短編⑤
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匂いがした。
社長のじゃない、匂い。
・・・・社長はお洒落だけど、香水をつけたりはしない。
「どうかしたかアコ?」
「・・・・いえ、何でも」
社長、と呼んで敬語を使う。
それでも私は、この人の・・・シャンクスさんの恋人。
交際1年の恋人。
違和感しかない社長に、
それでも私は笑顔を向けた。
・・・と言っても鋭いこの人にどれだけ誤魔化せてるかはわからないけど。
「腹減ったか?」
「食べましょう!」
今だに慣れないデート。
だってずっと、社長は雲の上の人。
ずっと叶わない恋だと思ってた。
・・・諦めてた恋、だったから。
まさか恋人になれるなんて思ってなかったから。
だからだろう、私がまだシャンクス、と呼べないのは。
私がこんなんだから愛想尽かして他の女の人と会ってるのかもしれない。
・・・そこまで考えて、いやいや駄目だと打ち消した。
そんな気持ちでデートするなんて社長に申し訳ない。
「社長、何食べたいですか?」
「そうだな・・・」
社長はあっさりしたものを好む。
おっさんだからな、と言いながらお蕎麦とか。
私も好きだから全然いいんだけど。
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社長が選んだお店は珍しく洋食のお店だった。
しかも、
「ここはパスタが美味いんだぞ」
と知ってる口ぶり。
・・・誰と来たんですか、なんて聞いてしまいたい。
1人で来るとは思えない。
とりあえず社長のおススメのカルボナーラを2つ注文した。
「それで?」
「え?」
「モヤモヤは晴れたのか?」
・・・やっぱり誤魔化されてくれてなかった。
「・・・ごめんなさい、とお伝えしたくて」
「そりゃ心当たりがあり過ぎるなァ」
「ぎゃふん!!」
苦笑しながら言われた言葉が胸に刺さった。
「今日までに必要だったプレゼンの資料」
「・・・あう」
「取引先への忘れ物」
「あばばば・・・・・」
・・・・ああ、でも。
プライベートのことは言わないんだ。
名前を呼ばないことも。
手を繋がないことも。
・・・・社長にとってはもう、
どうでもいいことだから?
「・・・・すみません、ほんとに」
「ま、もう終わったことだ」
「・・・はい」
「過ぎたことをいつまでも悔やむ必要はねェ。何より一生懸命やってるのを俺は知ってる」
「・・・有難う、御座います」
「なぁアコ」
「は、はいっ」
「・・・・何かあるなら言ってくれねェか?」
真面目な社長の顔に一瞬躊躇って、
「・・・社長香水とか、つけてましたっけ」
「香水?いや、つけてないが」
「・・・・ですよね」
ああ、やっぱり社長のじゃなかった。
じゃあやっぱり女の人の。
・・・移り香。
「なるほど」
社長がくくっ、と笑った。
「・・・何ですか」
「女の物だと?」
「思っ、」
「カルボナーラお2つですー」
口を開いたところでパスタが来た。
「・・・・頂きます」
熱々のカルボナーラ。
濃厚で美味しい。
「どうだ?」
「美味しいです、とっても。・・・・でも、これだって」
「・・・これだって、何だ?」
「・・・社長あんまりこういう店来ない、のに」
「そうでもないぞ」
「え」
そうなの!?
「アコと付き合うようになってからは1人でも来ることもある。食べてみれば美味いところは美味いモンだ」
「そ、そうなんですか・・・・?」
「納得したか?」
「じゃ、じゃあ匂いは!?いつもの社長の匂いじゃなかった!!」
「香水の匂いだろうな」
「でもつけてないってさっき・・・」
あまりにも社長がしれっと言うから驚きを隠せない。
「これだ」
トン、と置かれた可愛くラッピングされた袋。
「・・・香水」
「オーダーメイドだ」
「おっ・・・・・・」
「ここに来る前に寄って作った」
「・・・いい、香り」
「気に入ってくれたか?なら今度のデートから頼む」
社長はにこにことご機嫌。
「頼む?・・・私に、ですか?」
「おう、アコのイメージを伝えて作ったたモンだからな。・・・今日だろう?」
1年の記念日は。
そう言われて頭が真っ白。
「ご・・・・・・・・ごめんなさい・・・」
すっかり忘れてました!!!
「だっはっは!気にするな!」
「・・・・・あ、あの・・・」
・・・・これで終わったら本当に嫌われてしまう。
「・・・まだ何かあるのか?」
「・・・・っ、し、シャンクス、さん・・・」
初めて名前を呼んだ。
そして、
「帰りは、手を繋いで帰りたいです・・・・っ」
「・・・ああ、勿論だ」
嬉しそうに笑ってくれた社長にほっとした。
・・・・あと気になるのは、
「私のイメージなんて伝えたんですか?」
「内緒だ」
「えー・・・・・・」
『いつも一生懸命で真っ直ぐで目が離せない可愛い俺の恋人』
だったなんて私は知ることは出来ない。