短編⑤
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溢れ出る涙をそのままに廊下に出て、
ひたすら走った。
もう無理なんじゃないか、と言われた。
船を降りた方がいいんじゃないか、とも。
原因はさっきあった襲撃の際、
怪我をしたこと。
別にたいした怪我じゃなかった。
でも船医さんに、
「女なんだからあまり身体に傷を作るな」
と。
悔しかった。
そりゃ確かに私は戦闘要員じゃないし、
弱い。
でも怪我することは、
気にしてない。
・・・・・・・・・私が怪我をすると皆心配する。
だから、
何も言えない自分が1番悔しい。
早く自分の部屋に行って思いっきり泣こう、
そう思ってスピードを速めた瞬間すれ違った誰かに腕を掴まれて止まった。
「っ!?」
「そんな急いで何処行くんだ?アコ」
「おか、しら」
そのままお頭の片腕に閉じ込められて、身動きが取れなくなった。
顔は見えないけどわかる。
真面目なお頭の声。
「怪我、酷かったのか?」
「・・・・・・・・いえ、かすり傷です」
「じゃあ何で泣いてるんだ?」
「泣いてません、1人にして下さい」
お頭のことは尊敬してるし好きだけど、
今は側に居て欲しくなかった。
けれどお頭の腕の力は強くなる一方で。
「駄目だ」
「・・・・・・・離してください」
「嫌だ」
「おかしら・・・・っ!」
「こんなアコを1人にはさせられないだろう」
お頭の気持ちは嬉しいし、感謝もしてる。
でもそれでもやっぱり、
「1人じゃないと泣けないんです」
「今泣いてる」
「もっと泣きたいんです」
「このまま泣けばいい」
「だからっ、1人じゃないと、泣けなっ」
いい加減にして、と声を荒げた瞬間。
強い力で無理やり顔をあげさせられて、唇を奪われた。
「・・・・・・・・っ、ん、・・・・・・あ」
そしてゆっくりと離れていくお頭の顔。
怒っているような、そんな表情で。
「なら泣かなきゃいい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
そんな顔で何を言うのかと思えば。
「1人でなきゃ泣けないんなら泣かなきゃいい。俺が居るのに1人になんてさせない」
「1人で泣きたい時もあるん、です」
言いながら段々と落ち着いてくる自分が居た。
何かお頭の意外すぎる発言にもうさっきまでの気持ちが薄れていく。
「・・・・・せめて泣いてる理由だけでも聞かせてくれ」
今度はそう辛そうに歪められた顔に心が少しだけ痛んだ。
「・・・・・私が怪我すると皆心配、してくれて。船医さんも、心配」
「何を言われた?」
「女が傷を作るな、って。・・・・・・・船、降りた方がいいんじゃないか、って」
俯いて小さく呟いた言葉。
「・・・・・・・・・・船を降りたいのか?」
強張ったお頭の声に、ぶんぶんと思い切り首を横に振った。
「降りたくないから、悔しかったから泣いてたんです」
そう言えば、頭の上にぽん、と優しく乗せられた大きな手。
「守れなくて悪かった、アコ」
「お頭に謝って頂くことはありません、私に問題があるだけです」
「お前を泣かせたのは俺の責任だ。・・・・そりゃ1人で泣きたい時もあるだろうが」
「・・・・・・・・・はい」
わかってるなら泣かせてくれれば良かったのに。
そう思ったひねくれた私に向けられた笑顔。
「俺がいるうちは出来ないと思っとけ」
「へ、」
「それともう傷は負わせねェ。絶対にだ」
「え、あの、」
「今までは嫌がられると思ってあんまり言わなかったがな、アコ」
「え、え、ええと」
「これからずっと俺の側を離れるなよ」
強く、そして酷く優しいその瞳に射抜かれて。
「言われなくても」
涙はもう、完全に止まった。