短編⑤
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来るんじゃなかった、合コンなんて。
くっそつまんない。
「アコちゃん飲んでるぅ?」
「飲んでます」
むしろ飲むしかすることないし。
もうだいぶ酔ってるように見えるこの男の人はどっかの社長さんだっけ。
名前は忘れた。
いい人いなかったなあ。
・・・・・私、欲深いのかしら。
「ねえねえ俺さ、ぶっちゃけアコちゃん狙ってるんだよねえ」
酒臭い口元を耳元に寄せて来たので背中が粟立った。
ぶっちゃけ貴方アウトオブ眼中なんですよねえ。
・・・・と簡単に言えればいいんだけど。
「あ、お刺身もらいまーす」
目の前にあった新鮮そうなお刺身に手を伸ばせば、
彼はちぇ、と舌打ちして移動した。
あーあ。
せめて美味しいものたっくさん食べて帰らないと損だわ。
「ワサビと醤油、いるか?」
「あ、ども」
すっと差し出された醤油とワサビ、そして小皿。
見るとそこにはさっきちょっとだけいいな、と思った男性だった。
シャンクスさん。
この人も会社の偉い人だったと記憶している。
幹部がどうこうとか言ってた。
この人をいいな、と思ったのはへらへらしてなかったから。
合コン、と言うより会社の取引先とでも会っているかのような挨拶だった。
・・・・顔もまあ、悪くない。
でもまあ他の女性からのアプローチも激し目だし、
面倒なことになるのも嫌だから関わらないでおこうという結論に至った。
お刺身を口に入れて、堪能。
んー美味しーい。
「つまらなさそうだな」
と、シャンクスさん。
「わかります?」
「顔に書いてある」
「お刺身が美味しいんでそれで十分」
「さっきの男に口説かれていたんじゃないのか?」
「さあ?」
「枝豆も美味いが」
「頂きます」
うん、いい塩加減。
私をこの合コンに誘ったナミは3番目くらいに人気のある社長さんといい感じに見える。
アコも目指すのよ、玉の輿!
と私を誘った時と同じように目が円マークになってる。
「美味いだろう?」
「ビールおかわりもらおうと思うんですけどシャンクスさんどうします?」
枝豆にはやっぱりビール、ともうすぐ空になりそうなグラスを見て電子機器を手に取った。
「ビールが好きなら近くに美味い店を知ってるんだが、2人でどうだ?アコ」
「・・・ビールが美味しいお店?」
「ビールは注ぎ方によって味も変わって来る」
何処か挑戦的な笑みに何故かそそられた。
「・・・・興味、あります」
「決まりだな」
先にシャンクスさんがこっそりと抜けて、
次に頃合いを見計らって私も抜け出た。
シャンクスさんに案内された店はこ洒落た店で、
でも敷居は高くなくて一安心。
と思ってたら、
「え、社長?」
さっきの紹介の時は確か幹部くらいに思ってくれ、とか言ってた気がしたけど。
「ああ、実は」
「・・・・何でそれさっき言わなかったんです?」
「金で女性を釣るようなやり方はどうもな・・・・否定はしないが俺は苦手なんだ」
「じゃあ何で私には・・・・」
「さっきITの社長に口説かれても興味がなさそうだっただろう?」
ああ・・・・さっきのあの人ITの社長だったのか。
「お金には興味ありましたけど人間性に興味を持てませんでしたので」
「だっはっは、正直だな!」
なんて話をしている間にビールが到着。
「・・・・・これが?」
「神泡だろう?」
「・・・・なるほど」
確かに泡は綺麗だ。
注ぎ方に力を入れているらしいこちらのお店のビール。
「泡と一緒に飲むんだ」
「じゃあまあ、乾杯」
「乾杯」
ごくり。
ああ、これは確かに。
「美味しい・・・・」
味も違えば喉越しも違う。
「気に入ってもらえたみたいだな」
「とっても。・・・ところで抜けて来ちゃって良かったんですか?」
「どういう意味だ?」
「シャンクスさんおモテになってたようだったので」
これは嫌味でも何でもなくただの事実。
とは言っても、シャンクスさんも私同様お目当ての女性が居なかったので、
暇を持て余してた私を誘ったんだろうなあとは思うけど。
「ああ、本命はここにいるから問題ない」
「・・・・・へ」
予想外の答えに間抜けな声が出た。
目の前の彼はあくまでにこにこ。
「十分満足だ」
「・・・・ご、合コンなんて興味なさそうな」
感じだったのに!!
「興味がなかったら来てないな」
そりゃそうだ!!
「何で私・・・・」
ITの社長が移動した時、色気より食い気女だ、と話していたのを知ってる。
そんな私を。
「食べ方が綺麗だった」
「・・・・食べ、かた」
「ワサビを醤油に溶かさず刺身の上に乗せて食べていたな?」
「あ・・・ええ、その方が美味しいから」
「食べ物の本当の食べ方を知ってる、それだけでも十分魅力的だ」
くわえて、と彼が私の顎をくい、とやった。
「顔も好みだ」
・・・・良く見てるなあ。
「あなたも美味しいビールの飲み方を知ってる人ね」
「光栄だな。金に興味があるならちょうどいい、玉の輿の乗る気はないか?」
「あら、金で女は釣らないんじゃなかったの?」
「本命なら話は別だ」
「お金がなくなったら別れるかも」
「そんな女性とは思ってないが・・・それでもいいさ」
・・・・前言撤回。
来て良かった。
「とりあえずは飲み友からってことで」
いい飲み友達が出来た。
・・・・まあ、その飲み友達は。
数年後旦那様になるんだけども。