短編⑤
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子供の頃はよく、
『知らない人に着いて行くんじゃないよ』
とか言われたし、
実際気を付けてはいたけど。
もういい大人なんだし、自分の身にそういことが起こる訳ない。
・・・・・・・と、思ってたのはさっきまで。
ふかふかのベッドに寝かされていた私は、
起きてすぐに状況を理解した。
・・・・仕事帰りに歩いてたら、
いきなり道路に止めてあった車のドアが開いて。
そこから出て来た人に強く腕を引っ張られて引きずり込まれた。
そのまま薬みたいな匂いがして、意識を失ったんだ私。
・・・・・・・これが誘拐?
でも親は遠いところに住んでいるし、
私自身貧乏だし。31歳だし。
・・・・何より私は今、手足が自由。
怪我もなさそうだし。身体がちょっとだるいくらい。
車の中で見た赤い髪の人が犯人なんだろうか。
だとしたらそんな人知らない。
恐る恐るドアに近づいて耳を澄ませる。
・・・・声がする。
男の人の声。
でも何て言ってるかまではわからない。
ドキドキしながらドアを小さく開けてみた。
赤い髪の男の人の背中が見えた。
・・・・と、向かいに黒髪の男の人。
何を話してるのか聞きたくて身を乗り出したら、
黒髪の人と目が合った。
あ。
それに気づいた赤い髪の人が振り返って。
・・・・鋭い視線でこっちを見た。
それからすぐに黒い髪の人が、
「俺はもう行く。あとは勝手にしてくれ」
と呆れ顔で言い、出て行った。
赤い髪の人はその人を見送った後私のところに近づいてくる。
左目に3本の傷があるその人は強面で私を睨みつけながら目の前にやって来た。
私は、動けない。
「具合悪かったりしないか?」
え?
思いもがけず優しい表情と、気遣いの言葉。
どうしよう、と頭の中で必死に考える。
誘拐された時の心得。
犯人とはなるべく接触をした方がいい。
顔を見て話すことによって情が移り生き残れる可能性が高くなるってどっかで聞いたことある。
「・・・・は、い」
本当は強く引っ張られた腕が少し痛いけど、下手に刺激しない方がいいよね。
これが誘拐だとしてもそうじゃないとしても。
「とりあえずもうすぐ飯が炊けるんで待っててくれるか?」
「・・・・はあ」
何を言われるのかと思いきやいきなりご飯の話し?
「嫌いな物は?」
「ほとんど食べられます」
「そりゃ良かった。今日は野菜炒めだ、悪いが凝ったモンは作れねェ」
人好きのする笑顔、っていうのはこういうのかもしれないと思う程の笑顔。
どう答えようか迷ってるうちにピーピーという電子音が聞こえて、
「お、炊けたな。そこの椅子に座ってくれ」
台所らしき場所に赤い髪の人が向かった。
・・・・何コレ。
「さあ、飯にしよう」
目の前に出されたお茶、ほかほかのご飯に美味しそうな野菜炒め。
・・・・何で私誘拐犯と和やかにご飯食べてるの。
今更私誘拐されたんですか?とか聞けないんですけど。
・・・・っていうかこれ、
「味薄・・・・」
思わず呟いたら目の前の赤い髪の人が面食らった顔をしたので、
「あ、すみません・・・・」
すぐ謝ったんだけど。
「・・・・すまん」
・・・・落ち込ませてしまった。
「良ければ作り直して来ましょうか?」
「恥ずかしい話し料理は苦手なんだ、助かる」
台所を借りて塩と醤油を少し足して、
フライパンで炒めなおした。
「・・・・こんな感じ、です」
「すごいな、格段に美味くなった」
作り直したものを出したらぱっと笑顔になった、赤い髪の人。
「・・・赤い髪の人」
「ん?」
「私は貴方の名前を知りません」
「ああ、そうだったな。俺はシャンクスだ、アコ」
・・・私の名前を知ってる、この人。
駄目モトで聞いてみようかなぁ。
「あの・・・私明日、仕事が」
あるんですが。
「悪いが休んでもらう」
ああ、やっぱり駄目なんだ。仕方ない。
「ちなみにどれくらい休めば・・・・?」
「1ヵ月、ってとこだな」
「1ヵ月!?・・・・給料が」
もらえない。どころか解雇決定だ。
ガーン、とショックを受けた私を見てシャンクスさんが笑った。
「心配ない。そっちの方は俺達が上手く伝えておこう」
え、誘拐犯が事情説明して首繋げてくれるの?
何それ。
「ところで、デザートにチョコレートプリンはどうだ?」
「え、頂きたいです」
・・・・何それ。
チョコレートプリンまで用意してくれてる誘拐犯とか聞いたことない。
・・・このまま監禁とかされるのかな。
いそいそとシャンクスさんが美味しそうなプリンを持ってきてくれたところで、
「私・・・外に出ちゃ駄目、ですか」
「1人での外出は禁止だ。・・・だが俺と一緒になら何処へでも行こう」
・・・・それならまあ、いいか。
怖い人じゃなさそうだし。
「何処に行きたい?」
「え、えと・・・」
急に聞かれても困る。
「アコの希望はなるべく叶えるつもりだ」
せっかく仕事休んで出かけられるなら。
「遊園地、とか」
遊びたいけど・・・無理だよね、いくらなんでも誘拐犯が遊園地なんて許してくれる訳。
「ああ、いいな」
いいの!?
・・・・・さすがに怪しくなってきた。
この人、誘拐犯じゃない?
甘いプリンを食べながら考える。
・・・・プリン美味し。
「アコ、ついてる」
「え?」
返事をする間もなくシャンクスさんの手が伸びてきて、私の頬のプリンを掬い取った後、
彼はそれをぺろりと美味しそうに食べた。
わ・・・・私のプリンだったのに!!
「・・・ちなみにこれっておかわりあったりします?」
「気に入ったか?もう1個なら用意してある」
「明日食べたいです」
「何なら明日一緒に買いに行こう、近くのケーキ屋のなんだ」
遊園地にケーキ屋に、って。
何だか。
「・・・・デートみたいですね」
思ったことをそのまま言っただけなんだけど、
シャンクスさんはそれはもう幸せそうに笑った。
「そうなるといいと、思っている」
「・・・・・・・へ」
予想外の反応に間抜けな声が出た。
「しゃ・・・・シャンクスさん」
「シャンクスでいい。何だ?」
「貴方は何者?」
ずっと聞きたかった、質問。
彼はさらりと大変なことを口にした。
「言ってなかったか?公安、と言えばわかるか」
公安、って。
公安警察?秘密裡に重大な組織と戦ったりするアレ?
「公安警察!?」
「そんなところだ。とある組織に命を狙われている女を守るのが今の俺の仕事でな」
言いながら手帳を見せてくれた。
・・・・・・本物、なの?
「じゃあその人のとこ行かなきゃ駄目じゃないですか!?・・・・・って」
もしかしてそれ、
「ああ、それがアコだ」
「私が命狙われてるんですか!?」
どこぞの知らない組織に!?
「本人に知られないよう守るべきとの命令を受けている」
「え、でもこれ」
「・・・俺が側に居て守りたいと、命令に背いた」
「わ・・・私としては有難いですけど・・・何で」
もしそれが本当なら心強い。
「一目惚れ、と言ったら笑うか?」
「ひっ・・・・」
私に!?
そっと手を握られて。
ちゅ、と彼の唇がくっついた。
「とにかく俺が居る限り傷1つつけさせねェから安心してくれ」
「よ・・・よろしくお願いします!」
半年後。
料理をしながらシャンクスを待つ少し髪の伸びた私が、
この家にいるなんてことは。
・・・・まだ知らない。