短編⑤
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「ショック」
「ショック受けることないだろ」
「受けるよ・・・・ああ・・・・」
悲しみが止まらない。
何がそんなに悲しいのかと言うと、
『女性ファンに大打撃ですねこれは!』
『でもおめでたいことですねーあの大俳優のマルコさんがご結婚とは』
・・・・私の大好きな俳優さんが結婚したことだ。
「結婚出来ると思ってたのか?人気俳優と」
「思ってはいないけど!」
「ならいいだろう」
「良くはない!」
「アコには俺が居るじゃねェか」
さっきから悲しんでる私の隣で平然と答えてくれるのは幼馴染のシャンクス。
お互いもう30後半。
それでも昔と変わらない。
近くに住んでいて何かあれば会ってご飯食べたりする。
「・・・いらないもん」
「・・・そりゃさすがに傷つくんだがアコ」
と、全然傷ついてない顔で言う。
シャンクスが言ってることは冗談でも何でもなく本気なんだろう。
シャンクスは私に告白を30回、
プロポーズを5回した男だから。
告白はさすがに軽いこともあった。
『俺と付き合わないか?』
とか、
『早く俺の女になっちまえ』
なんてへらへら笑いながら言うもんだから、
私も私で『無理ー』なんて断ってた。
シャンクスのことは嫌いじゃない。
・・・・本気で好きな人が他に居たから。
好き。
・・・・だったんだよマルコが。
仮にも彼はテレビの中の人で、
私が惚れたのも探偵というキャラだったんだとしても。
だから今回のニュースはたぶんしばらく立ち直れそうにない。
珈琲をすすりながら、
「チャンネル変えていい?」
シャンクスに聞いてみる。
「いいぞ」
・・・美味しいケーキが手に入ったから食いに来ないか、なんてシャンクスの誘いに乗るんじゃなかった。
のんびりテレビ見ながら美味しい珈琲とケーキで最高の休みを過ごすはずだったのに。
シャンクスがつけたテレビからこんなニュースが流れて来るなんて。
とりあえず許可を得たので、ぽち、とリモコンでチャンネルを変える。
『いやーんショックですぅマルコさん好きだったのにー』
・・・・・ぽち。
『何とお相手は一般女性とのことです!』
・・・・・ぽち。
『マルコさんの代表作は・・・』
ぽちぽちぽちぽちぽち。
・・・・・ぶち。
「いいのか?テレビ」
「ごめん切った」
「俺は構わねェが」
だってどこもかしこもマルコさんのことばっかりなんだもん!!
何なの喧嘩売ってるの!?
「・・・・一般女性だって。相手」
「みたいだな」
「私だって一般女性なんだけど」
「そうだな」
「・・・好きだったのに」
落ち込む私に、
「何をした?」
「へ?」
シャンクスはケーキを食べながら冷たい視線を私に投げかけた。
「好きで、何をした?」
「・・・手紙書いたり」
「それだけか?」
「ラジオの公開録音の見学イベントに応募したり」
「はずれたんだろ?」
「・・・・そうだけど」
「それで終わりだ。その程度だ」
「・・・・だって」
「相手はアコの存在だって知りやしねェだろう」
「わかってる」
・・・・わかってた。
シャンクスは私に好きだと何回も言ってくれた。
結局私は、今まで誰かに好きなんて伝えたことはなかった。
それまでの気持ち。
人気俳優とどうこう出来る訳ないって心のどこかでも理解してた。
「・・・・わかってる、けど」
・・・・・・・私は。
「逃げるなよアコ」
・・・私は逃げていたかった。
シャンクスから。
自分の気持ちから。
突然シャンクスが近づいて来た。
私は動けない。
シャンクスの大きい手が、
ごつくて太い指が近づいて、
私の口元を掠めた。
「生クリームついてた。・・・いつまでもガキだなァアコは」
そんなとこも可愛い、と言いながらシャンクスは自分の指についたクリームをぺろりと舐めた。
・・・シャンクスの初めての告白は10代の時だった。
あの時似比べてシャンクスは背が高くなって、体つきも逞しくなった。
髭も生えたし。
・・・変わってないことなんかない。
「・・・そりゃそうだよね」
さすがに10代の頃から何も変わってない訳ない。
「ん?」
「テレビ、つけていい?」
「やってるもんは変わらんと思うが」
「もう立ち直った。私も大人だから」
「お、俺と結婚する覚悟が出来たのか」
「・・・マルコは人気俳優だからさ。浮気するかもしれないし」
「俺はしない」
シャンクスは自慢げに即答したけど、
私はたぶんマルコが浮気しても許せる気がする。
だって人気俳優だから。
でもシャンクスが浮気したらきっと許せない。
・・・許せない、から。
「シャンクスとは結婚しないよ」
言い切って最後のケーキを頬張った。
それからすっかり冷めた珈琲でごくりと喉を潤した。
「アコの考えてることを当ててみせよう」
「え?」
「自分と結婚したら俺は幸せになれねェ、そう思ってる。違うか?」
「う・・・・」
「まあ確かにアコは卑屈だな。でもそんなところも愛してる」
・・・・卑屈で悪う御座んした。
拗ねた私の頭をぽんぽんと軽く叩いたシャンクスは、
「安心しろ。アコの隣に居ても俺は自由だ」
「・・・・・っ」
「でもってアコが結婚してくれねェと俺は幸せになれねェ。本人が言ってんだ、信じてくれ」
・・・好きだから。幸せになって欲しいからシャンクスには。
「・・・信じろ、って言われても・・・」
「これでも?」
これでも、と机の上に差し出された小箱。
ぱか、とシャンクスが開けた。
中身は・・・・ダイヤモンドの指輪。
「・・・何これ最後のプロポーズ?」
「いや、何回でもするさ。受けてもらえるまでな」
「駄菓子ので良かったのに」
「でっかい飴のやつか?・・・心配しなくてもちゃんと似合う。・・・・ほら」
左手の薬指に。
・・・勝手にはめられてしまった。
「アコ。俺はお前とじゃなきゃ結婚しない」
・・・・・・重い。
これが今まで逃げてきた代償、かなぁ。
「私がうんって言わなかったら?」
「また後日だな」
・・・にっこりと笑顔でシャンクスが言う。
「・・・結婚はしない、まだ」
さすがにいきなり結婚はちょっと、と思った私の気持ちを知ってるかのように、
「結婚を前提に俺と付き合ってくれ、アコ」
今度は天然石のブレスレットが腕にはめられた。
「・・・・シャンえもん」
「悪いが四次元ポケットはない」
「離婚して慰謝料代わりにスペアポケットもらおうと思ってたのに」
ちっ、なんて冗談で舌打ちしたら目が合った。
「それで、返事は?」
悔しいけれど。
もう諦めよう。
「・・・・・・よろしくお願いします」
・・・もう、何回目の告白か忘れた。
数か月後、改めてプロポーズされたけどやっぱり何回目かは覚えてない。
・・・・でもそれはシャンクスにとって最後のプロポーズになりましたとさ。