短編⑤
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「エース、私と別れて」
「嫌だ」
「・・・・もう無理なの」
エースは私の重大な言葉に動揺する様子もなく、
「無理じゃねェだろ?」
私を抱きしめようとする。
私はそれを必死で振り払った。
「嫌っ」
「・・・・アコ」
「・・・もう、駄目なの」
「駄目じゃねェ」
「エースは大丈夫かもしれないけど、私はもう・・・・っ」
もう限界なの。
エースと付き合うことが。
最初は楽しかった。
幸せだった。
・・・・でも途中で苦しくなって。
何回も喧嘩した、
何回も悩んだ。
「俺は気にしねェ」
「私は気になるの!」
「動けばいいだろ?」
「動いてもその分食べちゃうんだもん!!」
「だとしても体重が理由の別れなんて納得出来る訳ねェだろ!?」
「エースと別れたらきっと痩せられるもん!」
「絶対無理!」
「無理じゃない!」
・・・・もう何回目になるだろう、この口論。
エースは良く食べる。
しかも美味しそうに食べる。
恋人のエース。
・・・・そんなエースに付き合って私も良く食べるようになった。
またエースが美味しそうに食べるもんだから、
私も美味しそうに思えてきて食べちゃう。
そしてその結果。
体重はみるみる増加した。
スカートが・・・きつい。
「着れる服もなくなってきちゃうの!」
「今着てるのも可愛いぜ?」
「ワンピースはね、ウエストが締め付けられないから楽なの」
「いいじゃねェかそれで」
「毎日ワンピースって訳にいかないの!」
「・・・訳わかんねェ」
エースが不機嫌そうに呟く。
・・・・私がこんなに辛い思いしてるのに。
私はこんなに太ったのに、
エースは全然太ってない。
・・・・ように見える。
だから余計に悔しいし苦しい。
「・・・エースにはわかんないよ」
「ああ、わからねェな。ちょっと太ったくれェで別れなきゃいけないっつーのは」
「食べることは乙女の敵なの!」
「食うことは生きることだろーが。っつーか抱きしめさせろ!」
「太ったから抱き心地がいいって言いたいの!?」
むきー!!
「前から抱き心地良かったから心配すんな」
「前から太ってたと!?」
じゃあ今更にやばいじゃん!
「んなこと言ってねェだろ!?」
「だってそういうことでしょ!?」
「・・・他に好きな奴が出来たんじゃねぇだろうな」
じと、とエースに睨まれた。
「そんなんじゃない」
「じゃあ俺のことが嫌いになったのか?」
「エースのことは好き」
・・・・嫌いになりそうだけど。
というか食べても食べても痩せてるところは嫌いだけど。
「じゃあ別れる必要なんかねェだろ」
「だから・・・・っ」
再びムキになって口を開いたところで強く腕を引っ張られて、
私は簡単にエースの腕の中。
「・・・・エース、嫌」
「太ってようが痩せてようがアコはアコだろ?」
「やだ、離して」
「・・・離さねェ」
「・・・・・太ったのに」
「関係ねェって言っただろ?」
「うー・・・・・」
「別にアコが食いたくねェなら俺は無理強いするつもりはないぜ?」
「だってエースが美味しそうに食べるんだもん」
「美味いからな」
「私だって食べたい」
「そりゃ俺だってよ・・・美味いモンを好きな奴と共有出来たら嬉しい」
「えっ・・・・」
「何だよ」
「エース・・・共有なんて難しい言葉知ってたの?」
「・・・・お前な」
驚いてぱっとエースの顔を見たら呆れ顔のまま近づいたエースが、
ちゅ。
ほんの一瞬だけの、掠めるだけのキス。
「・・・・キスは嫌がらねェんだな」
「キスは体重関係ないもん」
「・・・ぷはっ、そりゃそうだ。じゃあもう1回」
「・・・ん」
今度は深くて、優しいキス。
「・・・・・好きだ、アコ」
「・・・・私も、好き」
「別れたくねェ」
エースのストレートな言葉は私の心に突き刺さった。
・・・私だって本当は別れたくない。
でもこのままぶくぶく太って行って、
見るに堪えない姿になったら。
きっとエースにだってフられちゃう。
「要は食っても痩せりゃいいんだろ?」
「え・・・・・うん」
「これから交通手段は全部歩きにしようぜ」
「・・・・・・は?」
「疲れたら俺が抱っこしてやってもいいけど」
「なっ何言ってっ」
「あと夜の運動とかな?」
「・・・・・っ馬鹿」
「な、アコ」
「・・・・・うん」
エースは私の大好きな酷く優しい笑みで、
「俺と一緒なら歩けるだろ?」
「・・・・歩く」
エースと一緒なら何処へだって歩くよ。