短編⑤
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ごくごくごくごく、
「・・・・・ぷはーっ!!」
乾いた喉を潤してくれる炭酸。苦み。
ああ、最高。
「今日もよく動いてくれたからな、お疲れさん」
お頭の労いの言葉もまた嬉しい。
「有難う御座います。今日は月も綺麗だしお酒も美味しいし・・・いい夜ですねえ」
「ああ・・・いい夜だなァ」
「今日もたくさん、笑ったなあ・・・・」
「ああ、たくさん笑わせたな俺が」
「もうあの変顔禁止ですからね」
「これのことか?」
って言ってる側から。
「っ、や、も・・・・あはははっ!!やだもう!!」
昼間にお頭が変顔を見せて来てツボに入った私はもう大変。
「いい顔してるぞアコ」
「もう、笑い疲れちゃいました・・・禁止ですよ!?」
「わかった、わかった」
ホントにわかってるのかなあ。
いや絶対わかってない。
「・・・私、だって」
「ん?」
「私だっていつかお頭のこと大笑いさせてやるんだから」
「だっはっは、そりゃ楽しみだ!だがその可愛い顔は崩してくれるなよ」
「いえ、変顔には変顔で対抗します!」
「そいつは残念だなァ・・・・そんなお頭の言うことが聞けない奴にはお仕置きだな?」
赤い顔のお頭がにやりと笑う。
「じゃあこっちだって!変顔禁止って言ったのに変顔したお頭にお仕置きです!」
「ほう、いいぞ」
「む・・・・」
「ほら、どうした?」
何処か挑戦的な笑みのお頭。
・・・お仕置きって何すればいいのかしら。
「いいですか!しっかり私を見てて下さいよ!?」
「了解」
両手で頬をむぎゅう、と押した。
そして目もあらぬ方向へぎょろり。
「・・・・ぷっ、ぷははは!こりゃあ、また可愛い顔だな!」
「やった!」
お頭を笑わせてやったわ!
「だが、やったな?」
「え?」
両頬を押したことによって突き出た唇が。
ちゅう。
お頭の唇と重なった。
「な・・・・・なんてことを!!」
「言っただろう?お仕置きだ」
「乙女の唇を奪うなんてええええ!!!」
怒る私にお頭はただ笑う。
「だっはっは!!」
でもその笑いの中にぽつりと、
「どうせ忘れちまうだろう」
小さく言葉が聞こえた気がしたんだけど、
なんて言ったかは聞こえなかった。
「・・・何か言いました?」
「いや、何も」
「・・・そう、ですか?」
「そんなことより飲め飲め、せっかくの夜だ!」
グラスが空になる度に注がれていくお酒。
負けじと私も、
「お頭も!」
と注ぎ返す。
・・・お頭は、お酒を飲むと今みたいにスキンシップが激しくなる。
元々少なくない人ではあるけど。
酔うと人肌が恋しくなるんだろうか。
船に居る女性が私くらいで申し訳ないなあと思う反面、
お頭に叶わない恋をしてる私にとっては嬉しいもので。
甘えてくれるなら、甘えて欲しい。
今みたいな過激なのはあんまりないから驚くけど。
でもどうせ・・・・こんなに飲んで、酔ってたら。
明日になったらきっと忘れる。
だから私も忘れたフリをする。
そうしてこの叶わない気持ちに蓋をする。
「ぷはぁぁぁ・・・・・・」
「随分と気の抜けた声だな、今敵船に襲われたら大丈夫か?」
「その時はお頭が守ってくれるから大丈夫でーす」
「・・・随分と、信用されたモンだな」
「あら、駄目ですか?」
お頭が苦笑したので思わず困惑した。
いつもは自信満々に守ってやるって言ってくれてるのに。
「いや、駄目なことはない。・・・・アコには指1本、触れさせやしねェさ」
「・・・有難う御座います」
「だが・・・・」
「だが・・・・?」
お頭がふと空を仰いだ。
「襲うのが敵船だけとは限らねェ」
「はい?」
ぐっと身体の距離が、近づいた。
「例えば俺がいる」
その言葉の意味を考えた。
・・・・お頭が私を襲うの?
「お頭に殺されるんなら仕方ないかなあ」
嫌だけど敵う訳もないし。
少し考えてそんな答えを出したら、
「だっはっは!そうとったか!」
と笑われた。
「あれ」
「こっちの方だ」
ばたん。
軽く押されて床に倒された。
「・・・・・・・俺が、アコを女として見てないと思ってたなら悪いな」
「・・・・・お頭、今日はもうお酒やめましょう?」
私の言葉にお頭は眉を顰めた。
「・・・酒のせいでこうしてると思ってるな?」
「だって」
そうでなきゃおかしい。
「まあ、実際飲み過ぎちゃいる。酒の力を借りねェと動けねェのも情けないが事実だ」
「・・・・はあ」
「だが毎度毎度肝心なことを忘れるほど酒に溺れちゃいねェつもりだ」
「へ!?」
「お前は・・・今日のこのことも忘れるか」
「は!?」
え!?覚えてたの!?今までのこと!?
「どうせ忘れちまうんなら、素面じゃ惚れた女に手を出せない男にいい思いをさせてくれねェか」
「・・・・・・覚えて、ます」
口にするか迷って結局口にした。
「・・・覚えて・・・る、のか?」
「・・・先週の宴では抱きしめられました。その前は膝枕しましたよね」
「・・・・随分飲んでたと思ったが」
「私だって・・・・好きな人との触れ合いを忘れるくらい酒に溺れたりしません」
「・・・・そう、か」
「今日のことも覚えてると思うか?お互いに」
「忘れる訳ありません」
輝く赤い髪の後ろに見える星と月。
目を閉じれば降って来た唇の温かさ。
こんないい夜を、
どうして忘れることが出来るだろう。
それから少しずつ、
恋人になっていきましたとさ。