短編⑤
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私は元々、人に頼ることが苦手。
そして海賊船に乗ることが決まって、
もっと出来なくなった。
ここでは皆想像以上に優しいけど、
甘えちゃいけない。
・・・今でも強く、そう思っている。
1度だけ、船長に呼ばれたことはある。
俺達は家族だ、と。
言われたのはそれだけ。
何をしろ、とか。
そういうことは一切言われなかった。
今思えばそれはきっと船長なりの・・・父なりの優しさだったんだと思う。
家族だから、もっと頼れ、と。
気持ちも言葉も嬉しかったけど、やっぱり私には誰かを頼るのは苦手で。
どうしようもないことは頼らざるを得ないけど、
皆だって大変なんだと、1人で頑張る。
「お疲れさまでした」
怒涛の夕飯、明日の朝の下ごしらえも終わった。
「お疲れ、アコちゃん」
「お疲れ様ですサッチさん、私部屋に戻りますね」
「あ」
「え?」
「・・・・あー。何でもない、おやすみ」
「・・・おやすみなさーい」
サッチさんが何か言いたさそうだったけど、口を噤んだので私の何も言わなかった。
変なの。
不思議に思いながら部屋に戻って数分した頃。
コンコン、と大人しめのノック音。
「はーい」
「今いいかい?」
ドアを開ければマルコさんが立っていて、
「どうぞ」
珍しいな、と思いながら招き入れた。
マルコさんは入るやいなや私をじっと見て、
「左、だねい」
と訳のわからないことを呟く。
「・・・左?」
「見せろよい」
「え、あ」
そして私の左手を取って。
「腱鞘炎だな、痛むだろい?」
「え」
ずばりと言い当てた。
・・・・実は今日料理してる時からちょっと痛かった。
でも皆には一言も言ってないのに。
「サッチに言われたんだよい、見てやってくれってな」
「・・・サッチさん、が」
「俺が言っても聞きゃしねェだろうってよい」
「お手数をおかけしてすみません・・・」
「下手だねい、アコは」
「え、美味しくなかったですか・・・!?」
「飯の話しじゃねェ、甘えるのがってことだ」
「それ、は・・・」
「どうせ料理中も痛かったんだろい?」
「でも支障はなかったですし、たいした痛みじゃ・・・」
「ほっとけば悪化する、そんくらいわかるだろい」
「・・・はい」
心配かけさせまいと黙ってたんだけど、
結局迷惑までかけてしまった。
私がマルコさんのもとへ行けば良かった。
落ち込んだ私を見兼ねたらしいマルコさんは苦笑して、
「アコが甘え下手なのは皆知ってるよい。だが俺達は家族だ」
もっと頼っていいんだよい、と優しく頭を撫でてくれた。
「・・・有難う、御座います」
その言葉は本当に嬉しい。
・・・・嬉しい、けど。
「ンな困惑された顔で言う言葉じゃねェだろい」
「すみません・・・」
「謝ることでもねェ」
とりあえず、と手首に湿布を貼られた。
その上に包帯をくるくると器用に巻いていくマルコさん。
「念のため明日の朝は安静にしとけよい」
「え、でも」
明日の朝もやることが、
と言いかけた私を制して、
「サッチには俺から言っておく。医者の言うことは聞いとけ」
マルコさんは笑う。
「・・・・・よろしくお願いします」
「納得してないって顔に書いてあるよい」
「・・・そんなに痛くないんですよ?」
「それでもだ。こういうのは最初が大事だからねい」
「・・・わかり、ます」
「アコ、よい」
「はい」
・・・怒らせちゃっただろうか、と少し不安になったけど。
「家族だから心配や迷惑をかけたくねェってのもわかるが、考えてみろい」
「何を、でしょう」
「俺が和の国の珍しいモンを食いたいと言ったらどうする?」
「何が何でも材料手に入れて作りますね」
「それは迷惑かい?」
「・・・いいえ、むしろ嬉しいです」
どうやら怒ってはいないみたい。
優しく諭すように話してくれる。
さすが長男。
「だろい?そんなもんだ」
「・・・なるほど」
「・・・とは言え、いきなり甘えるのは難しいんじゃないかい?」
「・・・そう、ですね」
「ならまずは俺だけに甘えてみるといい」
「マルコさんに!?」
それ1番難しくない!?
「まずは癖をつけることだよい」
「癖・・・・?」
「どうしよう、と思ったら俺の顔を思い出す癖をつけるんだよい」
「はあ・・・」
「どうしようでなくてもいい。誰か、と思ったら俺んとこに来いよい」
「・・・わかりました、やってみます」
私のそんな返事に満足したようにマルコさんは頷いて、
私の髪をくしゃっと撫でてから部屋を出て行った。
・・・・誰か、か。
そんなことそうそうないよね?
・・・と思っていたけど。
翌日。
もうすぐ島に着くらしい、と誰かが言っていたのを聞いて。
私は今回買い出し係りじゃない。
誰かと一緒に見て回りたい。
・・・・誰か。
・・・・マルコさん。
いやでもマルコさん忙しいもんね。
絶対断られるに1票。
・・・・でも、駄目モトで。
お誘いだけでも、とお昼頃顔を合わせた時に聞いてみたら、
「行くよい」
「え、いいんですか?」
「俺が下見に行ったところだ、美味い飯屋も知ってるよい」
「是非!!」
誘って良かった!
「さすがマルコさんのおススメ・・・絶品でしたね」
「だろい?舌には自信があるよい」
マルコさんを頼って良かった。
マルコさんも心なしか嬉しそうだし。
「有難う御座います!」
「これからも俺を頼れよい」
「はい!」
「・・・約束だ」
「・・・・っはい」
指と指を絡めて。
約束。
それからマルコさんを頼ることが増えた。
マルコさんだけは頼れるようになった。
それを見て父さんも嬉しそうに笑ってくれて。
「いい傾向だねい」
マルコさんは時折私にも甘えてくれる。
団子が食べたい、とかサッチさんのこととか愚痴を聞かせてくれたり。
だから私も遠慮なくマルコさんに頼ることが出来るようになった。
ああそっか、助け合う。
これが家族なんだ。
「これからは他の皆にも甘えられます」
マルコさんももっと喜んでくれる。
そう思ってたのに。
「駄目だよい」
「へ・・・・?」
まさかの笑顔で拒絶。
「アコは俺だけを頼ってりゃいい」
「ま・・・・マルコ、さん?」
でもその笑みは、黒い。
「悪いが俺以外の男にその顔見せる訳にゃいかねェんだよい」
ちゅ、と額に落とされたマルコさんの分厚い唇。
「は」
「いいだろい?」
「・・・・・・・・・・は、い」
・・・・・・・・・私もしばらくマルコさんを独占したいと思ったので。
ま、いっか。
(実はマルコさんの作戦だったとは)