短編⑤
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夜、親に隠れて暗いところで漫画を読むのが大好きだった。
楽しかった。
そのせいか、
それとも血のせいか。
・・・・・高校生の時、初めて眼鏡を買った。
コンタクトにしたら、と友達に言われたりもしたけど。
目に何か入るのは怖かったし、
眼鏡をするのは嫌いじゃなかった。
それから大学に入って今に至るまでずっと眼鏡。
幼馴染のエースは最近何故かやたらと眼鏡をやめろと言って来る。
コンタクトーコンタクトーと呪文のように言って来る。
もう眼鏡なしじゃ生きていけないのに。
「パソコンのやりすぎだろ」
「仕方ないじゃん、調べたいこともあるし」
課題のこととか。
「俺に聞けよ」
「エースに聞いてもわからないでしょ」
「だいたい眼鏡とか邪魔だろ?」
「そんなことないけど」
休みの日に一緒に映画を見て、お昼ご飯は定食屋。
そんなムードもへったくれもない、デートでもないただの日常。
食べてるものも至って普通、
エースは揚げ物。
私はまぐろ丼。
・・・色気も何もあったもんじゃない空気。
「この間ジェットコースター乗った時お前なんて言ったか覚えてるか?」
「・・・めがねー」
「私の眼鏡は渡さないからー!!だろ?」
「・・・・・そうだっけ」
そんな恥ずかしいこと叫んだっけ私。
「怖かったのか?って聞いたら眼鏡が落ちそうで怖かったって言ってたよな」
「だって高いんだよ眼鏡」
この眼鏡1コで今食べてるまぐろ丼何個食べれると思ってるんだ。
その時だってこんな普通の話しをしてただけなのに。
「・・・・つーかアレだろ、眼鏡してるとキスする時とか邪魔じゃねェ?」
「んーどうだろ。したことないしわかんない」
「・・・したこと、ねェのか」
「うん。ないけど」
彼氏どころか彼氏のかの字もまったくない人生だよ今のところ。
開き直った私。
エースはそんな私を見て、ちょいちょいと手招きした。
仕方なく身を乗り出して、
「何?」
顔を近づけた瞬間。
ちゅ。
そんな可愛い音。
・・・・一瞬だけくっついた唇。
「・・・・・・・・へ?」
「意外と邪魔じゃねェな」
・・・・呆然とする私と、
淡々と述べるエース。
「じゃ、そろそろ出るか」
「・・・・・・あ、うん」
ああ何だ、今のは幻か。
そう思って立ち上がったら、今度はエースが手を繋いできた。
そのまま手を繋いで、その日は帰った。
・・・・・・・・何も言えなかった私も私だけど。
・・・・・・・言えないよね!?
そんな空気なんて微塵もなかったのに!!
っていうかエースは好きのすの字も口にしてないのに!!
何なのどうしたらいいの!?
エースお酒飲んでないし酔ってた訳でもないもんね!?
・・・すべては眼鏡のせいなのか。
それから何だかエースと会いづらくて、
避けて来た。
女友達に、
『彼氏いいの?』
なんて言われたりしたけどエースは彼氏じゃない。
そう言う関係じゃない。
・・・・そういう関係じゃ、ない。
友達にそう言い返す度思い出す唇の柔らかい感触。
・・・・むず痒い。
でもこのままあの日のことをなかったことにするまで避けていよう。
そう思ってたのに。
その日は休みで、気分転換に駅ビルでショッピングでもしようかと外に出た。
勿論エースには注意して。
目的地に着く直前、
ポケットティッシュを配っている人が居たので何気なくもらった。
そこに織り込まれているチラシを見てもらわなきゃ良かった、と後悔した。
・・・・貴方もスグ!コンタクトデビュー★
だってさ。
そういえばエースは何だって私にコンタクトを進めるんだろう。
嫌だよって断ってばっかりで理由を聞いたことがなかった。
そんなに眼鏡似合ってないかなぁ私。
なんて考え事しながら歩いてたせいで、
ドン、と思いっきり人にぶつかった。
「あ、すみませ・・・・・・」
・・・・最悪だ。
「捕まえたぜ?アコ」
やっぱり視覚と注意は大事だ。
「・・・どうかご勘弁」
ずれた眼鏡を上げ直して懇願するけど、
「しねェ」
私がぶつかった相手、エースは私の腕を掴んだ。
「ちょ、エース」
「ちょっと付き合え」
「まままま待って眼鏡ずれる!」
「そのまま落ちろ」
酷いことをさらりと言ってのけたエースは、
「でもそしたらエースも見えないのに」
私のこの言葉にぴたりと足を止めた。
「・・・・かけ直せよ」
「ん。・・・・ありがと」
しっかりとかけ直した。
「だからコンタクトにしろって言ってんだろ」
「・・・でもそれって私の心配じゃないよね?」
今まで何度となく言われてきた台詞に、聞いてみた。
「心配じゃなきゃ何なんだよ」
「だから何なのって」
「心配してんだよ」
だって私は眼鏡が嫌じゃないって言ってるのに。
「何の心配?」
「・・・・お前が狙われてっから」
「私・・・・殺されそうなの!?エース守ってくれるよね!?」
ガーンとショックを受けた私の頭にもごつんとエースの手によってショックを受けた。
「いだい!」
「馬鹿か。そういうんじゃねェ」
「じゃあ何?」
でも考えてみれば眼鏡かけたことで殺されるとかあり得なさすぎるよね!?
「・・・眼鏡似合ってるよな可愛いよな俺告っちゃおうかなとか聞いてんだよこっちは」
「・・・・・こく・・・・ええ!?」
更に衝撃!!
「でっでも何でそれでエースが心配」
するの?
「アコが好きだからに決まってんだろ」
「・・・・・・・そうなの!?」
またまた衝撃!!
「だから何とかしねェとと思って」
「・・・思って?」
「キスして手ェ繋いで帰ってそれっぽい雰囲気でなし崩しに付き合えねェかと思ったんだが」
・・・・・・そんな馬鹿な。
「でも露骨に避けられるしへこんだ」
・・・凹んだ、というより今のエースの顔は拗ねてる。
「だって私・・・中途半端嫌いだし」
だからがっつりフチあり眼鏡だし。
「・・・遅くなっちまったけど、好きだアコ」
真剣なエースの瞳。
「エースは眼鏡かけないでね」
ずっと聞きたかった言葉。
エースの照れた、赤い顔。
ああやっぱり眼鏡あって良かったなぁ。
「・・・おい、俺に対する返事はねェのかよ」
「今のが返事」
「は?」
「だって2人眼鏡してたらさすがにしづらいと思うよ。・・・・・キス」
好きな人の顔はクリアに綺麗に見たいもん。
「・・・だからコンタクトにしろって言ってんのによ」
「エースがコンタクトにしてくれるって言うなら付き合う」
「約束してやるから絶対他の男と付き合うなよ!?」
「うん、付き合わない」
ぐい、と力強く私を引っ張ったエースは、
優しい優しいキスをしてくれた。
そして眼鏡越しに見たエースの真っ赤な顔は、
瞼の裏に焼き付けた。