短編⑤
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「何でそんなへらへらした顔で言うんですか!?最低です!」
見損ないました、と泣きながら帰って行く女性を見送って、
1人の女を思い出した。
・・・笑ってくれたのは彼女だけだったな。
今でも懇意にさせてもらっている大学の後輩。
大学の時に、俺に告白してくれた時のことは今でもよく覚えている。
「す・・・・好きですっ」
雰囲気で何となく察してはいた。
彼女の好意も、わかってはいるつもりだった。
だがその時は彼女は本当にただの可愛い後輩で、
それ以上でもそれ以下でもなかった。
自分の気持ちが変わるとも思わなかった。
なので、
「・・・・すまん」
困った、と苦笑を隠さず断りを告げた。
泣かれるのは面倒だな、と正直思っていたら彼女は・・・アコはへらりと笑った。
「だろうなあと思ってました。すみません、言いたかっただけなんです」
だから大丈夫です、と微笑んでぺこりと頭を下げた。
・・・だからだろうか、
アコと今でも付き合いが出来るのは。
今まで告白して来た女性とのほとんどは付き合いはない。
あれからずっと、俺が会社を立ち上げた今でも。
俺の役に立ちたいと側に居てくれるアコには感謝しかない。
「アコ、昨日は飲み過ぎただろう大丈夫か?」
酒を飲み過ぎる俺を心配してよく家に来てくれる彼女は、
たまに俺と酒を楽しんでは潰れた俺を介抱してくれる。
そのまま家に泊まることもある。
「シャンクス先輩程飲んでないので大丈夫ですよ。朝ご飯出来てます、どうぞ」
「お、この味噌汁がまた美味いんだよなァ」
「あ、私お弁当作ったんです」
「俺の弁当?いいのか?」
「是非」
本当によく尽くしてくれる。
「・・・悪いな、助かるよ」
「いいえ、お役に立てれば嬉しいです。行ってらっしゃい」
アコが作ってくれた弁当は見た目は勿論味にも文句なしの出来だった。
・・・・こんな弁当が毎日食えたらな、と思っちまうなァ。
とは言え会社を立ち上げた以上のほほんともしてられねェのが現状だ。
「取引中止?」
「若いのが何かやらかしたらしい、どうする」
大学時代からの悪縁でついてきてくれたベックが
お手上げ状態の最悪な状況。
・・・災難てのは続くもんで、
「社長、大変です!」
トラブルが次々に舞い込んだ1日。
疲れ果てて家に帰ったらアコが居た。
「あ、おかえりなさいシャンクス先輩。今日は肉じゃが作ってみたんですけど」
「弁当を買って来た。いらねェ」
「・・・わかりました。今日はお酒程々にして下さいね」
苛々している、どうしようもなく。
「・・・あまり彼女面しないでもらいたいんだが」
自分でも驚く程冷たい声が出た。
「・・・・そうですね。今まですみませんでした」
アコも少しの驚きを見せながらも、あの時のように笑って帰って行った。
それからトラブルの対処に追われ、
あっという間に月日は過ぎて行く。
・・・・あれからもう、アコは来てない。
そのうちまた来るだろう、などと気楽に考えていた。
いや、考えないようにしていた。
彼女が来ない理由を。
・・・そんな風に過ごして2年が過ぎていた。
思い返してみれば彼女にも仕事あり、私生活があったんだと当たり前のことを思う。
それでも頻繁に顔を見せては笑顔で世話を焼いてくれた、アコ。
行ってらっしゃい、と笑顔を見せてくれてたのにな。
・・・・あの弁当、また食いてェなァ。
こんなことを言う資格はないのはわかっちゃいるが、
会いたくて・・・・仕方がない。
「その困ると笑う癖、いい加減直せ」
「・・・・参った」
ようやく会社が落ち着き始めたかと思った頃合い。
社員の退職が相次いでいる。
原因は間違いなく俺だろう。
八つ当たりだけはしないようにと心がけていたが、
顔や態度に出ていたらしい。
退職を引き留めようと説得を試みても上手くはいかなかった。
「あんな時くらい真剣な顔してみろ」
「・・・・・すまん」
アコならこんな時どうしただろう。
・・・・どんな顔を、しただろうな。
息抜きがてら久しぶりに行きつけだったバーに行くことにして、
ドアを開けて驚いた。
「・・・・・アコ」
そこには間違うことのないアコが1人で居て。
俺と目が合うなりすぐに逸らし、
「すみませんお会計を」
立ち上がって出て行こうとするのを抱きしめて止めた。
「・・・・っアコ」
今ここで逃げられたら恐らくもう2度と会えないだろうからな。
「シャンクス先輩・・・えっと」
アコは少し戸惑った様子を見せながらも、
外に出ませんかと提案した。
それに頷いて、近くの公園のベンチに座った。
「謝って済むことじゃないのはわかってる。だがそれでも謝りたかったんだ、あの日のことを」
ずっと言いたかったことを、ようやく言えた。
「・・・あの日、彼女面をしないでくれと言われて私その通りだなって思ったんです」
アコは少し寂しそうに微笑んだ。
「そしたら今までの自分が恥ずかしくなって・・・もう会うのも連絡するのもやめようと思いました」
でも、と笑うアコの目には少し涙が浮かんでいる。
「でもやっぱり諦められなくてあの店に通ってたんです」
あそこはシャンクス先輩の行きつけのお店だから。
「そう、だったのか・・・」
「でも今日で会えなかったらもうそれも終わりにしようと思ってて」
だから本当に驚きました。
「・・・・こんな俺でも、愛していると言って、いいか?」
今でも俺を想ってくれていたことにたまらなくなり、
抱きしめた。
「・・・・ずっとその言葉を、待ってました」
(シャンクスもそんな真剣な顔出来るのね)
恋人になった彼女の第一声がそれで俺はまた破顔するしかなかったのは言わないでおこう。
エースver
↓
↓
↓
↓
↓
仲間に男も女もねェ。
俺はそう思ってる。
だから、
「エースのことが好き」
そう言ってくれたアイツ・・・アコのことも。
大事な仲間だと、思ってる。
「・・・悪ィ俺、お前のことそんな風に思ったこと、ねェ」
「うん。知ってた」
「え」
アコと一緒にいるのは楽しい。
女だからと気を遣ったこともねェ。
・・・・でもだから、これは恋にはなれない。
大事な仲間を失うのか、と痛みを覚えながら返事をすればアコはばっさりと言い切った。
「エース見てればわかる。脈はないって」
「お、おう・・・」
「でももうすぐ卒業でしょ?大学は違うとこだし」
だから言いたかったの。
・・・中学から高校とずっと一緒だったんだ。
だから俺がフっちまっても、
出来れば一緒に居たかった。
「ま、これからも仲良くしてよ。ね」
「・・・こ、こちらこそ」
とは言え気まずくなるだろうと思っていた俺達。
・・・まったくそんなことにはならず、
今まで通りに過ごせたのはアコのおかげで、
大学は違っても頻繁に会っていたし、
俺だけじゃなく弟の面倒も見てくれたりと何かと世話を焼いてくれた。
そんな俺も社会人。
「腹減ったァ・・・」
今日も残業で遅くなった。
腹ぺこでふらふらで家に帰れば、
「おかえり。激辛ペペロンチーノ出来てるよ」
「マジ!?いっただきます!」
「の前に手ェ洗う!」
「おう!」
「洗濯物は今乾燥中だから」
「おーさんきゅ」
「ルフィは今日お友達のとこ行くから帰りは遅くなるって」
「りょーかい」
好きでやってることだから気にしないで、と。
お互いが社会人になった今でもこうして来てくれる。
「じゃあ私は帰るから。明日朝はいつも通り?」
「頼む」
朝は俺が寝坊しないようにモーニングコールをくれる。
「はいはい、じゃあね」
「たまには送って行くぜ?」
「夕飯冷めちゃうでしょ、いいから」
「・・・気を付けて帰れよ、何かあったらすぐ電話しろよな」
「ありがと。じゃあ、またね」
「・・・・またな」
玄関でアコを見送って部屋に戻れば、
綺麗に整頓された部屋。
今朝はぐちゃぐちゃだったのにな。
・・・鼻腔をくすぐるいい匂いに皿に盛られたペペロンチーノにがっついた。
「エース、お前またやらかしてんぞ」
「えっ何処だよ」
「ここ。ちゃんと見とけ」
「・・・・悪い」
「あとこの資料、明日までに提出な」
「今からかよ!?」
「文句言うな」
・・・何だよ。
昼飯もろくに食えてねェってのに、仕事が重なって行く。
・・・苛々する。
「・・・・つっかれた」
「おかえりエース。今日は肉じゃがだよ。ルフィは先に食べてる」
「・・・おー」
「あ、あといつも言ってるけど洗濯物裏返しにしたまま出すのやめてよ」
「・・・・わァってるよ」
「あとお弁当箱も今出して」
「うるせェな」
「・・・・エース?」
「彼女ヅラすんな、うぜェ」
イライラを隠せなくて、彼女に当たった。
口に出してからすぐにハッとなるももう遅い。
出ちまったもんは戻せねェ。
アコは少しの沈黙のあと、目に涙を浮かべたまま笑った。
「そうだね。今までごめん」
「・・・・・・っ」
そうしてそのまま出て行ったアコは翌日も、その次の日も。
1ヵ月、2か月。
・・・・2年過ぎた今も、うちには来てない。
「なあエース、アコもう来ないのか?」
「・・・忙しいんだろ」
「肉じゃが美味かったなーまた食いてェな!」
「俺が作ってやるよ」
「エース全然作ってくれねぇじゃねーか!」
・・・そうだよ、仕事が忙しくて疲れてんだ。
でもそれはアコだって一緒の筈で。
それでもたまに来ては飯作って掃除して洗濯して。
あいつにだって嫌なことはあったはずなのに。
俺にはいつも笑顔だった。
フったときも、うざいと言い放ったあの時でさえ。
俺はあいつに甘えるだけで。
・・・情けねェ。
「・・・・会いてェ」
あの笑顔に。
「やべェ寝過ごした!!」
アコが来なくなってから寝過ごすことが増えた。
家ん中はぐちゃぐちゃだし、
飯はコンビニ弁当がほとんどで。
ルフィと喧嘩することも増えた。
家に帰りたくないのが半分、息抜き半分で常連のバーに久しぶりに顔を出すことにした。
「あ」
「・・・・・・あ」
思わずお互いに声が出た。
目が合ったその女は間違いない。
「アコ、」
「すみませんお会計を」
アコは俺から逃げるように立ち上がり会計を済ませた。
「っ待てよ!」
やっと会えたんだ逃げられてたまるか。
咄嗟に抱きしめれば、
「え・・・っと、あの。とりあえず外に、出ません?」
何処かよそよそしいアコにショックを受けながら、
近くの公園のベンチに座った。
「あの日のこと・・・謝りたかったんだ、ずっと」
謝って済むことじゃないのはわかってる、それでも。
「私さ・・・あの日エースに言われて納得しちゃったの」
「・・・彼女ヅラするな、ってやつ?」
「そ。その通りだなって思ったら今までの自分が恥ずかしくなって」
合わせる顔なくなっちゃった、とアコは笑った。
俺が見たかったのはこんな笑顔じゃねェのに。
「もう会いたくなかったよな、俺なんか」
「・・・・あのお店がエースの行きつけだって私知ってた」
「え・・・た、たまたまじゃ」
ねェのか。
「行けばエースに会えるかなって。でもそれも今日で諦めようと思ってたの」
だから驚いた、と悪戯が成功した子供のように笑う彼女が愛しくて。
たまらず抱きしめた。
あんな酷いことを言った俺をまだ思ってくれてた。
「・・・こんな俺でも愛してくれるか?」
「とっても不本意なんだけどね、私はエースしか愛せないの」
「・・・っ好きだ」
(初恋は叶わないってアレ嘘だね)
(え、お前の初恋俺!?)
(そりゃ中学の時から好きだったもん)
(・・・すんません)