短編⑤
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「それ本気?父さん」
「・・・・・すまん」
「・・・・・このご時世にそんなのあり?」
どうやらこのご時世に私、
大学を卒業と同時に売られるらしいです。
父の借金の代わりに。
知らない男の人と結婚。
まさかそんなことが自分の身に起こるとは思ってもみなかった。
「とりあえず相手の人と今度会ってくれないか・・・?」
「相手は私でいいって言ってるの?」
「お前がいいんだそうだ」
「・・・・そう」
それなら仕方ない。
某大手会社の社長だそうだ。
「初めまして。父がお世話になっております」
「そう固くならないでいい・・・と言っても無理か」
シャンクスだ、と名乗って名刺をくれた人。
鮮やかな赤い髪。
人好きのする笑顔。
一見気さくで良さそうに見えるけど、
借金の代わりに人を要求するような人だから要注意。
「お心遣い大変痛み入ります」
「・・・・ちなみに聞くが、父上からは何と?」
「借金の代わりに私が貴方の妻になると」
正直に話せば、シャンクスさんは思い切り苦笑を見せた。
「それは俺は望んでないんだが・・・・」
「え!?は!?」
「さすがに会ったこともない女性を嫁にする程酔狂じゃあねェ」
「じゃあ私は何故ここに!?」
驚きと共に、良かった割とまともな人だった、とほっと安堵した。
「顔は好みだったんで、何度か会ってみて良さそうならプロポーズするつもりだ」
「ち・・・ちなみにそれ私に拒否権は」
「勿論ある。その気のねェ女と結婚するつもりはない」
良かった!すっごく良かった!
あ、でも1個問題がある。
「ちなみに父の借金はその場合・・・・」
「全部帳消し、とはいかねェが減額はしよう」
「本当ですか!?」
「ああ。仮にも大事な娘を俺に預けてくれてるんだ、それくらいは構わねェ」
いい人だ!
「しかし・・・・」
シャンクスさんはまじまじと私を見つめる。
「な・・・何か?」
「お嬢さんは俺と結婚する覚悟で来たみたいだな」
そして挑戦的な笑みを浮かべた。
「まあ、一応は」
「自分の借金の為に娘を売るような父親の為に、か」
事実だ。
それはわかっていてもムっときた。
「お言葉ですが、もしあなたと結婚したとしても言いなりになるような娘には育てられておりません」
何処にいても何があっても私は私でいるつもりです。
そう伝えれば、
「だっはっは!気に入った!」
・・・・彼は大変愉快そうに笑った。
「・・・・それはどうも」
「まあ結婚云々の話しは置いといて、仲良くなろう。アコ、と呼んでも?」
まずは握手、と手を出されたのでどうぞ、とその手を握った。
・・・・・変な人。
「卒業後の希望は?」
「今就職活動中です」
場所は変わってホテルのラウンジのカフェ。
「内定は?」
「ま・・・・まだです」
「今は大変だろう」
「ええ、とっても」
「うちで働くか?」
「・・・・・え」
思ってもみない提案に心が動いた。
就職活動はそれはもう大変。
「勿論アコの希望の職種に合えば、だが」
「事務です」
「それならちょうどいい、空きがある」
「じゃ、じゃあ面接の日取りを・・・!!」
「いや、内定の書類を出しておく」
サクサク決まりすぎて逆に怖い!!
「駄目です!ちゃんと面接して下さい!」
でないと後からこんな筈じゃなかったみたいにモメても嫌だし。
「・・・わかった。正式な面接の日取りは後で決めよう」
「お、お願いします・・・・」
しゅ・・・・就職活動の苦悩の日々が終わるかもしれない。
いや、結婚するかもしれないと思って来てはいるから半ば諦めてはいたんだけど。
「ちなみにもしシャンクスさんと結婚することになっても仕事は」
「続けたいなら続ければいい」
「・・・・寛大でいらっしゃるんですね」
これは嫌味でも何でもなく思ったこと。
それに対してシャンクスさんは、
「そうか?アコの父上程じゃねェさ」
「・・・・父が、寛大」
「ああ。何せ友人の借金の保証人になって逃げられても許すくらいだからな」
「・・・・それが父です」
私の、自慢の。
父は自分の口からは保証人なんて言わなかったけど。
たぶんそんなことだろうなあと思ってた。
・・・・馬鹿だなあ。
泣きそうな顔で笑って頭を下げた父を思い出す。
途端、ぽん、と頭の上に乗せられた大きな手。
父とは少し違う、安心感。
「逃げた友人は必ず俺が見つける。心配しなくていい」
「え・・・・・」
「だからそんな顔をするな」
「・・・・御社で働かせて頂けるなら給料はいりません、借金の返済にあててください」
「それはちっと問題だな。給料はちゃんと振り込む」
「・・・・シャンクスさん」
・・・・いい人だなあ。
「言っただろう?必ず見つけると」
「・・・・はい」
「万が一駄目だった場合は・・・そうだな、その給料の中から差し支えない分だけ返してくれりゃあいい」
「・・・・っ有難う御座います」
シャンクスさんは泣きそうな私の瞳を覗きこんで優しく微笑む。
「似てるな、父親に」
「・・・そう、ですか?」
「ああ。全額返金は出来ない、自分はどうすればいいかと俺に聞いて来た」
「・・・それで、シャンクスさんは」
「それならいい女を紹介してくれ、と」
「それが私?」
「いい女ならうちの娘以外には居ない、と父上は言い切った」
「うっわ、恥ずかしい!!」
「本当にいい女だ、恐れ入った」
「・・・・どう、も」
嘘や社交辞令じゃない、不思議とそう思えた。
・・・胸が、締め付けられる。
「・・・・金で女を買う気はなかったが」
「・・・・・が?」
「・・・もし、無理やり結婚を迫ったらどうする?」
「借金を帳消しに?」
「ああ、勿論」
「・・・・シャンクスさんが、私を程よく知ったうえでそうおっしゃるなら」
「受け入れる、か」
「ぐぅの音も出ない程幸せにして差し上げます」
「だっはっは!!!面白いな!俺が憎くはないのか?」
「憎む理由はないです」
「無理やり結婚を迫っても?」
「そうですね」
「・・・裏切りじゃねェ、と言い切れるか?」
「迫ったところで決めるのは私ですし」
「俺を・・・・許せるか?」
「勿論」
父が信頼してる人だし。
「・・・・すまないが、面接はナシだ」
「えっ」
私何かやらかした!?
「俺に永久就職しないか?勿論これはそちらの気持ち次第だが」
「えええええ!?」
「幸せにしてくれるんだろう?」
「そ・・・・そうですけど・・・!!」
「こんないい女を見過ごすのは忍びないからな」
そりゃあ1度は本気で結婚するかもしれない覚悟はしてきたけど!!
・・・・そりゃあ、素敵な人だとは思うけど。
「えっと・・・・えっと・・・・!」
「借金云々は考えなくていい。答えも今すぐじゃなくていいんで、考えてくれると嬉しい」
「・・・・は、い」
「うちで働きたいならそれでもいい」
俺は、と彼は言う。
「1人の女性として・・・愛したいと思ったのさ」
・・・・・・このご時世。
こんな出会いもありかもしれない。
後日、逃げた父の友人は無事に捕まり、
シャンクスさんの会社で働いてその人がお金を返すことになりました。
私はと言えば、
無事に大学を卒業し、シャンクスさんの会社で働きながら、
シャンクスさんとデートを重ねる日々。
・・・・いつか、
彼に永久就職。
するかもしれない。