔なんかない。
「俺がそっちの会社を買収すれば問題はなくなるか?」
「は・・・・・・」
「それでいいならそうしよう」
「絶対許しません」
思わず睨み付けたら、
ハイスぺ男・・・シャンクス氏は笑った。
「わかった、やめておこう」
そしてあっさり。
ふと、シャンクス氏の腕にはめられた高級そうな腕時計がちらりと目に入って、
「あーっ!!!」
「どうした?」
「・・・・・終わり、ました」
「・・・・ああ、終電か。すまん」
全然申し訳なさそうにすまん、なんて。
そして彼はにっこり。
「で、どうするアコ?」
「・・・・どうする、とは」
「喜んで足になるが」
「・・・・タクシー拾いますのでお構いなく」
「知ってるか?最近この辺りは事故が多いそうだ」
「そ・・・・・っ・・・・そうなんです、か」
「この時間に女性が乗って運転手に襲われた、という事件もあったな」
あったかな!?
「どうする?」
・・・・・どうもこうも。
こんな話し聞かされて。
いやでもこれでこのまま送ってもらうことにしたらそれこそ相手の思うツボ。
「・・・・タクシー、待ちます」
「そうか、残念だ」
・・・・私だって、彼のことは嫌いじゃない。
決してうちの情報を得ようとしたことは1度もないし、
優しいし。
間違いなくイケメンでもある。
でもここで落ちる訳にはいかないのよ。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・通らないようだな」
「なら呼べばいいだけのことです」
そうよ最初からそうすれば良かったのよ。
スマホを取り出してタクシー会社にかける。
が。
コール音は鳴るものの、一向に出る気配がない。
「・・・・何故」
「大変だな、これじゃあ帰れないだろう」
「・・・・・・っ、シャンクスさん」
「喜んで」
「私まだ何も言ってませんけど!?」
「車を出す。構わないだろう?」
「・・・・・・・・・お願い、します」
・・・・・・ああ、結局こうなるのね。
「そこ右です。あとはまっすぐ」
「了解」
「・・・・一応先にお伝えしておきますが、私から引き出せる情報は皆無と言っても過言ではありません」
シャンクス氏はあくまで目の前を見据えて落ち着いた様子でハンドルを握ったまま、
「情報の為に近づいたと思われたなら心外だな」
「違うとでも?」
「勿論。純粋な好意だ」
「・・・ロミオとジュリエット、みたいですね」
「・・・それは嬉しいな」
「・・・嬉しいですか?」
悲劇のお話しなのに?
「ロミオとジュリエットは両想いだ」
「た・・・・・!!」
確かに!!
例えたものがまずかった!!
「この地位は他の奴に譲ってもいいと思ってる」
「え・・・な、何が・・・」
「そちらと同じ会社の平社員になってもいい」
「・・・・何で、そこまで」
私のことを。
キィ、と車が止まった。
ああ・・・赤信号。
「止められなくなっちまったんだ」
「・・・何を、でしょう」
「欲望を」
「怖っ」
「アコの真剣な顔、キラキラした目、飾りのない笑顔、もっと見たい。あわよくば」
くい、と顎を持ち上げられた。
そして耳元で、
「俺のものにしたい」
低く、囁かれた。
「・・・・・ここでいいです」
「ん」
「家すぐそこなので。有難う御座いました」
「ああ・・・気を付けて」
苦笑するシャンクス氏に、
「返事・・・少しお時間下さい」
「気長に待つさ。いい返事をな」
伝えたいこと。
「悲劇にはさせませんから」
「・・・・それは」
「あ、信号青です。さようなら」
後ろの車からクラクションが鳴って、
「・・・また会えるのを楽しみにしてる、ジュリエット」
・・・・そう言い残して彼は去って行った。
気障な人。
翌日会社に相談したら、
相談する前にさっさと返事しなさいよ、
可哀想じゃないの!
うちは気にしなくていいからさっさとモノにしちゃいなさい!
と怒られた。
・・・・私のものに、なってもらえるかしら。
ロミオ。
なんてね。